見出し画像

ぼくのさいこうのいっぱい。~シグネイチャー考(?)

たまに海外のゲストが来ると「最高の一杯をください」とか「あなたのシグネイチャーは?」みたいなことを言われることがある。

同業諸氏、対応どうされてますか。

「最高の一杯」ったって会って30分も経っていない、コミュニケーションも難しい、好みも掴めていなければそもそも香味に対する感じ方が根本的に異なり、しかも文化背景まで違う人間に対してこちらのそれが理解できるのだろうか。
あなたと私とではきっと食い違いが起こりますよ、と思う。口には出さないけど。
…と言うかこんな事を言えるほど語学が堪能じゃないし、できるならそれなりの着地点が作れるはずだ。
だから「最高の一杯」をそこで考えてメイクするよりシグネイチャーなるものを何個か持つことがきっと最も有効な手立てなんだろう。

ではシグネイチャーとは?

シグネイチャードリンクとは、そのドリンクを作った人や店の個性を表現した、ユニークで独創的なドリンクのこと。
地元の食材や文化が取り入れられていることが多い。
テーマや色を表現するために、ファッションやデザインされることもある。
多くの文化、州、都市、レストラン、バーなどには、その地域やその店の近くに住む人々の習慣や誇りを表すシグネイチャードリンクがある。

Wikipedia 英語版より抜粋

なるほど。うん、僕には全く作れないな。
知ってたけど。

自分の作るものに少しばかりの捩れがあることは自覚している。けれど現在のシーンの大枠で見たら至って普通、せいぜいクラシックに少しアレンジを加えた程度の見解とされるだろう。
何よりユニークだとかオリジナリティだとかを感じさせるようなものは作った試しがないし、食材等の使用はまだしも、文化だの何かをイメージしてだの、ストーリー語って売るのは好きじゃない。
常々言っているけれど、モノはモノだけで売りたい。グラスの中身で納得させられないならそれは失敗なんだよ。
聞かれて答えるのは当然にせよ、ストーリーありきで売ろうなんて失笑ものだ。
記憶に残してほしいのは味か話か?ってこと。
だからレストランなんかで仕入れ先の話するなんて野暮が過ぎると常々思っている。食べ始める時にはもう忘れてんだからさ。どうでもいいわ。スマートにサーブして自信を見せてくれよ。

…いかん、話が逸れた。のと、少々クチが過ぎた。

まあそういう(捻くれた)思考で日々カクテルを作っているのでシグネイチャーなんて呼べるモノはないで…いや、あった。ありました。それっぽいのが。
自家製のトニックシロップを使ったジントニックと同じく自家製のジンジャーシロップを使ったモスコーミュール。
どちらもシロップの原型レシピは拾いものだけど、手は加えているので、オリジナリティというものがなくもない、くらいにはある。
ユニークではないしストーリーも文化も語(騙)れないけど。

でも他国から来てわざわざ入ったBARでこれを「ぼくのさいこうのいっぱい」とか「シグネイチャー」なんてオーダーで出しても全く響かないだろうな。


この記事が参加している募集

私の作品紹介

もし、記事を読んでくれてお店の方が気になったら覗いてみてください。Instagram / FBもページがありますが、まずはオフィシャルHPを。 http://www.bar-tool.com/ サポートしていただけた場合はお店の運営に充てさせていただきます。