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カジノ3

カジノとは、時間と感覚を麻痺させる非日常の世界。ドラッグなんか使わなくても、いつだって合法的に異世界へトリップすることができる。

最近気がついたのだけど、カジノには時計がない。休憩したり食事をするスペースにはあっても、実際にプレイする空間にはなくて、時間という概念を完全に無視することができる。

夕方出かけて、深夜まで10時間以上いたこもある。体感的には、ほんの1〜2時間なのだけれど。

昨年夏にカジノという存在を知ってから、暇な時分に時々足を向けるようになっていた。娯楽自体が少ない街で、僕はカラオケ(日本でいうキャバクラ)には行かないので、必然的に選択肢が限られてくる。

幸運なことに(本当に幸運なのかわからないが)、いつも少しばかりのお金を得て家路に着くことが多く、最悪でもプラマイゼロという日々が続いた。

飲み物も軽食も無料なので、いつも行く安食堂ではお目にかかれないフカフカの椅子に腰掛けて、ドラフトビールを飲みながらゲームをする喜びは、饒舌に尽くしがたい。

カジノをはじめ、すべてのギャンブルには、ビギナーズラックという言葉があるが、その対義語は見当たらない

故に、高級な椅子に腰掛けて、無料で飲み食いを続けることを、カジノ側がいつまでも許すはずはなく。緩やかに、音もなく、気がつかないうちに、魔窟に現金が吸い込まれていく。

僕にもその瞬間はやってきた。冬の始まりを告げるような肌寒い日、所持金を減らした状態で家路に着くのは、初めてのことだった。

「なるほどな」と思った。一度所持金がマイナスになると、取り返そうとして無理な賭け方をする。

人間は、一度手に入れたものを手放す時、細胞レベルで拒否反応が起きる。それはもう、ものすごい拒否反応が。そんな科学的な事実を、嫌というほど検証させられた。

加えて、前述したように時間の概念が通用しない世界なので、「いい時間だし、もうそろそろ切り上げるか」という流れにはなりにくい。

「これがカジノか」所持金を減らしてゲームを終えた時、妙に納得した。

「シャンパンの色をした塩水」

だけれど、舌の感覚が麻痺した人には、塩水さえシャンパンに感じることだろう。そうさせる要素がカジノにはたくさんある。




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