新聞が読めるようになるニュース解説#4「リコール」ー愛知の署名偽造事件(前編)

 こんにちは。 あひる編集長です。 今回は、愛知県知事へのリコール署名偽造事件について取り上げます。 事件の経緯を簡単に説明した上で、そもそもリコールとは何か、という点について説明します。

事件の経緯①(発端は芸術祭)

 それでは今回の記事です。

 大村秀章・愛知県知事へのリコール署名偽造事件で、愛知県警は19日、地方自治法違反(署名偽造)の疑いで、運動団体事務局長で元県議の田中孝博容疑者(59)=愛知県稲沢市=ら4人を逮捕した。 (以下略)<5月20日付朝日新聞1面>

 愛知県知事を辞めさせるための署名を集めていたが、なかなか集まらなかったので、他人の名前を勝手に書いて偽造した、という逮捕容疑です。 偽造は愛知から遠く離れた佐賀県で行われ、何も知らないアルバイトに名簿を渡し、署名簿に住所、氏名、生年月日を書き写させた、とのことです。

 ただ、本人が罪をみとめているかどうかについては明らかにされていません。

 署名が始まったきっかけは、2019年に開幕した国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の「表現の不自由展・その後」という企画展。 昭和天皇らの肖像が燃える映像などが公開され、それらの作品に対して抗議が殺到。 名古屋市の河村たかし市長も「日本人の心を踏みにじる」と強く批判しました。

 この芸術祭の実行委員会の会長を務めていたのが、大村知事でした。 河村市長の批判に対し「表現の自由」だと反論。 かつて「盟友」と言われていた2人ですが、亀裂は決定的となりました。

事件の経緯②(知事に「NO」で署名開始)

 さて、河村市長の意見に同調し、大村知事を強く批判した有名人がもう1人います。 「YES 高須クリニック」でおなじみの高須克弥院長です。 高須院長は、大村市長をリコール、つまり辞めさせるための団体を設立。 昨年8月25に署名活動を開始しました。

 その団体の事務局長として、署名集めの中心的役割を担ったのが、今回逮捕された田中容疑者です。 1995年から愛知県議を2期務めましたが、その後は落選続き。 次の衆院選に日本維新の会から出馬を予定していたそうです。 かつては俳優として活動していたこともあったとのこと。 確かに俳優向きの、がっちりした顔立ちをしています。 気になる方は新聞の顔写真をご覧ください。

 署名の提出期限は11月4日。 それまでに約86万7千人分の署名を集めなければなりませんでした。 しかし、集まったのは約43万5千人分で、結局リコールは不成立となっています。

事件の経緯③(署名の偽造方法)

 署名の偽造方法についてですが、新聞、テレビ局各社が報道しています。 佐賀県で偽装が行われたのは、署名の提出締め切り直前の10月下旬でした。

 リコール団体はまず、名古屋市の広告代理店に署名を偽造するアルバイトを集めるよう発注。 広告代理店は、複数の人材紹介会社にアルバイトを集めるよう依頼した、とされています。

 実際に偽造が行われたのは、佐賀市の佐賀県青年会館。 アルバイトたちは、住所、氏名、生年月日が書かれた名簿を渡され、提出用の署名簿に手書きで書き写していった、とされています。

 署名簿は愛知県選挙管理委員会に提出されましたが、約43万5千人分のうち、約36万2千人分が無効とされました。 無効署名のうち、90%が複数の同一人物によって書かれたものだったのです。 事態を重く見た選挙管理委員会は、警察に告発しました。

 余談ですが、署名偽造のアルバイト動員が発覚したのは、西日本新聞と中日新聞の報道がきっかけです。西日本新聞は「あなたの特命取材班」と銘打ち、ラインなどの通信アプリを通じて情報を募集しています。ネットを通じてアルバイトの参加者から事件に関する情報が寄せられたことで、事件が明るみに出たのです。

 「足で稼ぐ」と言われていた記者の仕事も、変わりつつあるなあと感じました。このことについては機会がありましたら書きたいと思います。

次回へつづく

 冒頭で「事件の経緯を簡単に説明」すると言っていましたが、経緯が思いのほか長くなってしまいました。リコールの制度そのものについては、次回の記事で「後編」として解説したいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございます。ご覧の通り、まだ手探りの状態です。記事についてのアドバイス、こんなことを解説してほしいというリクエスト、などなど、下のコメント欄、またはツイッターからお寄せください。