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平坦な国の最長の川 

ラトビア最長の川であるガウヤ川(Gauja)は長い。452kmである。日本最長の川は信濃川だが、その距離は367kmだから長さとしてはガウヤ川には及ばない。ラトビアの国土は東西に長く、北海道のおよそ80%の国土を持つ。
地図を見るとその流れが面白い。日本の河川はたいてい一直線なのだが、ラトビアの場合は高低差がほとんどないため、どんな流れにもなり得る。

ラトビアの国土とガウヤ川(Gauja) 出典:wikimedia

ちなみに、ラトビアの最高峰はガイジンカルス(Gaiziņkalns)という丘で312mでそれ以上高い地点はない。この国がどれだけ平らなのかイメージできるだろう。
およそ1ヶ月ほどラトビアに滞在していた2022年は、このガウヤ川に出会うことが2回あった。
1度目に出会ったガウヤ川は、実はガウヤ川がリガ湾に流れ出るその河口までのクルーズツアーに参加した。そこはツァルニカヴァ(Calnicava)というヤツメウナギの王国と呼ばれるその土地に出かけた時だった。ヤツメウナギ漁はガウヤ川で仕掛けられ、地元では8月にヤツメウナギが食べられるそうだ。
このクルーズツアーでは、河口までほんの数キロの川を往復したのだが、ほぼ止まっているというのに近い流れの中を、ボートのエンジンで掻き分け進んでいくようなものだった。

ガウヤ川

7月末ヴァルミエラ(Valmiera)というラトビア北部の町に立ち寄った。ラトビア滞在も最後というところで、北海道東川町と姉妹都市であるルーイエナ町(Rūjiena)に向かう前日に1泊した。
予約していたドミトリーは、時期はずれだったためか街の中心に位置しているにもかかわらず、私の他はどこかの国から来た自転車旅をしている男性2人組だけだった。オーナーも気を遣ってくれたのか、ドミトリーは私と彼らが別の部屋に配分されて、自動的に4ベッドがある部屋に1人で一晩過ごすこととなった。
ドミトリーを出て散策に出かけた。目指すは博物館である。その街の博物館はその風土を示唆する材料なのだ。
博物館から出て外を見ると川が流れている。川の方に近づいていくと、ガウヤ川だった。ツァルニカヴァで見たほぼ止まって見えたガウヤ川の上流が今私の目の前を流れる川なのだ。この流れは上流にも関わらず相変わらずゆっくりだった。

川沿いの散歩道をスーパーで買った飲むヨーグルトを飲もうとのんびり歩いていると、そこには「VALMIERA(ヴァルミエラ)」と書いてあるのだった。そう、この地はラトビアを代表とするヨーグルトメーカーの本拠地だった。
そしてそのメーカーは私がえらくハマった飲むヨーグルトを作っていたのだ。
ハマったヨーグルトというのはピニャコラーダ味のヨーグルトドリンクである。あるとき、リガで試しに買ってみると、非常においしかったのでスーパーで見つけるたびに買っては飲んでいた。とあるラトビア人のお宅に宿泊させてもらった時に、このドリンクの話をしたらたちまちその家の全員もハマってしまったという麻薬的な代物だった。
ベンチに腰をかけ、ヨーグルトを飲みながら川を見つめると、その水はどちらが下流かわからないほど流れが止まって見えた。高低差がない土地の川は上流から流れ落ちるということではなく、ゆーっくりと少しずつ進み、まるで日本の川とは違う流れ方をしていた。じーっと見るとその流れは左から右に流れている。
ほんの少しずつ進んでも、停滞しているかのように見えるかもしれないけども、確実に「あの」河口に向かっているのだ。
私がピニャコラーダ味のヨーグルトドリンクを飲み始めてから、何十本という本数を消化してから、ようやく今いる場所がこのドリンクのメーカーの名前「VALMIERA(ヴァルミエラ)」であることを認識したゆっくりとした速度で、私もラトビアのことを少しずつ知っていくのである。


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