組織開発×プロセスワークVol.7〜組織に潜むランクに向き合う〜
組織開発で組織間や個人間の対立・葛藤を扱っていく中で役立つ、プロセスワークの重要な知恵が「ランク」という考え方です。
これはすべての関係性に影響を与えている要素であり、私たちが「なんとなく気づいている」こともありながら、無自覚に使われることで、組織の変革を大きく阻害する要因になっているものです。
4種類のランク
ランクとは「人間関係において、その人が有している特権やパワー(影響力)」のことであり、上下の力関係の感覚を伴うものです。
人間関係においては誰しもが必ず何らかのパワー/特権を持っており、場に影響を与えています。また、本人が気づいているものと気づきにくいものがあり、無自覚にランクを使うことがトラブルのもととなります。
ランクは、「外側から与えられるもの」「内側で獲得するもの」という大きく2つに分類されますが、前者は時と場合、状況によって変化しやすく、後者は時と場所、状況が変わっても失いにくいという特徴があります。また、必ずしも「弱者=ランクが低い」ではなく、ランクは多様であり、文脈によっても異なります。
組織におけるランクに纏わるリスクの1つは、他のパワー(ランク)の出現がなくなることです。組織にとって大切な声が失われると、多様性を失い一面的になりがちです。結果としてイノベーションや必要な変革が生み出しづらくなります。
ランクの特徴と影響
また、ランクをなくしてフラットにすることを目指すという動きも目にしますが、これは失敗するケースがほとんどです。ランクとは組織や関係性において常に存在するものであり、意識的にフラットな関わりを標榜しても、実質影響を与え合うランクがなくなることはありません(例:コミュニズムにおいて階層がなくならなかった事実など)。ランクとパワーの平等を求めるのではなく、ランクとパワーを自覚し、それを一人ひとりが強みとして活用していくことが組織変革において重要な視点となります。
ランクは毒にも癒しにもなります。
力には中毒性があります。既得権益とよく言われますが、ポジションにつき力を手に入れる状態は心地よいのです。あるいは、上司として部下へ、親として子どもへ、もし力が不適切に使われるとしても、それは当人にとっては善意と心地よさがあるため気づきにくい状況になります。ランクが自覚されない時、気づかないところで誰かが抑圧されている可能性があるのです。
一方、ランクの高いポジションにある人が、ポジションランクを否定して引き受けない(自覚しない)と、組織やチームの機能不全を招く可能性もあります。逆にランクが肯定されると自己肯定や自己信頼が高まり心理的安全性に貢献します。自分自身のランクをしっかりと自覚し、享受できているとそれが強みになり、喜んで他者に貢献するというポジティブな連鎖が起きていきます。
特に経営者やリーダーが自分自身のランク(影響力)を自覚し、それを組織や人々のために役立てていけるかは、組織の変革をリードする上でも不可欠な要素になります。私たちバランスト・グロースの顧問であり、プロセスワークの師匠でもあるスティーブン博士の口癖である「Use Your Rank Skillfully」という言葉に集約されますが、ぜひ下記を参考に変革リーダーの皆さまがより効果的に自身の影響力を発揮できるかという観点でもランクの視点を持ち込んでみてください。
そして変革リーダーの皆さんには、以下のような問いを投げかけてみると自分自身のランクとの向き合い方が見えてきますので、ぜひコミュニケーションの材料として活用ください。
ランクの見立て方
では組織開発を推進・支援する立場として、そもそも組織の中にあるランクをどのように見立てるとよいのでしょうか。ランクはシグナル(目に見えて把握できるサインや情報)に現れるものであり、以下を参考にぜひ組織内にどのようなランクがあるかに意識を向けてみましょう。
実際の組織変革の場面ではランクの自覚が変革の成功を左右する大きな要因になる場面も多いものです。例えば、事業部トップの肝煎り施策が前進しない時、部課長がトップの意向に沿いすぎて現場とのズレが扱われていなかった、というケースは多く見かけます。ランクに抵抗できないために、ランクの低い現場は周縁化されてしまうのです。現場は自分たちが上から「理解されていない」と思い始めます。結果として変革アクションは上から降ってきた新しい負荷として認識され、やがては大きな抵抗要因に繋がってしまいます。ある変革事例では、事業部トップが自身のランクの高さと影響力が想定以上だと認識され、変革に誰よりも前のめりであったのに一歩引く姿勢を見せられました。するとミドルマネジメントが立ち上がり、現場も隠れていた不満を表出させて、活発な議論・対話を重ねることで変革を自分たちごととして腹落ちさせるようになりました。現場が最初はランクの低さゆえに無力感を感じていた状態から、自分たちが立ち上がることを理解したことで自己効力感を高め、心理的にもランクを高めていったことが印象的です。
周囲の人に自分自身が持っているランク、特権、影響力について聞いてみると、人との関係性や自分自身の行動に関する気づきを得ることに役立つでしょう。経営者や人事・組織開発担当者、コーチやファシリテーターにとっても自分自身のランクに気づくことは組織に関わっていく中で助けになります。
プロセスワークではランクはそれだけで非常に大きなテーマであり、個人、組織、社会の変化・変革を促す上でも不可欠です。組織開発に取り組む中でもランクの視点を持ち込み、関係性の対立に潜む無自覚の行動に気づきを生み出しながら、その先にある行動変容へと繋げていきましょう。
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