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セルパン奏者がオフィクレイドに挑戦する。02


これまでのあらすじ

前回の投稿からおよそ一週間、1日5分から10分程度、様々な調を吹いてみてオフィクレイドに慣れていきます。使うメトードは先週触れた《オフィクレイド教本完全版》Méthode complète d'ophicléide (1837)。金管楽器の教本にしては珍しく、シャープ系の調から書いてあります。今のところシャープ3つ(A major, F# minor)まで。

オフィクレイドのフィンガリング

オフィクレイドのキーは1つのキーを除いて全てクローズド・キー(キーを押した時に孔が開く)となっています。例えば下の写真、下方部に右手の人差し指(9番のキー)が写っていますが、その部分のキーを押すことで、オレンジの丸の部分が「開き」ます。
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次の写真、右手の親指でキーを押さえています(本当は人差し指で押さえるのですが)が、上のオレンジの部分のキーは、押さえることで孔が「閉じ」ます。このようなキーはこの1番だけです。

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キーはこのような構造になっており、左手で1番から4番、右手で5番から11番を操作します。右手偏重のようですが、7番から9番は低音域での使用が前途で、(後述しますが)寧ろ左手を多用することが多くなります。

セルパンのフィンガリングと比べると……。

さてこのオフィクレイドのフィンガリング、とってもざっくり言うと次のようになります。

C(0), D(2&3),E(5), F (5&6), G (7), A(8), B(1), C(0).......  

対応する指は左手中指(2番)→薬指(4番)、右手親指(5番)の次に小指を使い、U字管を跨いで中指(8番)に戻ってきます。A(ラ)の後のB(シ)は、先程の「押すと半音下がる」フィンガリング。基本的にどの基音の指使いでも、自然倍音列を出すことができます。金管楽器奏者の方はピンとくるかと思いますが、上の倍音に行けば使うフィンガリングは少なくなっていき、オフィクレイドの場合左手(1番から4番)で事足りることが多くなってきます。自分で書いていてもややこしいですが、ポイントは2つ。

1. キーを順番に押さえるごとに半音ずつ上がっていく。
2. 該当するキー以外は(原則として)放して良い。

特にキーを押さえることで「半音ずつ上がる」ことはセルパンのフィンガリングに慣れたものには最初大きな違和感があります(これは現在の金管奏者からも同じですね)。セルパンは基本的にリコーダーと同じく、左手人差し指から順に右手薬指まで、孔を押さえることで音高は順次下がるシステムだからです。また、手(指)の配置も、マウスピースからベルの線上で考えた場合、セルパンは左手→右手の配列ですが、オフィクレイドは右手→左手の配列になります。やや乱暴な言い方になりますが、全部逆になっているんですね。当時のセルパン奏者にとっては(特に生活がかかっている場合)、乗り換えはかなり大変だったのではないでしょうか。

オフィクレイドの魅力

それでも、オフィクレイドにはセルパンにない魅力もあります。まず第一に音程がセルパンに比べて非常に安定していること。特に低音域における幾つかの不安定な音程が安心して演奏できるメリットは大きいと思います。それから豊かな音量が容易に出せること。この2つは当時も魅力的に映ったのではないでしょうか(無論、現代の楽器から比べると、「音程にムラがあり」「大きい音が出しにくい」印象になるのかもしれませんが……)。

ややこしいフィンガリングですが、一週間も練習していると次のようなお約束のフレーズも演奏できるようになります。

このベルリオーズ《幻想交響曲》のディエス・イレ(怒りの日)、参考までにセルパンで吹くと次のような感じ。

来週も引き続き音階。キーの裏のコルクがボロボロ取れてくるので調整に出さなければならないのだが、どこに出せばいいのだろう?

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