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アラブ文学(アラビア語→日本語)

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アラビア語の小説の日本語訳置き場 (原文が英語の場合は英語→日本語)
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記事一覧

【翻訳】マフムード・ダルウィーシュ「何物も私の心を喜ばせない」(パレスチナ)

「何物も私の心を喜ばせない」  バスの中で旅人が言った。 「ラジオも、朝刊も、丘の上に見え…

【翻訳】アリー・アブーヤシーン「ひどく静かな夜/死はどこにでもある」『ガザ・モノ…

ひどく静かな夜  ひどく静かな戦争の夜。昨夜は本当に静かだった。一時間くらいはまどろむこ…

【翻訳】ユースフ・イドリース「肉の家」(エジプト)

 未亡人は色白、細身で背が高く、35歳であった。その娘たちも背が高く、思春期であったが、喪…

【翻訳】マフムード・ダルウィーシュ「母へ / この地には生きるに値するものがある」(…

母へ إلى أمي 私は恋しい 母のパンが 母のコーヒーが 母の手触りが 私の中で 子供…

【翻訳】マフムード・ダルウィーシュ「他者を想え」(他2編、パレスチナ)

「他者を想え」 あなたが自分の朝食を用意するとき あなた以外の者を想いなさい (鳩の餌を忘…

【翻訳】ガッサーン・カナファーニー『五月半ば』(パレスチナ)

親愛なる僕のイブラーヒームへ  この手紙が誰のもとに届くのか、僕には見当もつかない。君と…

【翻訳】ガッサーン・カナファーニー『過ぎ去らぬもの』(パレスチナ)

 列車は息を切らしたようにして、テヘランへ向けて美しい道をのぼっていく。アバダーンを出発する前に、車掌は私たちに言った。 「身の回りをよく警戒しなければなりませんよ。道のりは長く、スリたちが夜の訪れる機会を利用しますからね。彼らお得意の生活様式で......」  私は寝まいと決めていた。側には、夜に読むことのできるカラー刷りの本が一冊ある。多くを感じすぎ、多くを知りすぎた人の書いた本だ。私のいる車室はつつましい。向かいの席に座っている美しいイラン人の女性が、私の中に例のスリを