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「翻訳とは人類に起こった最良の試みである」(リファアト・アル・アルエール、2023年12月7日にイスラエル軍の空爆で亡くなる) 研究 : 現代アラブ文学/中東とクィア

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【翻訳】パレスチナ人の命も守れ:ユダヤ人の学者ジュディス・バトラーがイスラエルの「ジェノサイド」を非難

第一部ネルミーン・シェイフ:  イスラエルのガザ空爆について続けて話していきます。ここからは哲学者でありジェンダー・スタディーズの研究者であるジュディス・バトラーに参加していただきます。ジュディス・バトラーはバイデン大統領に即時停戦を求める公開書簡に署名をしたユダヤ人の作家・芸術家たちの一人です。『非暴力の力』や『分かれ道 ユダヤ性とシオニズム批判』をはじめとする多数の著書があります。ロンドン・ブックレビューに掲載された最新の論文の題名は「追悼のコンパス」〔日本語訳〕です。今

    • 【パレスチナのクィアたち】Queering the Map パレスチナ/イスラエル 抄訳

       Queering the Map (インスタ)に残されたパレスチナ人達の声を中心に翻訳しました。 パレスチナのクィア達の声を受け取ってください。パレスチナ/イスラエル問題がクィアの問題でもあることを知ってください。  西岸地区・イスラエル(48年占領地)のコメントは翻訳中です、逐次更新します。 「私は自由になりたい。でも、カミングアウトするだけじゃ自由にならない。何よりもまず、パレスチナ人であることが自由だから」(エルサレム南部) ガザ いつまで生きられるかわからない

      • 【翻訳】アリー・アブーヤシーン「ラマ/ガザよりシェイクスピアへ」『ガザモノローグ2023』

        ラマ  戦車が家を砲撃したら、すぐに自宅を離れないといけない。なぜなら、戦車は無差別に砲撃するから。悪意をもって破壊し、警告なしに人を殺すから。戦車は頭のいかれた怪物だ。見境なく建物を切り裂いていく......。  アブー・アハメドは大事な書類の入ったカバンと服を運びながら、頭の中でそう考えた。そのカバンは、ガザのどの家にも用意されている。中に入っているのは、IDカード、パスポート、出生証明書、賃貸契約書、大学の卒業証書、そして一番大事なUNRWAのカード。そのカードが、自

        • 【翻訳】マフムード・ダルウィーシュ「忍耐/二本目のオリーブの木」(パレスチナ)

          忍耐 عن الصمود 1 もしオリーブが 植えた者の手を知っていたなら その油は涙に変わっただろう 先祖代々の知恵よ 私たちの肉体を盾としてあなたに差し出せたなら しかし、風の激しい畑では 風を崇拝した者に種が与えられることはない 私たちは睫毛さえ使って 棘と悲しみを引き抜こう いつまで 自分の恥と十字架を背負うのだろうか その間にも 宇宙は前に進んでいく...… 私たちは オリーブの中に留まり続けよう その緑として その大地のまわりに留まり続けよう 盾として 2 私た

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        【翻訳】パレスチナ人の命も守れ:ユダヤ人の学者ジュディス・バトラーがイスラエルの「ジェノサイド」を非難

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          【翻訳】マフムード・ダルウィーシュ「何物も私の心を喜ばせない」(パレスチナ)

          「何物も私の心を喜ばせない」  バスの中で旅人が言った。 「ラジオも、朝刊も、丘の上に見える砦も。なんだか泣きたい気分だ」  運転手が言った。 「停留所に着くまでの辛抱だ。それから一人で好きなだけ泣けばいい」  婦人が言った。 「私も。何物も私の心を喜ばせない。私はこの手で、息子を墓まで導いた。息子はそこを気に入り、そこで眠った。お別れの言葉もくれずに」  大学生が言った。 「僕も。何物も僕の心を喜ばせない。僕は考古学を勉強している。だが、僕は何者か、その答えは石の上に

          【翻訳】マフムード・ダルウィーシュ「何物も私の心を喜ばせない」(パレスチナ)

          【翻訳】アリー・アブーヤシーン「ひどく静かな夜/死はどこにでもある」『ガザ・モノローグ 2023』

          ひどく静かな夜  ひどく静かな戦争の夜。昨夜は本当に静かだった。一時間くらいはまどろむことができたはずだ。ドローン、戦闘機、砲撃の音が一秒たりとも止まなかった。だが、ミサイルや1トン(6バレル)の火薬の樽が一度に落ちてきたとき、それらすべては何でもない。地面が激しく揺れて隆起する。まるで、地殻が空気で満たされた子供の風船であるかのよう。今にも爆発して世界を破壊しそうだ。死を千回目撃したとき、爆発が終わった後、人は自分がまだ生きているということを信じない。新たな生のひと時を授

          【翻訳】アリー・アブーヤシーン「ひどく静かな夜/死はどこにでもある」『ガザ・モノローグ 2023』

          【翻訳】ユースフ・イドリース「肉の家」(エジプト)

           未亡人は色白、細身で背が高く、35歳であった。その娘たちも背が高く、思春期であったが、喪中も、喪が明けても、黒く身を覆う服を脱がなかった。年少の者は16歳、年長の者は20歳。醜く、父から受け継いだのは、いびつで凸凹とした褐色の体。母からかろうじて受け継いだのは体格だった。  家は狭いけれども、日中の彼女らにとって十分な広さだった。部屋はひどく粗末だが、綺麗に整理されていて、いかにも家という雰囲気が広がっていた。部屋は4人の女の感触に満ちていた。夜には女たちの肉体が、血の通

          【翻訳】ユースフ・イドリース「肉の家」(エジプト)

          【翻訳】マフムード・ダルウィーシュ「母へ / この地には生きるに値するものがある」(パレスチナ)

          母へ إلى أمي 私は恋しい 母のパンが 母のコーヒーが 母の手触りが 私の中で 子供心は大きくなる 来る日も 来る日も 一日のはじまりに 私は自分の命を心から愛する もし私が死んだなら 私は母の涙を恥じるから いつの日か 私が戻ったら あなたの睫毛の飾紐で 私を受け入れてください あなたの清き踵に洗礼を受けた草で 私の骨を覆ってください ひと房の髪で あなたの服の裾に揺れる糸で 私を縛ってください あなたの心の奥底に触れた時にはいつだって 私は神にさえなってし

          【翻訳】マフムード・ダルウィーシュ「母へ / この地には生きるに値するものがある」(パレスチナ)

          【翻訳】マフムード・ダルウィーシュ「他者を想え」(他2編、パレスチナ)

          「他者を想え」 あなたが自分の朝食を用意するとき あなた以外の者を想いなさい (鳩の餌を忘れてはならない) あなたが戦争に着手するとき あなた以外の者を想いなさい (平和を追い求める者達を忘れてはならない) あなたが水道代を払うとき あなた以外の者を想いなさい (雲に命の糧をもらう者達を) あなたが家に、自分の家に帰るとき あなた以外の者を想いなさい (テントの民を忘れてはならない) あなたが眠りにつき星々を数えるとき あなた以外の者を想いなさい (眠る場所のない者達

          【翻訳】マフムード・ダルウィーシュ「他者を想え」(他2編、パレスチナ)

          【翻訳】「イスラエルの友へ:これが、私がパレスチナ人達を支援する理由だ」(イラン・パぺ)

          自分の良心のコンパスに忠実であることは、時に簡単ではない。しかし、それが北を指したなら――脱植民地化と解放を指したのなら――、悪意に満ちたプロパガンダの霧の中であなたを導いてくれるだろう。  あなたの属する社会(あるいは指導者・メディア)が道徳的優位に立ち、10月7日に起きた出来事に彼らが抱いた義憤と同様の怒りをあなたに期待したとき、良心のコンパス Moral Compass〔善悪の判断を下す指針〕を維持することは難しい。  誘惑に負けない方法はただ一つ。あなたが人生のある

          【翻訳】「イスラエルの友へ:これが、私がパレスチナ人達を支援する理由だ」(イラン・パぺ)

          【翻訳】「追悼のコンパスーー暴力と暴力を非難することについて」(ジュディス・バトラー)

           社会全体の議論が最も必要な問題、今すぐにでも議論しなければいけない問題、それは私たちが現在頼っている枠組みの中で議論することが困難な問題である。目の前の問題に直接向かいたいと思っても、言うべきことをほとんど言えなくしてしまう枠組みの限界に突き当たる。私は暴力について、目下起こっている暴力について、暴力の歴史について、その様々な形態について語りたい。しかし、暴力について書こうとすれば、つまり、イスラエルにおけるハマースの砲撃と殺戮を歴史の一部として理解しようとすれば、「相対化

          【翻訳】「追悼のコンパスーー暴力と暴力を非難することについて」(ジュディス・バトラー)

          【翻訳】ガッサーン・カナファーニー『五月半ば』(パレスチナ)

          親愛なる僕のイブラーヒームへ  この手紙が誰のもとに届くのか、僕には見当もつかない。君と交わした約束は、毎年五月半ば、アネモネをいくつか君の墓へ持っていき、それを墓の上に舞い散らせるということだった。ほら、もう五月の半ばが来てしまった、一輪のアネモネすら見つけられない内に……。いや、たとえ見つけていたとしても、それを渡すために、どうして君の墓へ行けただろう?  12年が経ち、君はあらゆるものからひどく遠ざかってしまったらしい。同時に、地面の深いところへと沈み込んでいき、崩れ

          【翻訳】ガッサーン・カナファーニー『五月半ば』(パレスチナ)

          【翻訳】ガッサーン・カナファーニー『過ぎ去らぬもの』(パレスチナ)

           列車は息を切らしたようにして、テヘランへ向けて美しい道をのぼっていく。アバダーンを出発する前に、車掌は私たちに言った。 「身の回りをよく警戒しなければなりませんよ。道のりは長く、スリたちが夜の訪れる機会を利用しますからね。彼らお得意の生活様式で......」  私は寝まいと決めていた。側には、夜に読むことのできるカラー刷りの本が一冊ある。多くを感じすぎ、多くを知りすぎた人の書いた本だ。私のいる車室はつつましい。向かいの席に座っている美しいイラン人の女性が、私の中に例のスリを

          【翻訳】ガッサーン・カナファーニー『過ぎ去らぬもの』(パレスチナ)