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梅の花とかけまして #シロクマ文芸部

久しぶりに物語が書きたくなったので、こちらの企画に参加させていただきます。


よろしくお願いいたします。




「梅の花とかけまして!」
 部長の秋元さんがよく通る声で発声した。
「梅の花とかけまして!!」
 部員たちが復唱する。

 お題を指定された麻衣ちゃんは困り顔をしながら考えこんだ。みんなの視線が麻衣ちゃんに集中している。
 沈黙が続く、答えがなかなか出てこない様だ。

 今年入学した大学で僕は演劇部に入部した。
 麻衣ちゃんは僕と同じ一年生で今日は僕の隣りに座っている。僕は自分でも変わり者だという意識はあったけど、入った演劇部は僕以上の変わり者だらけで、僕はそれが嬉しかった。
 変わり者だらけの飲み会はやはり変わっていた。
 初めての飲み会、僕らの歓迎会で一年生は永遠と『ものまね』を強いられた。各々が持ちネタとも言えるものまねを披露したが、「他にないの?」と強要され、やったこともないものまねを始める。全然似てない人のものまねをやらされると「オッケー、今日はそのキャラで過ごしてね」と言われ、僕はマツコ・デラックスとしてその日を過ごした。

 飲み会と言っても、僕ら一年生はお酒を飲まない。二十歳を超えた上級生は皆お酒を飲んでいるが、僕たちはこの場で飲酒はご法度だ。秋元部長の「つまらないことで廃部や謹慎にしたくない」という強い意志が徹底していた。
 当然と言えば当然なことだが、今日も含め僕らはシラフでこれをやっている。

 今日は『なぞかけゲーム』が突然始まった。
 お題を宣言すると隣りの人がそれをとく。といた人がまたお題を出してそれが続いていくゲームだ。
 麻衣ちゃんはまだ考えている。
「ほら、なんでもいいから答えないと」
 与田先輩がガヤを入れる。それでも麻衣ちゃんは答えが出ない。
「あのさー、無言はダメだよ」
 副部長の美月さんがわりと強めに言った。美月さんは美人な先輩だが、とても気が強い。個人的には気が強いところも含め大好きな先輩だが、今の言い方は笑いすら許さないそんな言い方だった。
「あのさ、舞台でもし台詞がとんだら、そうやっていつまでも黙ってるの? アドリブでもなんでもいいからリアクションしないと」
 どこでスイッチが入ったのか、はたまた本気で役者としての心得を教えようとしているのか分からないが美月さんは強いまなざしでそう言った。
 その場を沈黙が支配した。麻衣ちゃんはうつむいてしまい、重たい空気に包まれた。放っておいたらこのまま泣き出してしまうかもしれない雰囲気だった。

「整いました!!」
 与田先輩がこの空気を切り裂くように大きな声で挙手をした。
「おお、じゃあ、お願いするわ」
 秋元部長はそう言って「梅の花とかけまして」と宣言すると、「梅の花とかけまして」と周りが復唱した。
「yamaとときます」与田先輩が答えると「そのこころは?」と部長が返す。

「どちらも『春を告げる』でしょう」
 ドヤ顔の与田先輩がそう答えると、少し間があって「おー」とか「あー」とリアクションがあった。一部では「どういう意味?」と説明を求める声もあがっていた。
「ありがとう。じゃあ次、麻衣ちゃんお題いける?」部長がそう伺った。
 答えられなかった自分を責めているのか、苦笑いしていた麻衣ちゃんは「はい!」と返事をすると美月さんの方を見た。

「美月副部長とかけまして!」
 麻衣ちゃんが高らかにそう宣言すると、部員たちはお互いに顔を見合わせて「美月副部長とかけまして!」と大声で復唱した。
 この流れでそこをイジるとは大したもんだと言わんばかりのまなざしで麻衣ちゃんをみつめているがちょっと待ってくれ。それを答えるのは僕の仕事じゃないか。ややあって案の定、期待のまなざしは僕に集中していた。

 ここで無言になるわけにはいかない。何か答えなくては。
「えー、美月副部長とかけまして、えー、割り箸と、ときます」
「そのこころはー?」部員全体の大合唱になっていた。

「みんな、木を使います(気を遣います)」

 ひと息で言い切ると、少し間を置いて爆笑が起こった。
 ざわざわしている宴の中、麻衣ちゃんに目を向けると麻衣ちゃんも笑っていた。
「うまい!」とヤジを投げる人や、「どういうこと?」と酔っている先輩もいる。ただ僕は怖くて美月さんの反応はまだ見れていない。
 それでもこの仲間たちとなら、これからもやっていけそうだという気分になった。それが嬉しくて僕も笑った。ふと横目で見た美月さんも笑っている気がした。


(了)


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