さいきん読んだミステリ①(202307)

 さいきん読んだミステリの感想をまとめます。書く前に確認はしていますが、かなり雑に読んでるので誤読などはあるかもしれません。ネタバレは基本的に避けています。


米澤穂信『折れた竜骨』

 面白かった。読む前はしょうじき特殊設定ミステリというジャンルそのものに興味があまりなかった。たとえば「剣と魔法の世界でミステリをやります!」と言われても、真相の推理をうまく成立させるために恣意的に魔法の設定が用意されたり情報が伏せられたりするのでは、という思いこみがあったからだ。
 読んでみたら恣意的に推理が作られている印象はまったくなかった。たとえば作中、ワトソン役にあたるニコラに「誰がどんな魔術を使っているかもわからないのに、どうやって犯人を特定するのか」と問われて、探偵役のファルクが、

たとえ誰かが魔術師であったとしても、また誰がどのような魔術を用いたとしても、それでも〈走狗〉は彼である、または彼ではない、という理由を見つけ出すのだ

※〈走狗〉:殺害の実行犯のこと。魔法によって操られている。操られているため、本人は殺害の実行犯である自覚や記憶はない。

と返すシーンがある。これは「特殊設定ミステリでも、犯人特定のためのロジックは、普遍妥当的でなければならない」という作者の宣言のように思えて、真相解明にすごく期待が高まったのを覚えている。
 そしてじっさい、『折れた竜骨』は、犯人の使ったトリックには特殊設定を持ち込んでも探偵役の推理には特殊設定を持ち込まない、という原則を遵守した作品のように思えたし、そこが好きな部分になった。たぶん、Lがデスノートの存在を知らないままキラを特定していくステップが好きだったのと同根だろう。

夕木春央『方舟』

 面白すぎる。どんでん返し系の作品、という触れ込みで面白いと思えたことがほとんどないのだが(性格のせい)、これは素直に驚いたし面白かった。シチュエーションやテキストが妙に生々しくて没入できたから驚けたし、楽しめたというのもあるだろう。そこは波長が合ってよかったね、という話かも。
 どんでん返し以前に探偵役である翔太郎の推理も面白い。とくにウエスの推理がめちゃくちゃ気に入っている。真相や結論自体は大して意外でなくてもいいからそこに至る推理や議論が面白いものであってほしい……という気持ちがじぶんにはあると気づいた。翔太郎のことけっこう好き。
 ちなみにテキストが生々しくて、と書いたが、文章自体がむちゃくちゃ上手いのかというと微妙だと思う。たとえば「小学生のころ、キャラクターがプリントされた洋服を着ていると、先生に叱られるのが一層惨めに感じられたのを思い出した」なんていうくだりは切り口が好きで印象に残ったし没入に寄与していた。しかし共感できなければ基本的には淡々としていて情景が素直に浮かびづらい文章かもしれない。

今村昌弘『屍人荘の殺人』

 面白かった。『方舟』を読んだ後なのであまりにラノベ的で動揺したが、推理はすこぶる面白い。
 なぜか設定の一部があらすじレベルでは隠匿されているのだが(サプライズにするようなことか?)、特殊設定ミステリである点はほとんど周知の事実なので触れてもよいはず! というわけで、特殊設定のうちいくつか未確定なまま推理を進めるのが面白かった。エレベーターのトリック好き。あと明智さんとギャルの下松さんが好きです。ミステリはギャルをどんどん出し
てほしい。


 長くなりそうなのでまた別の日に続き書きます。

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