量子計算学習ノート - 密度オペレータ2


この記事は「量子コンピュータと量子通信 (オーム社)」の読書ノートです。


前回の記事では密度オペレータの言葉で量子力学の公理を置き換えてみる試みを行った。ここでは密度オペレータを量子計算で扱う際のいくつかの言葉について定義しておこう。

まず、量子系の状態が状態ベクトル$${|\psi\rang}$$で確定しているとき、対応する密度オペレータは$${\rho= |\psi\rang \lang \psi|}$$だが、このように状態ベクトルで確定した量子系の状態のことを純粋状態という。これに対義してある一つの状態ベクトルで確定していない状態のことを混合状態という。混合状態という言葉は純粋状態を含む、一般的な状態を考えたいときにもよく使われるので注意したい。

密度オペレータが与えられたとき、状態が純粋状態か混合状態かはその二乗に対するトレースを調べればわかる。つまり、次が成り立つ。

  • 密度オペレータ$${\rho}$$が純粋状態 $${\Leftrightarrow}$$ $${{\rm tr} \rho^2 = 1}$$

  • 密度オペレータ$${\rho}$$が混合状態 $${\Leftrightarrow}$$ $${{\rm tr} \rho^2 < 1}$$

ここまで密度オペレータは純粋状態に対するアンサンブルを考えていた。しかしそうではなく、一般的には混合状態に対するさらなるアンサンブルを考えることもできる。すなわち確率$${p_i}$$で量子系の状態が$${\rho_i}$$であるような密度オペレータを考えることができる。それぞれの$${\rho_i}$$がアンサンブル$${\{(p_{ij}, |\psi_{ij})\}}$$を持っていたとすると、量子系の状態に対応する密度オペレータ$${\rho}$$は

$$
\rho = \sum_{ij} p_i p_{ij} |\psi_{ij}\rang \lang \psi_{ij} | = \sum_i p_i \rho_i
$$

と記述される。このような状態は量子雑音の文脈でしばしば現れることになる。量子雑音の文脈ではノイズによって量子状態に関する私たちの知識が失われることになる。例えば測定オペレータ集合$${\{M_m\}}$$測定における測定結果$${m}$$が何らかの理由で失われたとする。その時の測定後の状態$${\rho}$$の記述は前記事の測定に関する計算式も参照すると、以下のようになる。

$$
\begin{array}{l}
\rho \\
= \sum_m p(m) \rho_m\\
=\sum_m {\rm tr} (M_m^* \rho M_m) \frac{M_m^* \rho M_m}{{\rm tr} (M_m^* \rho M_m)} \\
= \sum_m M_m^* \rho M_m
\end{array}
$$

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