テレワークの蜜と毒

 テレワーク、家で仕事をすること。コロナウィルスの出現前から概念は存在した物の、それが自分事になるとは思われていなかった節がある様に思われますが、未曽有のウィルス危機と共にそれは一気に顕現することとなりました。それから3年の時が流れ、まさかのテレワーク最先鋒と思われていたgoogleやapple等の所謂テック最大手やゴールドマンサックス、テスラ等のトップランナー企業がテレワークを縮小/廃止したのを皮切りに、JTCもこの流れに追従して出社率は再び増加。社会全体でも出社率は上昇に転じました。

 こうした流れに触れて度々議題となるのが、テレワークは結局生産性を上げるのか下げるのか、有体に言ってしまうとテレワークで働きやすくなって物事が増進するのか、あるいは従業員がサボって職場が駄目になってしまうのか。こうしたことはある一定の結論がある様で無く、様々な立場の人間がそれぞれの立ち位置から好きな事を言うので正直言って良いんだか悪いんだかよく分からなくなっているというのが実態ではないかと思います。

 じゃあ結局テレワークは会社にとって、あるいは従業員にとって良い事なのか悪い事なのか、まずは具体的に列記する所から、少し解像度を上げて考えてみたいと思います。

【会社から見たテレワーク】
 会社の立場から見たテレワークの功罪の功の部分は以下の様な事が考えられます。
・オフィスの面積あ減り、紙文化が退潮することで効率化する
・従業員のロイヤリティが高まり、疲労が軽減される
・特に裁量労働者を中心に休日や時間外に自主的な勤務が始まる

 一方で罪の部分はこんなんでしょうか
・コミュニケーションが減る事で業務が停滞する
・特に新卒者等若手の成長スピードが鈍化する。
・監視の目がない為、従業員がサボる

 ここまで書いて勘の良い方は気付いたかもしれません。そう、それぞれの最後の項目が矛盾してるのです。テレワークが始まると従業員はもっと働く様になるのか、サボる様になるのか。どっちなんでしょうか。この点はもう少し解像度を上げると答えが出て来る様に思われます。

答えを一言で言うならば
意欲がありかつ自分で考えて能動的に動ける従業員は、テレワーク導入により更に働く様になり、そうでない従業員についてはサボる様になって生産性が悪化する
が答えでしょう。要はテレワークとは従業員が元々秘めている業務への取り組みの性向をより先鋭化させ、元から働く人間を更に働かせ、元より働かない人間を更にサボらせるという類のものと思われます。

 なので、例えば中途採用社員が中心で業績評価がドラスティックな外資系チックな会社であれば、テレワークとの相性は良い物と個人的には考えます。元々どうやったら1mmでも業績を上げて生き残れるかを常にギリギリ考えている様な社員は、出社した方が良い時は出社するハイブリッド戦略を採用し、テレワークという新しい武器を成果を挙げる手段の一つとして最大限活用することでしょう。またこうした企業は往々にして業績管理の方法が確立しているので、テレワークで人が来ようが来るまいが、結局仕事をしたのかをちゃんと期末に評価する仕組みがあります。要はサボればバレるのです。

 一方で、所謂年功序列のJTCみたいな所や、世間でイメージされるZ世代の無気力新人みたいな所にテレワークを放り込もう物なら、飢えた獣の前に肉塊を放り出したが如く喰らいつき、徹底して限界までしゃぶり尽くしてサボることでしょう。だって元々やってもやらなくても変わらないのであれば、合理的に考えればサボった方が得なんですもの。そしてこうした所は往々にして人事評価も仕組化が進んでおらず、上司の印象の様なもので決まります
。要は仕事したかしてないのか、ただでさえよく分からないのが、テレワークするともっと見えなくなってしまいます。

 結論として、テレワークとの相性というのは企業や従業員の性格によって異なるので、テレワークを入れた方が良くなる所と、入れたら駄目になってしまう所が混在をしているワケです。

 と、ここまで書いてまた勘が鋭い方は一つお気づきになったかもしれません。外資や効率化最右翼のgoogleとゴールドマンサックスがテレワーク廃止/縮小してるじゃん。ということに。私は別にそんな所の従業員ではないので分かりませんが、これは一つ推論があります。というのも、あくまでもテレワークが有用なのは「出勤とテレワークのハイブリッド」であることが前提であって、所謂「完全テレワーク」は少なくともハイブリッド勤務と比較するなら生産性が大きく低下するであろうということです。よく見ると、こうした企業群でも「テレワークを完全廃止」という所は稀で、大体が一定の出社を義務付ける事で「ハイブリット化を強制」しているのが実態であると思われます。

 これは自分自身もフル出勤、フルテレワーク、ハイブリッド勤務の全てを経験して思う所ですが、生産性は間違いなくハイブリッド勤務の際に最大化されます。理由は出勤とテレワークの良い所取りが可能になるからで、即ち体力を温存して長時間働きつつ、会社へのロイヤリティも高まり、それでいて業務遂行に必要十分なコミュニケーションは取れるからです。

 よく出社の悪い点として「出社してると話しかけられてばかりで全然仕事が進まなくてさー」というのがあります。なるほど、これはテレワークになれば本人にとっては改善するかもしれません。しかし視点を転じてみると、元々聞いていた側は対面コミュニケーションが無くなった事で聞けなくなった。つまりその分自宅で停滞しているのです。全社規模で見るなら間違いなく生産性が悪化しているでしょう。

 またセッションの種類にもよるかもしれませんが、やはりどうしても対面でないと上手く成果が出ない類の会議というのはあります。というよりも、テレワークは基本的に他人が喋っている間自分は喋れないですし、常に発言者が1人にもなります。要はゆっくりなのです。喧々諤々の激しい、スピード感のある議論や議論における意見の出やすさなどの点は2023年現在においてはどうしても対面に一日の長があり、テレワークはどうしてもこの点追いつく事が出来ません。これらをリモート化するとアウトプットが悪化することは、現時点においては天下のgoogleですら避けられなかった、ということです。

 少し視点を変えて、私も専門ではありませんが、システム設計の本質は実は業務設計、再定義にあると聞きます。そしてテレワークに係る諸制度/やり方もシステムの一環として見るのであれば、テレワークを前提として業務の方にも専用の設計が必要であったのではないかと思われます。結局、そうしたことを回避して従来通りの仕事のやり方に無理矢理テレワークを当て嵌めても、元より出社100%を前提としていた企業にとっては型の合わない部品を無理矢理嵌めようとするが如く、上手く行く筈が無かったということです。

 逆に言えば、業務内容や人事制度に至るまでを見直して「テレワークナイズ」することが出来るのであれば、企業も従業員も新たな武器を得て確実にパワーアップすることが出来るワケですが、ぼくもJTCに長く務めたので分かりますが、そうした所は業務を変革する能力が往々にして低いのです。

 最後にまとめると、テレワークは業務を効率化させたり、成果を挙げる為の一つのツールとして使い倒すのであれば非常に強力なのですが、何も考えずに出社100%を前提に設計された組織にそのまま適用しても毒にしかならない、ということなのだと思います。

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