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まさかこんなきれいごとで管理してませんよね!? 性善説と性悪説的マネジメント

私は長年サービス業に携わっています。具体的に言えば旅行業です。現在はカナダで現地のガイド会社を運営しています。

かなり昔の話ですが、日本最大手「J」社のマニュアルを見て驚いた事があります。なぜ驚いたかというと単純にその量です。

内容を例にとると、顧客を空港で迎える服装に関するものがあります。ちなみに制服はありません。
スーツで迎えなければならない、シャツは白、サングラス禁止・・・このあたりまではなんとなく分かりますが、コーヒーカップを手に持ったまま顧客を迎えなければならないなど、事細かく規則が書いてあったのです。

サービスの質を上げるためにプロダクトの管理、すなわちガイドの質を上げなければなければなりません。
そのためにガイドマニュアルを作成しなければなりません。基本、マニュアルは読んだ者が誰でも簡単に仕事の従事できるようになっていなければなりません。

会社のガイドマニュアルや育成プログラムには2つのアプローチがあります。それは「X理論とY理論」です。

X理論とは、人間には「人間は生来怠け者で、強制されたり命令されなければ仕事をしない」という考え方です。

一方Y理論は「人間は生まれながら条件次第でやる気に満ち溢れ、自ら進んで責任を取ろうとする」という考え方です。

どちらが正しいかということはなく人間は両方の側面を持っています。

X理論による管理

今回例に挙げた「J」社のマニュアルは完全にX理論が前提で作られています。訓練熟練度の低い大人数を扱う場合はX理論に基づいてマニュアルが作成されます。

例えばツアーガイドの場合、大手では短期間のバイトを大人数をトレーニングする必要があります。一人ひとりに心構えや細かいクレーム処理テクニックを教えている時間がありません。

この場合は過去にクレームがあった事例を全て禁止していきます。
「男性がピンクのシャツを着てきて気持ち悪かった」というクレームが上がれば、シャツは白に統一。ジェンダー問題どころではありません。
「挨拶のお辞儀の角度が浅かった。」とクレームが上がればお辞儀の角度は30度以上に・・・
全てのクレーム事例を禁止するわけにはいきませんが、大型のクレーム事例の原因になった事柄を禁止していくのです。

また高度な手法では、ナッジングという手法が使われます。
例えば、放置自転車で悩んでいた雑居ビルのオーナーが「ここは自転車捨て場です。ご自由にお持ちください」という内容の張り紙を貼りました。その結果、放置自転車は一掃されました。
このように好ましくない行動を社員がとらないように心理的に誘導します。

Y理論による管理

一方私が起業してツアーガイドを雇ったときのガイドマニュアルは具体的な禁止事項はありませんでした。
そもそも、ピンクのシャツを着てサングラスをしてコーヒーカップを持ってお客様の前に現れてもクレームどころか高評価のガイドはいくらでもいます。
禁止事項よりも、実行しなければならない要素が多かったと記憶しています。
「ゲストの行動を制限する際には細心の注意が必要」「主観の入った話には細心の注意が必要」
などです。もっとありましたが、具体的な事よりも抽象的な内容が多かったです。
これは人数が少なく一人ずつ深く事例を通してトレーニングする時間があったからです。
抽象的な内容は各個人ごとに解釈の違いがあります。ですので、ゲストが心から楽しい思い出になるよう行動するように解釈してもらえないと困ります。
主観の入った話は注意が必要だからと言ってお客様に見解を問われているのに自分の意見を全く言わなければ、お客様はのれんに腕押しで全く楽しくありません。

X理論とY理論どちらが有効か?

どちらがいいかと問われれば誰もが人間味に溢れていて後者のY理論が好ましいと思うでしょう。
特にこの記事を読んでいる人は中小企業の方が多いと思います。その場合Y理論で行こう!となりがちです。

しかし、どちらがいいと言うことはありません。ときにはX理論が必要な事があります。
突然短期のアルバイトを雇わなければならない時や実験的なプロジェクトが立ち上がった場合などにはX理論の教育が必要になる事があります。

人間は心理的に自分が好ましいと思うことを正しいと判断します。また、好ましくなものが入り込むとすぐに排除しようと考えます。特に後者は生きていく上で大切な習性です。
しかし、マネージャーなどの知識労働に従事する方は人間がどのように情報などの事象に反応するか知りながら行動する必要があります。
これはむしろX理論に重きをおいてトレーニングマニュアルなどを作成する必要があることを示しています。



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