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プラのうつわとガラスのうつわ ~“To go”と、それにまつわるエトセトラ

この状況で今までやらなかったお店が“To go”、いわゆるお持ち帰りを始めていますね。

当店でも始めます。
幸い、お店のある市川市はプラカップに入れての販売可能との事。
それを受けて容器だけでもとりあえず買ってみるか、と購入してみた。

ここまでは良かった。
しかし。
試作してみるとまあ映えない。
驚くくらい映えない。

容器がプラカップに変わるとこうも変わるのかと愕然とした。
いつものレシピでいつものように作ってそれをプラカップなりパックに入れると…これもうclubやフェス、お祭りで買うそれらと見た目が全く変わらないのだ。
頭の隅で予測していたとは言え、ここまで味気ないものになるとはちょっとその域を超えすぎていた。
「クオリティは変わらないし問題ないだろう」と思った自分を小一時間説教したくなった瞬間である。
“人は見た目が9割”って本がたしかあったけど、すべてのものに言える気がする。

内容に自信はあるけど、極論で言えばコンクで作ったものと当店で作ったものを並べて外見だけで当てろ、と言われたら見分けられないだろう。
素晴らしく無個性。
「そのぶん飲んだ時の差がわかりやすくて内容勝負でいいじゃない。」となるかと言えばそんなことは当然ない。残念ながら。
たしかに液体が舌に乗るとわかるけど、プラ容器が口に当たる感覚はどうにも違和感を生じさせる。

ここに来て器の重要性というのを再確認しましたね。

僕は使うグラスをけっこう選ぶ方だと思う。
人や状況によって、同じカクテルでも使うグラスは変えたりしている。
これを作るからこのグラス、と決めているものはロングカクテルくらいじゃないだろうか(ウイスキーやその他のストレートは決まっている)。
しかし、それですら話の流れや好みの判断ができると違うグラスでアプローチしてみたりする事もある。
口当たりが厚い、ぽってりしたグラスにさっぱりしたものを注いでみたり、香り重視のショートカクテルをブランデーグラスに注いでみたり。

やってみるとわかるけど、グラスが変わるだけでそのカクテル−に限らず注がれたその液体−の印象は大きく変わる。
もちろん結果がポジティブになることも、残念ながらその逆になる事もある。

グラスというのは液体に対するメイクやドレスのようなものだ。
適切に選べればとてもポジティブな効果を生む。
それはテクスチャだったり飲み心地もそうだし、美しいグラスで視覚的演出を施す事も可能だ。或いは奇抜な印象を与える事も。
そしてその効果は間違いなく、飲む“体験”そのものに影響を及ぼす。

全く同じカクテル(例えばジントニックを想像してください)をガラス製のタンブラー(背の高いグラス)へ注いだものとプラカップに注いだものを差し出された時、まず好印象を持つのはどちらだろう?(書くまでもないだろうけどレシピは全く同じ、内容量も同じもの、という条件)
おそらく、多くの人は前者じゃないかと思う。
それを選んだ際に「理由は?」と聞かれたらなんと答えます?

僕は科学者でも心理学者でもないので確たる返答はできないけれど、ある程度、職業的な経験からの理由は言える。合っているかは知らない。

でもパッと聞かれて返せるのは「なんとなく美味しそう」とか「だって普通はこっち(ガラス製のタンブラー)に入ってるでしょ」とかそんな理由が多くなるんじゃないかと想像する。
それでいいのだ。その理由は意識の深いところに根ざしているものだし、それで美味しく飲めた経験があるからこそチョイスするのだと思う(プラカップでも同様の経験もある。夏の海とかフェスとか。でもこの場はガラス製で話を進めます)。

選んだ見た目のものはあなたの気分を高揚させてくれ、これからそれを飲む自分の姿や味、香り、喉越しその他を想像させるスイッチだ。だから多くのBARはグラスの種類を多く用意しているし、作りや形状や重み、場合によってはブランドにも拘る。

それをすっかり剥ぎ取られた物に注がれた時の絶望感。

ヒトに例えるなら下着で町を歩くのと変わらない状態で、作り手も飲み手もけっこう辛いものがあるのは想像に難くない。
作り手側から言うと、ドリンク単体に全てを語らせなきゃならない。

BARで飲むなら、(必要なら)説明ができて、他愛のない会話もできて、そこにキレイなグラスに注がれたカクテルがあり、そして店という舞台装置がある。

ストーリーを語ることでドリンクに「美味しさ」の肉付けをし、グラスも含めた舞台装置で視覚的に効果を与える。

「美味しい」というひと言の裏にはざっくり言ってもこれだけの理由が含まれている、と僕は考えている。

飲み手側からは作り手側の前述条件の逆を想像してもらいたい。
−要するにないない尽くしである。
しかも手に持つのは味気ないプラカップ。
飲めば「いつもの、あのBARの味だ」と認識はできても手に持つカップの感触と飲んでいるものの間に違和感を覚えるんじゃないだろうか(少なくとも僕は試作した時にそうだった)。
まあ、だからお店で飲むよりリーズナブルになる。価格は。
しかし、と言うか当然と言うかBARのカウンターで飲むほどのバリューは得られない。
だって目の前にはバーテンダーもいなければキレイに輝くグラスもお酒が陳列されているバックバーも無いのだ。

それでもBARやレストラン、居酒屋など飲食店がシャッターを下ろしまくっている最中、どうにかまともなクオリティのものを飲みたいと思う方々には出来る範囲で届けられたらと思う。
味気ないプラカップでもよければ。

或いは1杯だけでも寄って飲んで行きたいというのも歓迎したい。のだけど、今は最大2名まで、席数を削って最大8名(カウンターは1名様のみ×4、2名様はテーブル×2の案内)と制限を設けている。また、新規や、そうでなくてもこちらが新規でないと認識できない方は基本全てお断りしている。
大変申し訳ないことだと思うけど、ご理解頂きたい。

もともと来るもの拒まずのスタイルではない。が、今はさらに極端に狭めている。ほぼ会員制みたいなものだ。
開けてはいるけど、出来る限りの対策はしたい。矛盾しているのだろうな。
でもBAR TooLとして、店を開けるのであれば最適解はこれだと思っている。今は。

少しでも早くこの事態が収束し、いつも通りの日常に戻れることを願ってやまない。
カウンターの椅子がやたら寂しく、テーブルの椅子が騒がしいのは見るに耐えないのだ。

もし、記事を読んでくれてお店の方が気になったら覗いてみてください。Instagram / FBもページがありますが、まずはオフィシャルHPを。 http://www.bar-tool.com/ サポートしていただけた場合はお店の運営に充てさせていただきます。