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カジノ2

 ふいに120USDを得た翌週。日が沈むまで待ち切れず、排気ガスに染まった空気がオレンジ色に変わり始めた頃、僕の足は先週と同じく地下の大遊技場へと向かった。

受付でメンバーズカードを見せ、地下へと降りる。そこは先週と変わらず、紳士たちの秘密の遊び場。カジノしかり、悪の組織の秘密基地しかり、どうして秘密と形容される場所は、こんなにも地下が似合うのだろう。

今日も今日とて、ルーレット台の末席に腰を下ろす。時間が早いせいか、僕以外にこの赤黒ゲームで遊んでいる紳士は一人だけだ。先週の戦利品をすべて機械に入れて、これから制御された機械と人間の勝負が始まる。ロボットvs人類。さながら未来の戦争模様だ。

僕の戦法は先週と変わらない。というかそれしか知らない。赤黒どちらかと1-12、13-24、25-36のどれか一つに同時にベットする。総額は15USD。赤黒のみ当たれば+5USD。1-12、13-24、25-36のどれか一つにベットしたものが当たればプラマイ0。両方当たれば+20USDだ。

愚直に一つの武器で未来を切り開く。刀という唯一の利器を手に己を磨いた武士さながらだ。僕にもまだ大和魂が残っていたのか。

仮に有り金すべてなくなったとしても、先週得たお金だからプラマイゼロだ。そんな気持ちの余裕が良かったのか、面白いようにお金が増えていった。余裕がある男はモテる。余裕がある武士は勝てる。

一旦、プラス170USDになり、そこから少しもたついて、プラス150USD付近で勝ち負けを繰り返した。何度目かにプラス150USDになった時、もうそろそろかな、と思った。約2時間程でこの利益は十分だろう。人間、引き際が肝心だ。立つ鳥跡を濁さず。

チケットをプリントアウトして、キャッシャーでUSDと交換する。地上に上がると、オレンジ色だった空は漆黒の闇に覆われていた。行き交うバイクのクラクションは、まるで僕への祝福のようだ。

こうして僕は、令和の武士としての重責を果たした。ハラショー。人類はロボットなんかにゃ負けねーぞ。

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