量子計算学習ノート - 密度オペレータ1


この記事は「量子コンピュータと量子通信 (オーム社)」の読書ノートです。


今までは状態ベクトルを用いて、対象の量子系の状態を記述してきた。この記事では密度オペレータという線形オペレータを使って状態の記述を試みる。密度オペレータを用いると複合量子系における部分量子系の状態を導出するのが非常に容易になる。

密度オペレータは純粋状態の重みづけによって記述される。ある確率$${p_i}$$で量子状態$${|\psi_i\rang}$$であるような場合を考える。このときこれらの組の集合$${\{(p_i, |\psi_i\rang)\}}$$を純粋状態のアンサンブルといい、これに対応する線形オペレータを次のように記述する。

$$
\rho \equiv \sum_i p_i |\psi_i \rang \lang \psi_i|
$$

この線形オペレータを密度オペレータという。また、密度オペレータの表現行列のことを密度行列という。ここからは密度オペレータの言葉を使って、量子力学の公理を再構築してみよう。

まず、状態空間は状態ベクトルを扱っていた時と同様にヒルベルト空間となる。あらゆる状態は密度オペレータによって記述される。これについては特に疑問はないだろう。

次に時間発展について議論する。ユニタリオペレータ$${U}$$による時間発展が記述できれば十分なので、これについて考える。なお、ハミルトニアンが状態に依存していなかったのと同様に、このユニタリオペレータも状態に依存するユニタリオペレータではないことに注意する。確率$${p_i}$$で状態$${|\psi_i\rang}$$にある状態が$${U}$$によって時間発展すると、確率$${p_i}$$で状態$${U|\psi_i\rang}$$となる。したがって密度オペレータ$${\rho \equiv \sum_i p_i |\psi_i\rang \lang \psi_i |}$$は次のように時間発展する。

$$
\sum_i p_i U|\psi_i \rang \lang \psi_i| U^* = U\rho U^*
$$

さらに測定について話を進めよう。$${\{M_m\}}$$を測定オペレータ集合とする。まず、状態$${|\psi_i\rang}$$にある時、測定値$${m}$$を得る確率$${p(m|i)}$$はこれまで通り$${\lang\psi_i | M^*_m M_m |\psi_i\rang}$$で与えられる。状態$${|\psi_i \rang}$$が得られる確率は$${p_i}$$なので、$${p(m)}$$は

$$
\begin{array}{l}
p(m)\\
= \sum_i p_i p(m|i)\\
= \sum_i p_i \lang\psi_i | M^*_m M_m |\psi_i\rang\\
= \sum_i p_i {\rm tr}(M^*_m M_m |\psi_i \rang \lang \psi_i |) \\
= {\rm tr }(M^*_m M_m \rho)
\end{array}
$$

となる。状態$${|\psi_i \rang}$$であるときに、測定結果$${m}$$を得た後の状態は$${\frac{M_m|\psi_i\rang}{\sqrt{\lang \psi_i | M_m^* M_m |\psi_i \rang}}}$$なので、状態$${\rho}$$であるときに、測定結果$${m}$$を得た後の状態$${\rho_m}$$は次のようになる。

$$
\begin{array}{l}
\rho_m\\
= \sum_i p(i|m) \frac{M_m|\psi_i\rang\lang \psi_i |M_m^*}{\lang \psi_i | M_m^* M_m |\psi_i \rang} \\
= \sum_i \frac{p_ip(m|i)}{p(m)}\frac{M_m|\psi_i\rang\lang \psi_i |M_m^*}{\lang \psi_i | M_m^* M_m |\psi_i \rang}\\
= \sum_i p_i \frac{M_m|\psi_i\rang\lang \psi_i |M_m^*}{{\rm tr} (M^*_m M_m\rho)}\\
= \frac{M_m \rho M_m^*}{{\rm tr} (M^*_m M_m\rho)}
\end{array}
$$

位相と複合量子系については密度オペレータについても同様に各状態ベクトルの位相とテンソル積による状態の結合を考えることができる。以上で量子力学の公理を密度オペレータの言葉に書き換えることができた。

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