雨の音

雨の音を聞いていた。

灰色の空から降り注がれる雨粒が、アスファルトに弾かれる乾いた音。
絶え間なく続くかのような雨音に耳をすますと、遠い日の記憶が蘇る。

子供の頃は、雨が降ると、その非日常感が、なんだかとても嬉しくて。天気の良い日には履けない長靴を、ここぞとばかりに履きこんで、雨雲の下へと飛び出した。

黄色だったか、水色だったか、どうして長靴は鮮やかな色ばかりなのだろう。水溜りに飛び込んで、意味もなく足踏みすると、水滴を鮮やかな色が弾く。

いつからか、雨の日の非日常感は、どこかへ消え失せ、外へ出るのが億劫な嫌な天気へと変わっていった。大人になるにつれて、雨の日の魔法は解けていった。

外へ出るのは億劫だけれど、今は、子供の頃には気が付かなかった、雨音の心地よさを感じることができるようになった。雨が上がった後の、アスファルトに漂う、なんとも言えない独特の匂いも好きだ。香りではなくて、匂いという表現の方がしっくりくるような、周囲に漂う儚げな雰囲気。

雨の日のワクワクするような楽しみはなくなったけれど、別の愉しみ方ができるようになった。年齢を重ねるにつれて、物の見方や感じ方が変わっていくように。いつか、もっと月日が経ったら、雨の日に、また別の事を感じられるようになるのかなぁ、もしそうなら、歳をとるのも、そんなに悪くないかもな。



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