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『アイーシャと脚のない鳥』


巌男にはかつて婚約者がいたが、彼女は交通事故で若くして死んだ。危険ドラッグ常習者の中年男が運転する車に轢かれ、即死だった。彼女は会社からの帰宅途中、駅の近くの歩道を歩いていた。事故現場にブレーキ痕はなかった。

その婚約者は名を"アイーシャ"といった。2人は隅田川に架かる橋の上で出会った。きっかけは巌男が1月2日の夜に見た初夢だった。浅草の橋の上で白い服を着た女性と出会い、いい感じになる夢だった。普段から夢など見ない巌男はとても不思議に思い、夢で見た内容をツイッターでつぶやいた。翌日の1月3日の正午ぴったりに橋の真ん中に行く予定である事も書き込んだ。そして、その時間に橋に行くと、夢で見たのと同じ様な真っ白な帽子と服とスカートを着た女性が橋の真ん中に立っていた。巌男が話し掛けると、彼女も不思議な夢を見てそこに来たのだと言った。ツイッターなど見ていないとも言った。
本当の事はアイーシャしか知らない。

アイーシャが異次元の世界へと旅立った日の翌日、巌男は1人隅田川のほとりにアウトリガーカヌーを浮かべ、虫取り網と1カートンの黒ビールを詰め込み、ニューギニア島へと漕ぎ出した。脚のない鳥を捕まえに。


おしまい

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