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シェアリングエコノミーが拓く地域の可能性とは? -キーワードは「二次流通」「デジタル」「共同体意識」

バガスアップサイクルは、製糖産業の余剰資源からかりゆしウェアを製造し、1着のかりゆしウェアの着用価値を多くの人でシェアすることで、アパレル産業における新しいサーキュラーエコノミー(循環経済)モデルの創出に取り組んでいます。消費が地球環境に与える負荷を低減するだけでなく、自然や地域、コミュニティとのつながりを感じられるという新しい価値を生み出すサーキュラーエコノミーですが、近しい概念に「シェアリングエコノミー(共有経済)」があります。バトンズの2024年初記事は、シェアリングエコノミー協会代表理事の石山アンジュさんをゲストに迎え、循環経済や共有経済に向かう社会・経済動向の最先端を、バガスアップサイクル代表の小渡晋治と語りあっていただきました。国家戦略から個人の幸福感まで、縦横無尽に展開した対談の一部始終をお届けします。

小渡
石山さんはシェアリングエコノミー協会の代表理事をはじめ、政府の有識者委員会の委員としても活躍されています。そのようなお立場からご覧になって、シェアエコを取り巻く社会や経済には今、どのような変化が起きていると感じておられますか?


シェアリングエコノミー協会代表理事 石山アンジュさん。経済産業省「資源循環経済小委員会」、国道交通省「移住・二拠点移住等促進専門委員会」、東京都「東京都こども未来会議」の委員も務める(2024年1月現在)

石山アンジュ氏(以下、敬称略)
シェアリングエコノミー協会は立ち上げから7年目となり、スペースマーケットやココナラをはじめ上場する会社も増えてきて、市場経済においては黎明期から成長期に移行しつつあります。社会がシェアリングエコノミーを求めるニーズも、ここ2-3年は従来の「安くておトク」や「簡便さ」だけでなく、「サスティナブル消費の選択肢」として期待されることが増えてきているように思います。また、若い世代を中心に、先の見えない不安に対してリスクを分散したいというニーズが高まっていて、その受け皿になる局面が増えてきています。例えば、大きな家をひとつ所有するのではなく、複数の家を複数人でシェアする。仕事も大企業で終身雇用されるのではなく複業する。こうしたワーク&ライフスタイルを実現する手法として、シェアリングエコノミーに期待をいただいて広がっている印象があります。現在、経済産業省の「資源循環経済小委員会」、国道交通省の「移住・二拠点移住等促進専門委員会」、東京都の「東京都こども未来会議」の委員を務めさせていただいていますが、拝命いただく委員会の分野の広がりからも、シェアリングエコノミーへのニーズが多様化していることを感じています。

▶︎書籍:石山アンジュ氏は、著書「多拠点ライフ」でも分散型のワーク&ライフスタイルを提起しています

小渡
たしかに、個人間でモノをシェアするメルカリや、スキルをシェアするココナラをはじめクラウドワークスやランサーズなども、消費や労働に新たな選択肢が加わり珍しいというフェーズを終え、社会インフラと呼べるほどに浸透している印象がありますね。そんな中で次のニーズも見えてきているとのことですが、新しいニーズに応えるシェアエコ型サービスは、これからどのように展開していくと見ていらっしゃいますか?

石山
CtoC(個人間取引)に加えて、BtoBの領域に伸び代があると見ています。オフィスや人材のシェアリングは少しずつ増えてきていますが、それ以外の遊休資産に対してはまだまだ企業のアンテナが向いていません。そんな中、名古屋の企業が機械などを企業間で長期レンタルし合うプラットフォーム事業を始め、注目しています。経済産業省の資源循環経済小委員会でも、議論の的は企業活動です。9割を占める中小企業がプロダクトを生み出すときに、どの程度循環資材を使うべきかの指標やルールづくりが進められています。目指すところは、リサイクルと呼ばれる従来の資源循環を促進するだけではなく、イノベーションが加わることで経済成長に直結するモデルをどう作れるか。高度経済成長を支えた大量生産・大量消費・大量廃棄型の一次流通モデルではなく、二次流通の存在を高めて一次流通と両立させるモデルにシフトしていくことで、経済全体が成長しながら持続可能になっていくイメージです。そのような将来像に向けて、どうしたらシェアエコで一次流通と二次流通の橋渡しができるかを考えています。

株式会社BAGASSE UPCYCLE 代表取締役 共同創業者/CEO 小渡晋治

小渡
バガスアップサイクルも今、かりゆしウェアを少量生産してレンタルで循環させることで無駄を排除するモデルから、服は作らずに大手メーカーさんの廃棄品や在庫品をデジタル技術を駆使して循環させる二次流通モデルへとリニュアルできそうなタイミングにようやく来ています。経済成長という観点でいうと、おっしゃったような大量生産・大量消費・大量廃棄の線形経済で重視された「売上」ではなく、ちゃんとデータを取って「利益」に着目することで右肩上がりを実現できるのが循環経済ではないかと見ています。そこに希望を持って、沖縄でモデルをつくれたらと。

石山
とても共感します。シェアリングエコノミーは、古くは江戸時代の長屋でのお醤油の貸し借りのように、誰が持っていて、誰が必要としているかを可視化できて初めて成り立ちます。デジタルが、遠く離れた人の間で余剰とニーズの可視化を可能にしたところに利益が生まれる余地を見出せることは、未来をつくる上で大きな希望ですね。

小渡
デジタルで物理的な距離を超えるという観点に立つと、地方に眠るリソースにはまだまだ可能性があると感じています。例えば、沖縄本島北部ではAirbnbが覇権を握る前から民泊事業に力を入れてきています。修学旅行生が10班くらいに分かれて老夫婦が営むシークァーサー農家などに泊まり、農作業を手伝ったり夕ご飯を一緒に食べて親からではない愛情を受け取る。地方ならではの魅力を価値化できたことから盛況でした。ただ、受け入れ側が疲弊してしまったんですね。こうしたミスマッチにこそ、デジタルによるイノベーションの余地があるように思います。

石山
おっしゃるように、可視化と言っても、どこを可視化して価値づけをするか、お金をもらっていいという意識改革をするか、可視化によってどう信用を担保するか。こういったことを、持っている人と必要としている人の間のコミュニケーションをデジタルでデザインすることで調和を図れる余地があることも、希望ですよね。

個人的には、沖縄はシェアエコを活用して持続可能な地域社会をつくっていく上で最先端になれる地域だと思っています。シェアエコへの意識調査で世界比較をすると、CtoCにおいては「使うのが怖い」と思う人の数で日本が突出して多いんです。「他人の家に泊まる」であったり「他人の車に乗る」という行為に対するハードルがものすごく高い。でも、沖縄では知らない人でも自然に話しかけたりしますよね。

▶︎記事:県内3自治体目となる名護市がシェアリングシティ推進協議会に加盟

小渡

確かに、信号待ちで停車していたらいきなり見ず知らずのおばあさんが来て進行方向とは逆をさして「あっちに行きたいさー」と言われる、という経験を2回もした知人がいます。混んでいる地元の食堂で相席になった人が食べかけのハムカツをくれようとしたり。自他の境界線が薄いカルチャーは残っている気がしますね。

石山
ちょっとしたことのようで、ものすごく大きいことだと思います。シェアリングエコノミーもサーキュラーエコノミーも、「共有しあうけれど搾取はしない」という信用をベースに、モノをはじめ、人の時間や、ひいては思いやりなど、形のないものを与えたり受け取ったりするモデルです。かつての地域コミュニティに自然に存在した信用や、共有し合うコモンズ的な文化は経済原理が浸透すればするほど消滅に向かっていく。昔に戻ることはできないからこそ、経済原理を使う新しいやり方で人と人や、事業と事業を結び直すのがシェアエコやサーキュラーエコノミーだと考えています。こうしたモデルを社会実装する上で、人びとの意識にコモンズ的な文化が残っていることは大きな強みだと考えています。

小渡
二次流通の担い手を目指すバガスアップサイクルが、かりゆしウェアの大手メーカーさんから廃棄品や在庫品を受け取って循環させる事業をつくらせていただく話が進んでいるのは、沖縄ならではなのかもしれませんね。おっしゃるような「共有しあうけれど搾取はしない」という信用が、根底にあるのかもしれません。

石山
沖縄を含む日本の地方には、シェアエコが第3の型を創造しながら発展していく可能性を感じています。規模の経済で発展していく中国・米国型でも、NPOやコープが主役の欧州型でもない。自然との境界線が薄い自然崇拝の思想や共同体意識をベースに、資本主義を三方よし的に再構築するような発想で、人口減少と高齢化に取り組む文脈でモデルがつくれるのでは、と。
一方で、個人の幸福観や人生設計のレイヤーでも、高度経済成長を支えた「自由経済の中で個人が自立して成功を追うことで豊かになれる」という成功モデルが揺らいできています。コロナ禍を経て社会の不安定さや先の見えなさがさらに増す中で、若い人たちが地方に新しい豊かさを求めています。
こうした若い世代に代表される人びとがリスクを分散させる生き方を選び、経済原理一辺倒ではない生き方を模索する中で、地方に残る共同体意識と出会うことで、新しい循環や共有のモデルやサービスが生まれてくることを期待しています。

BagasseUPCYCLEとコラボレーションしていただいたかりゆしウェアをご着用いただきました。 石山アンジュさん着用: 沖縄の自然をモチーフにしたデザイン工房「イチグスクモード」デザインの「ティダアミ」、弊社代表 小渡着用:同「オオゴマダラ」

バトンズ編集部より
「一次流通と二次流通の両立」「デジタルによる価値の可視化/余剰とニーズのマッチング」「沖縄に残る自然崇拝や共同体意識の可能性」。シェアリングエコノミーや循環経済を軸に、個人や企業が未来を創る上で示唆に富むキーワードが数多く飛び出した対談でした。バガスアップサイクルも、引き続き、デジタルを駆使した持続可能な循環型アパレルビジネスの構築に尽力していきます。石山さん、ありがとうございました!

取材:2024年1月

バガスアップサイクルは、沖縄の地場産業である製糖業の過程で発生するサトウキビの搾りかす「バガス」の繊維を活用したかりゆしウェアのシェアリングサービスを展開しています。詳しくは、コーポレートサイトをご覧ください。デザイン一覧および那覇市内各所でのレンタルサービスについてはこちらでご案内しております。