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ハロウィンのドラマーを考える

 ハロウィンのドラマーは結成時から現在までに、主に3人が知られている。
 他にも短期間だけ在籍やサポートしたドラマーが数人いるものの、主に「インゴ・シュヴィヒテンバーグ」「ウリ・カッシュ」「ダニ・ルブレ」が長期間在籍したドラマーとなっている。
 今回はその3人を、ちょいと比較してみようかなどと思いながら筆を進めてみる(キーボード入力だけど)。

 デビューから『カメレオン』までドラムを担当したのは「パワーのインゴ」。
 スラッシュ・メタル寄りのビートが得意な印象で、初期の屋台骨を支えていた。特にデビュー直後の4人体制では荒削りな勢いがあり、バンドのビートを引っ張っていた。
 続く『守護神伝』では壮大な楽曲に合わせてテクニカルな面も増していくが、残念ながら、ここまでの録音は80年代特有の「低音が軽いミックス」のため、あまりドラムが目立たない。
『ピンク・バブルズ・ゴー・エイプ』になると全体の音がモダンな(=今では薄っぺらい)ミックスになり、余計ペラペラに聞こえてしまう。しかしそのおかげでドラムの音を追うと、実は格段にテクニックが向上していることが聞き取れる。
 そして単純なリズムと単調なビートばかりの『カメレオン』が最終作になってしまったことは、インゴ自身も不服だっただろう。勢いをなくしたハロウィンを再起させるべく、インゴは「ヴァイキーが書いた『ソール・サヴァイヴァー』をやるべきだ」と提案していたらしい。『マスター・オブ・ザ・リングス』収録の名曲が、この時点でマイケル・キスク歌唱で仕上げられたらどうなったことか……と思うと同時に、インゴもバンドのことを気にしていたのだと気付かされるエピソード。
 残念ながら、悩みすぎたインゴは薬物依存や精神病に悩まされ、そこでバンドを解雇された。そして自ら命を断ってしまった。
 もしも「その後」があったら、どうなっていただろう。キスクだけが解雇されてアンディ・デリスのヴォーカルを支えていたら、どんなに成長したドラミングをしていただろうか……最近にして『ピンク・バブルズ~』のドラムが実は上手なことに気づき、当時よりも深く残念に思ってしまった。

『マスター・オブ・ザ・リングス』から『ダーク・ライド』までの4作でドラムを担当したのは「テクニックのウリ」。
 もとガンマ・レイということでバンドの距離も近く、当時は「病気を理由に脱退したのに自分のバンドを結成した裏切り者のカイ・ハンセンを、さらに裏切ってハロウィンに来てくれた」という印象さえあった。かもしれない。いや勝手な自分の印象だろうけども。
 再起動第1弾シングルが(日本では)「ホェア・ザ・レイン・グロウズ」で、曲もPVもいきなりウリのマーチングめいたドラムから始まる。続くその曲の本体はもちろんのこと、アルバムにようやく収録された前述の「ソウル・サヴァイヴァー」といい、とにかく闊達! 「サヴェッジ」を当初のスピードで叩けなかったインゴと違い、ウリのドラミングは格段にスピードが増し、どんな速さの曲でも叩ける。しかもドラムのタイム感がジャストで、ズレがほとんどない。
 続くアルバム『タイム・オブ・ジ・オウス』で感じさせるのは、何よりテクニックがハロウィンの歴代ドラマー随一であること。ウリ独特の複雑なタム回しが、ドラムをメロディ楽器であるかのように鳴らしている。そういえばガンマ・レイでも変わったドラミングを冒頭に設けた曲があり、カイがライナーノーツで絶賛していたことを記憶している。
 ウリはもともとマルチ・プレイヤーで、恐ろしいことにドラムはバンドを渡り歩く「腰掛け」程度で始めていた。そのためハロウィンでも随所でギターを弾き、作曲もできる。しかも新しいアルバムごとにウリの作曲数も増えていく。そのうえ「リズム重視のよくあるドラマーの曲」ではなく、メロディ重視の「ハロウィンの曲」を書けるのだからすごい!
 ただ、ジャストで手数が多い・早い分、おおらかなマーカス・グロスコフのベースとの相性はイマイチだった印象がある。おそらく人間性としても。
 そのためウリのセンスに目をつけたローランド・グラポウのプロジェクトに参加し、結果的に大喧嘩となってハロウィンを追い出されることになってしまった。自らが曲を書いた「Mr.EGO」と化したローランドは自業自得として、ウリはもったいない。いやマジでそう思う。

 その後、ハロウィンはドラマー不遇の時代が続き、モーターヘッドのミッキー・ディーがヘルプに加わり、その後加入したマーク・クロスやステファン・シュヴァルツマンはごく短期間で脱退。そこを救ったのが「正確さのダニ」だった。
『守護神伝 −新章−』から現在に至るまで、不動のラインナップの一角となったダニは、まずリズムが正確。スタジオではクリックを用いずに録音できるほど安定したリズム感を持ち、しかもメンバーの中では唯一楽譜の読み書きができるので、アレンジも譜面から入っていくことができる。まるで「数学型」のドラマー。
 パワーもあり、正確さに比例してテクニックもある。印象では「インゴのパワーとウリのテクニックを足して、正確さで割ったのがダニ」と感じる。そのためパワー型の曲もスピード型の曲も自在に叩けるが、どちらかというとインゴに正確さを足した感触。バラードでも持て余す感じではなくしっかりドラムが印象に残り、どんなプレイにも譜面レベルで対応でき、マーカスとの相性もいい。
 だからこそ「ユナイテッド」ツアーでインゴのドラム映像をバックに仮想ドラム対決する部分は、あまりにマッチしていて涙を誘わずにはいられない。テクニックがあっても、ウリではそんな演歌臭い展開にはならなかったはずだ。
 メンバー最年少のサシャ・ゲルストナーの次に若く、現ラインナップで最後に入った引け目もあるのか、あまり主張は強くせず全体のバランスを整えているように見える。そのためスタジオ音源では印象が強く残るドラミングは多くないが、トータル感で言うと現在のハロウィンに最適なドラマーだと思える。

 こうして書き出してみて、それぞれが「その時代のハロウィンに適したドラマー」だったことに、改めて気づいた。
 初期のスラッシュ路線をウリが意気揚々と叩くとは思えないし、中期の楽曲をインゴが叩くと印象がまるで変わるだろう。唯一適応できるのが、現在でもバンドの歴史すべてを叩けるダニ。どの時代の音楽も「譜面レベルで」対応可能だが、それゆえに初期の楽曲では硬く聞こえ、中期の楽曲では重く聞こえる。
 先に「ソウル・サヴァイヴァー」をキスクが歌ってインゴが叩いたら……と書きはしたものの、それはあくまでファンの夢想であり、実際にドロップされた「ソウル・サヴァイヴァー」は、その時点だからこそ実現でき、名曲たりえた。『カメレオン』期だと当時の方針で凡庸にアレンジされてしまったかもしれない。
 そうしたバンドの変化に、ドラマーはチェンジすることで対応していた。基本的にはメロディではないので目立ちにくい楽器だが、バンドの音楽性に大きく反映されている。

 では、それぞれのドラマーの違いを聴き較べるのに最適な曲は、何だろうか?
 それは意外かもしれないが「フューチャー・ワールド」だ。
 3人のドラマー全時代で演奏されている曲は複数あるものの、まずライヴで正規録音されている音源が限られる。そしてそれは「Dr.Stein」と「フューチャー・ワールド」しかない。あの「イーグル・フライ・フリー」さえ、よりによってキスク時代のライヴ正規収録がされていない。長尺アレンジされて起伏があり、最も比較できそうな「ハウ・メニー・ティアーズ」はウリ在籍時の音源がない。
 ところが「Dr.Stein」と「フューチャー・ワールド」は『キーパーズ・ライヴ』(インゴ在籍時)、『ハイ・ライヴ』(ウリ在籍時)、『守護神伝 −新章− ワールド・ツアー』(ダニ在籍)、ついでに『ユナイテッド・アライヴ』(現メンバー+OB2名)まで、正規発売されたライヴ盤すべてに収録されている。
 どちらもドラムの音に集中すれば比較できるが、特に「フューチャー・ワールド」は中盤のインタープレイ部分もあるため、よりドラマーの個性が浮き出ているように感じる。わかりやすく力強いインゴ。テクニカルなフレーズを差し込むウリ。転換での順応性が高いダニ。リズム感の違いも確認できるだろう。また現ラインナップ5人の演奏と、当時を知る古参2名を加えた7人の演奏でややプレイのニュアンスが異なるのも順応性があって、面白い。
 ブートレッグという手段を用いれば「ハウ・メニー・ティアーズ」の比較も可能。実はそちらのほうが個性を体感できるが、この曲はアレンジと演奏の出来による部分も大きく、録音により音質やドラムの距離感も差があるので、やはり比較には正規盤をおすすめしたい。
 だがどちらも――当時の曲にはインゴのドラミングが、やはり合う。
 上手とかそれ以上に、カイ在籍時楽曲にはインゴのドラムが「似合っている」。

 以上、あくまで素人の体感(と思い入れ)なのですが。
「亡くなったことで評価されてしまうインゴと、現在まで屋台骨を支える順応性の高さでダニが評価されるけど、一番ドラムが上手くて曲も書けるウリを評価してあげて~!」
 というのも、実は裏テーマでした……(笑)

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