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【翻訳】「イスラエルの友へ:これが、私がパレスチナ人達を支援する理由だ」(イラン・パぺ)

本稿は10月10日に発表されたMy Israeli Friends: This is Why I Support Palestinians – ILAN PAPPEの全訳です。この文章はパレスチナ系メディアに掲載されましたが、テクストの宛先はあくまでイスラエル人です。
筆者のイラン・パぺはイスラエル出身の歴史家で、イスラエル国内にいられなくなったため、現在はイギリスで活動しています。イスラエルの正史に異議を唱えた「新しい歴史家」の一人で、パレスチナ人の民族浄化が極めて計画的であったことなどを論証しました。また、彼はシオニズムを厳しく批判しています。
パぺはハマースの行為を解放闘争と捉えており、その勇敢さを「称賛」した上で、疑問を投げかけています。文章の後半で「別の道」がパレスチナのイスラエルの二国家共存でないのは、パぺが一国家解決案を支持しているからです。


  • 自分の良心のコンパスに忠実であることは、時に簡単ではない。しかし、それが北を指したなら――脱植民地化と解放を指したのなら――、悪意に満ちたプロパガンダの霧の中であなたを導いてくれるだろう。

 あなたの属する社会(あるいは指導者・メディア)が道徳的優位に立ち、10月7日に起きた出来事に彼らが抱いた義憤と同様の怒りをあなたに期待したとき、良心のコンパス Moral Compass〔善悪の判断を下す指針〕を維持することは難しい。
 誘惑に負けない方法はただ一つ。あなたが人生のある時点で――たとえイスラエル国籍のユダヤ人であっても――シオニズムの入植者植民地主義的性質を理解し、パレスチナの先住民に対するその政策にゾッとするということだ。
 もしあなたが実情を知ったのなら、たとえ悪意のあるメッセージによってパレスチナ人が「動物」や「獣人Human Animal」と描かれても、あなたが揺らぐことはないだろう。その〔悪意あるメッセージをばら撒いたのと〕同じ人々が、あの土曜日に起きたことを「ホロコースト」と表現するように力説し、大いなる悲劇の記憶を悪用している。このような感情が、イスラエルのメディアや政治家によって昼夜を問わず伝えられている。
 私や私の属する社会にいる人々を導く良心のコンパスとは、あらゆる可能な手段で、パレスチナ人を支援するものだ。そして同時に、中東最強の軍隊に打ち勝ち、十数か所の軍事基地を占拠したパレスチナ人戦士たちの勇敢さを称賛するものだ。
 同時に、私のような人間は、この作戦に伴ういくつかの行動の道徳的・戦略的価値について、疑問を投げかけずにはいられない。
 というのも、私たちは常にパレスチナの脱植民地化を支持してきたため、イスラエルの抑圧が長引けば長引くほど、解放闘争が「実を結ばないSterile」ものになる可能性がより低くなることを知っていた。過去において、世界のどこであろうと、解放のためのあらゆる公正な闘いがそうであったように。
 これは、私たちが一瞬たりとも大局的な視点に立つべきではないという意味ではない。抑圧者は政府を選出し、政府は破壊を加速して、事実パレスチナ人の排除に躍起になり、さらには「自分はパレスチナ人だ」という主張すら封じようとした。大局的な視野に映るのは、この政府の誕生の時点において、植民地支配を被る人々が生き残るために闘う姿である。
 ハマースは行動を起こす必要があった。そして、今すぐにでも行動を起こす必要がある。
 しかし、西側のメディアや政治家は、それが問題含みであるにもかかわらず、イスラエルの語り口 discorseと物語 narrativeに乗ってしまったため、こういった反論を発するのは難しい。
 ロンドンの国会議事堂やパリのエッフェル塔をイスラエル国旗の色に染めようと決めた人の何人が、この一見象徴的なジェスチャーがイスラエルでどう受け止められるかを本当に理解しているだろうか。
 ほんの少しの良識は持ち合わせているシオニスト左派でさえ、この行為を、1948年以降イスラエル人がパレスチナ人に対して行ったあらゆる犯罪に対する完全なる免罪符であると、そしてイスラエルが今ガザの人々に対して行っているジェノサイドを続けるための白紙委任状〔自由裁量権〕であると受け取るのだ。
 幸いなことに、ここ数日の出来事に対しては違った反応もあった。
 ウクライナの件で完全に明らかになったように、これまでと同様、西側の市民社会の大部分はこの偽善に簡単に騙されない。
 1967年6月以降、100万人のパレスチナ人が人生に少なくとも一度は投獄されていることを、多くの人が知っている。そして、投獄には虐待・拷問・裁判なしの無期限拘束がつきものである。
 このような人々は、イスラエルが2007年からガザ地区を封鎖して完全包囲し、ガザ地区に恐ろしい現実を作りだしたこと、それと同時に占領下の西岸地区で子どもたちを容赦なく殺害したことも知っている。この暴力は新しい現象ではない。1948年のイスラエル建国以来、シオニズムの永遠の顔なのである。
 親愛なるイスラエルの友人達よ、あなた方の政府とメディアは、まさにその市民社会のおかげで、最終的には間違っていたことが証明されるだろう。そして、被害者面をすることも、無条件の支援を受け取ることも、犯罪から逃れることもできなくなるだろう。
 欧米メディアは本質的に偏っているbiasedが、いずれ全体像が見えてくるだろう。
 しかし、大きな疑問もある。イスラエルの友人であるあなた方は、この同じ全体像をはっきりと見ることができるだろうか? 長年にわたり洗脳とソーシャルエンジニアリング〔権力が大衆の社会的な行動・態度に影響を与えること〕をこうむってきたにもかかわらず?
 そして、それに劣らず重要なのは、次のような別の教訓――それも最近の出来事から得られる教訓――を得られるかということだ。その教訓とは、力に物を言わせるやり方だけでは、公正な政権と良心のかけらもない政策を秤に置いて、両者バランスを釣り合せることなどできないということである。
 しかし、別の道もある。実は、その道は常にあったのだ。つまり、ヨルダン川から地中海に到るまで脱シオニズム化し解放された、民主的なパレスチナだ。難民の帰還を歓迎し、文化・宗教・民族による差別のない社会を築くパレスチナだ。この新しい国家は、経済的不平等・財産の奪取・権利の否定といった過去の悪を可能な限り是正しようと奮闘するだろう。これは中東全体に新たな夜明けを予告するものになるだろう。 
 自分の良心のコンパスに忠実であることは時に難しいが、もしそれが北を指しているのであれば、つまり脱植民地化と解放を指しているのであれば、悪意に満ちたプロパガンダや偽善に基づいた政策、そしてしばしば「私たち共通の西洋的価値観」の名の下に行われる非人道的な行為の霧を切り抜ける導きとなるだろう。

翻訳:ريحان السوغامي


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