鯉釣りというもの。吸い込み編

お盆休みに帰ってきたおじさんは、驚愕の進化を遂げていました。その技術を教えてもらい、僕もついに鯉釣りの世界へと足を踏み入れます。

帰ってきたおじさん

ゴールデンウィークが終わり、おじさんとおばさんは都会へ帰っていきました。僕は一抹の寂しさを感じつつ、友達と共に近所の川を走り回って遊びます。回遊する鯉の群れを眺めつつ。

近所の川で鯉を釣ろうと思い、釣り糸を垂らしたこともありましたがどうも釣れる気配がありません。水が綺麗で人の姿が見えるからなのか、さっぱり見向きもされず、オイカワが釣れてくるのです。僕はここは鯉を釣る川ではないんだろうなぁと考えて早々に諦めるのでした。

そして夏が来ます。

お盆休み、恒例のように親戚がおじいちゃんの家に集結します。僕はおじさんと釣りをするのを楽しみにしていました。

おじさんはパワーアップしていました。ウキ釣り用の竿を一本、投釣りの竿を三本とどっさりの見たこともない仕掛け、それと大量のエサを携えて現れたのです。

おばさんの話によると、あの後おじさんは釣りにハマり、都会の大きな川に週末になる度釣りに出かけ、研究を重ねていたというのです。そして僕と釣りをするのを楽しみにしていたというのです。
すごく嬉しいと同時に、オトナの凄さを実感した僕でした。

吸い込み釣り

おじさんは僕に投釣り用の竿を一本貸してくれました。
そして見たこともない仕掛けについて説明してくれたのです。

その仕掛けは、吸い込み、というものでした。
鯉はある一定のコースを回遊しつつ、川底の泥を吸い込むようにしながら捕食を行います。吸い込みはその修正を利用して団子状にした餌の中に針を仕込み水底に沈め、餌の中の針を吸い込んだ鯉を捉える仕掛けです。
鯉は視力は悪いものの匂いや味覚が敏感であり、団子状にした餌がホロホロと崩れ漂うことにより鯉を吸引します。その吸い込みの仕掛けを鯉の回遊コースを見計らって投げ込むのです。

餌はマルキューの鯉スパイス、団子の下に伸びた針につけた餌は芋羊羹でした。

僕は橋の下流側の深み、おじさんは更に下流側に陣取り、吸い込み釣りを始めます。吸い込み釣りは投げ込んだあとは比較的暇なので、橋の上流側でウキ釣りをして楽しみます。

初めての鯉

餌を交換しつつ釣り始めること数時間、橋の下流側、僕の竿の先につけた鈴がリンリンと涼やかな音を鳴らし始めました。
吸い込みの仕掛けに魚が群がってきた証拠です。竿を取ろうとする僕をおじさんが制しました。食いが浅い状態で合わせても、バレる可能性が高いからです。

突如、竿がギューンとしなり、糸が走り鈴が大きく鳴り出しました。
「合わせろ!」
ぼくは言われるがまま竿を取り力いっぱい合わせます。

かかりました。

スピニングリールのドラグがカリカリと音を立てて糸を吐き出します。今までに感じたことのないような強い引きに、水の中に引き込まれそうになりながらしっかりと踏ん張って耐えます。引きが弱まった瞬間、僕は猛然とラインを引き寄せます。ファイトとは無縁の、糸に任せたゴリゴリの引き上げです。心臓のバクバクは頂点に達し、何も考えることができません。

手前十数メートルに、キラリと光るウロコが見えました。初めての鯉が遂に目に見えるところまでやって来たのです。
凄い!と思いました。
ファイトに疲れたのか素直に水面へと上がってきます。僕は釣りキチ三平で学んだように、クッ、とロッドを上げて鯉に空気を吸わせます。おじさんはタモの準備を始めました。

手前ほんの数十センチまで魚を寄せ、おじさんのタモでキャッチします。
釣り上げました。
やりました。
始めて釣り上げた鯉は、くすんだ黄金色の鱗を持ち、知性を感じる目をしていました。
体長は42cm、体高の高いマゴイです。釣り慣れたウグイやオイカワ、フナといった魚とは全く別種の、底に潜る極めて強い引きでした。

その後日が暮れくなるまで釣りを続け、フナやウグイを含め10匹以上の淡水魚を釣り上げました。
大戦果でした。

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