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甘く、苦く。

先月、久しぶりの対面セミナーへ参加した。
カンパリ
BARどころかカフェでも居酒屋でも置いてあるくらいにメジャーな、ハーブリキュールを代表するもののひとつ。
内容は社外秘的なものも多かったのでここで書くことは控えるけれど、とても有意義でした。
教えていただいたカクテル、“Negroni Sbagliato”はぜひレパートリーに加えたいと思います。

今日はそんなカンパリにまつわるごく個人的な話でも。

バーテンダーでカンパリ好きは多い(と思う)。僕もその一人だ。
しかし、飲み手は話が別のようである。
残念ながら作るときに「嫌いなものがあれば教えてください」と聞くとそれなりの確率で言われる。
長所と短所は裏表。好む人にとってのポイントは嫌う人にとってのそれ。
要するにあの独特の甘苦味と香りがダメらしい。
好む者としてはホントそこが理解できないんだよな。嫌う人もまたそこが理解できないんだろうけど。

好んで飲むようになったのは飲酒遍歴初めの頃に遡る。
なんで手に取ったのか?
ジャケ買いです。単純に。
当時、確かコンビニでカンパリオレンジの缶が売られていて、そのデザインが群を抜いてカッコ良くて、それを飲んだのがきっかけ(動機なんておそらくみんなこんなもの…ですよね?)。
あのデザインは今でもカッコいいと思える。もはやウロ覚えだけど、こうやって思い出すほどに強烈な印象を残してくれた。
メタルブルーのアルミ缶に意匠化されたオレンジを真ん中に配したシンプルなデザイン。
もうあまり見ない250mlのスリムな缶形状にとても似合っていた。
ちなみに肝心の味がどうだったかは全く覚えていない。でもまあオレンジだから飲みやすかったはずだ。あれが世界的に流通していたのか日本のみの流通だったのか定かじゃないけれど、RTD(Ready to Drink。いわゆる缶モノのことを最近はこう呼ぶ)にする以上、苦味はだいぶ抑えていたんじゃないかと思う。おそらく「苦味が少しあるオレンジジュース」くらいまでには。
そのおかげなのか、何の抵抗も感じることなく飲むことができた。

そんなわけで付き合いは割と長い。
と、書くと始めの初めからずっと飲み続けてきたように思われるけどそんなことはもちろんない。
最初の頃はビールやチューハイなどの合間に気が向いたら飲んでいたていど。
そりゃそうですよね。
飲み仲間はほぼ同い年ばかり、遣えるお金が多いはずもなく、チェーンの居酒屋ばかりで飲むのだからそんな気の利いたオーダーしようはずもない。
そもそも「質より量」の時期で、酒の味なんてわかりもしなければ知ろうともしていなかった。
だって飲んで楽しくなれればよかったのだから。

飲む頻度が上がったのはバーテンダーになってからだ。
仕事のおかげで知識はつくし経験値も上がる。だから当然興味も広がって選択幅も広がる。
そうなると口開け1杯目にビールだけでなくジントニックなどはもちろん、カンパリソーダもレパートリーに加わっていった。
残念ながらこのレパートリーに思い出のカンパリオレンジは加わらなかった。
1杯目はキレのいいものでスタートしたいという意識を持つくらいまでには成長していたからだろう。

話は少し横道に逸れるけど、BARでオレンジってあまり出ないフルーツじゃないかと思う。あまりにポピュラーで、季節感が薄いためかとにかくオーダーが入らない。でもピールは何かと必要なので用意はする。ただしごく少量。
当店だと一つか二つくらいだ。そのくせ出始めると止まらないのでとても厄介である。
オレンジ好きな人ってとにかくオレンジ一辺倒という印象が強い。これにも理由ぽいものはあるんだけど…それはまたの機会に。

ま、横道はこれくらいにして本題に戻ろう。
そうやってカンパリを長く飲んでいくうち…というか扱っていくうちに意外とコイツは難しいものであることに気付かされる。
リキュールゆえけっこう骨格が太い印象だったのだけど、向き合って使ってみるとなかなかどうして繊細なのだ。それに気づいたのがいつごろだったのかは覚えていない。けどきっかけは覚えている。

「カンパリの水割り」である。

これについては以前の「バーテンダー、バーテンダーを見る。」という記事で少し触れている。
そこではやんわり書いているけど、歯に衣着せず言ってしまえば、思想なき作り手が作った水割りは飲めたものじゃない。
もちろんこれはカクテル全てに言えるけど、こと水割りにおいてカンパリほど如実に現れるものはないんじゃないかと思うレベルだ。
…この先を書くとあまりに穏やかでなくなるから止めておきます。

そこに気付いてから一時期、水割りは取り憑かれたかの如く作りまくった。そのおかげで自分なりに納得のいくものになった自信はある。
書くまでもなくマイナー好みもいい加減にしろってカクテルだからオーダーなんて数年に一度有ればいいものだけど。
その証拠に、行徳時代から今に至るまで受けたのは5回あったかどうか。
それでもこのカクテルを作るのは楽しいし、ふとしたタイミングで自分のクオリティを確認するものの一つ。
それはリキュールを水割りで供するという面白さもそうだし、カンパリというリキュールへの愛着からでもある。
単純そうに見えて全くそんなことがない、気を抜けない面白さ。
そういうものがこの水割りに、カンパリの中にあるというのはなんとも楽しく、オーダーされた時には緊張もまたもたらしてくれるのだ。
ネグローニやスプモーニ、シェカラートなどカンパリを使ったカクテルは数多くあるけれど、最も僕が「張る」カンパリカクテルは水割りである。

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