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身内がアルコール依存症:入院〜退院までの1週間に起きたこと④

掃除を終えて一区切りついた私は、やっと「兄が退院したあと」のことを具体的に考える時間ができました。
退院後の家事って兄本人が自力でできるのかな?誰がするんだろう?介護保険のようなサービスはないんだろうか?
結論から言いますと、正しい相談先はまず「最寄りの保健所」でした。
しかし私自身が以前、介護職で働いていたこともあり、「まずは福祉に相談?」と判断を誤りました。

7日目:公的機関へ電話で相談

1件目:社会福祉協議会

1件目から思いっきり大外れのところへ電話で相談してしまいました。「生活支援・相談」というワードが、アルコール依存症にも当てはまるのかな?と思ってしまいました。
加えて、「もし間違ってても別の相談先を教えてくれるだろう」と思ってのことでした。
結果「市の社会福祉総務課へ相談してみては?」とパスされてしまいました。

2件目:社会福祉総務課

大まかに経緯を説明しました。
「アルコール依存症の兄が肝硬変末期で入院したが、家の様子が自活できている状態ではない。退院後にどうしたらいいのか」
という内容です。
相手はあからさまに困った様子でしたし、私が「自活できていない」と言ってしまったのがよくありませんでした。
次に回されたのは「自立相談支援センター」です。

3件目:自立相談支援センター

流石に「電話かける先が違うんじゃないか?」と疑問に思いながらかけました。「自活できていない」と言ったせいで「経済的に自立できていない」と誤解されたな、と薄ら感じながら電話をかけました。
ここでも一通り経緯を説明したところ、「うちは無業者や引きこもり支援を主としている」と言われ、うんうん、やっぱりそうだよね、と思いながら、だんだん心が折れ始めている自分がいました。

「なぜ誰も分かってくれない?」
と言う気持ちが襲ってきて、「誰も助けてくれない」と言う無力感がじわじわ押し寄せてきました。(間違った相談先に電話したのは自分なのに)

幸い、ここで電話を受けてくれた方は大変親切で、
「アルコール依存症の相談先は、保健所が主であること」
「現在入院中なら、病院の医療福祉相談室に聞くといい」
と教えてくれました。

4件目:保健所

恥ずかしながら、ここで初めて「依存症の相談先は保健所である」と言うことを知りました。介護福祉のイメージに捉われていたので、目から鱗でした。65歳以上の高齢者や身障者ではない依存症の方は、ぜひ保健所へお電話ください。

ただ、結論から言えば、保健所に相談したからと言って何も解決しませんでした。ここで言われたことは2点です。

  • アルコール依存症は否認の病である

  • 本人が依存症と自覚して、本人の足で精神科に行かなければ、こちらは何も手が出せない

ここら辺で、かなり絶望的な気持ちになりました。
本人が絶対に認めないのに、どうしたらいいんだろう…、と言う感じでショックでしたし途方に暮れました。

5件目:病院の医療福祉相談室

5件目でやっと病院に電話をしました。私が裏で動いていることが兄にバレたらやばい、と思い、どうしても病院に電話する勇気が出ませんでしたが、3件目の自立支援センターの方に「身内の方なら電話していいと思いますよ」と背中を押され、やっとかけました。

担当の看護師に、ざっと経緯を説明したところ、
「ああ、やっぱりアルコール依存症でしたか」
と言われ、やっぱりってなんだよ、やっぱりって、と言う気持ちになりました。
以下、看護師から聞いた兄の話です。

「お兄さんは、「今日はお酒を飲み過ぎて肝臓の数値が悪くなってしまった」と言っています。アルコール依存症とははっきり本人の口から聞いていません。あまりこちらから質問するとイライラするようです。
断酒会には行ったことがあるそうですが、仕事が忙しいから続かなかったそうです。」

ああ、やっぱり「飲みすぎたせい」にしてアルコール依存症とは言わないんだなぁ、と思いました。
先ほど保健所の方から聞いた「否認の病」「本人が認めないと何も始まらない」と言う言葉が蘇ります。

担当の看護師の方、かなり熱心に話を聞いてくださって、1時間ほど電話で相談しました。
まず「兄に精神科を紹介してほしい、もしくは強制的に入院できないか」と聞きましたが、(今思えば当たり前ですが)お断りされました。

「退院後の兄の生活を支援してくれる何か、制度やサービスはないか」と言う1番の問題点については「精神保健福祉センターはどうか」と教えてもらい、すぐにそちらへ電話しました。

6件目:精神保健福祉センター

ここが1番「話が通じる」と感じました。これまでは「他人事感」がすごかったのですが、保健所よりも「依存症(その家族)からの相談に慣れている感」がありました。

ただ、話が通じるからといって「解決」するわけではありません。
保健所と同じく、「本人が認めて、本人自ら精神科に行かねば何もできない。障がい者として申請もできない、治療もできない、入院もできない」と言われ、最後に「イネイブリング」を教えてもらいました。

6件電話して分かったこと、それは本人がアルコール依存症と認めない限り、身内には何もできない、と言うことです。

7日目の振り返り

兄は昔から怒りっぽい性格です。お酒が入ると酒乱になります。シラフでも酔ってても「お酒は控えた方がいい」と指摘すると怒り狂います。
「俺をアルコール依存症扱いしやがって」と物に当たり散らしながら怒鳴ります。
それが嫌で、自分の結婚を機に一切会わないようにしていました。

ずっと「倒れるまで分からない」と思っていましたが、裏を返せば「倒れたら、何かが変わる」と淡い希望を抱いていたと言うことです。実際に倒れた結果は「身内は無力」と痛感しただけでした。

「否認の病だから認めることが第一歩」と言うのは痛いほどよく分かりましたが、私たち身内には、兄にそれを認めさせることが最も難しいのです。それができていれば、そもそもこんなことになってないです。

倒れたら、周りがてんやわんやになって、兄を精神科へ導いてくれると思ってました。考えが甘かったです。それと、身内が頼み込めば、精神科に入院させてくれるかも、とも思ってました、それも甘かったです。
そんな簡単に精神科に入院させられたら危険ですよね、そりゃそうでした。

諦めた家族の気持ち

今現在、アルコール依存症の治療中の方、アルコール依存症の家族へ寄り添っている方に対して、とても失礼な内容になってしまうことをお詫びします。
私たちは、兄の暴力が怖いので、兄を説得し精神科へ受診することを勧めることは一切諦めました。
退院後も(しばらくは禁酒するでしょうが)、すぐに飲み始めると思うので、肝硬変は進み、いずれは…と思っています。それについても諦めました。

改めて、アルコール依存症の怖さが分かりました。アルコールは違法薬物ではないから<逮捕→法的措置で入院>と言う手段も取れないですし、世の中は手軽にお酒を買える店が溢れかえっているので、自宅で自力でアルコールを克服することは難しいです。
家族は「入院してほしい」と願っていても、本人が認めないと話が何も進まない。そもそも精神科の病床に空きがなければ入院も断られる。

もうお手上げだと思いました。私は、自分の人生と命をかけてまで、兄のアルコール依存症と立ち向かうことはできません。
「身内のくせに」と思う方もいらっしゃると思いますが、無理なものは無理、と言う家族もいるのだと、許してください。

アルコール依存症に立ち向かうことは諦めましたが、この日から気持ちは晴れやかになりました。
「身内は何もできない」と言うことは「自分の人生を優先していいんだ」と言うことでもありますよね?
「兄を見捨てる」わけじゃなくて、「身内は何もできないし、兄本人が依存症を認めないといけない=兄の問題」だと真から気付けました。

長々と言い訳がましく失礼しました。そろそろ終わりたいと思います。
同じ境遇の方、私のように諦める人生もありますので、あまり根詰めずに生きていきましょう。
我々家族はアルコールから兄を救えませんが、せめて本人には、できるだけ優しい時間を過ごしてほしいと願っています。

包み隠さない本音は「断酒しろ!いますぐ精神科へ行け!」です。

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