その子の名は

ここしばらくの僕の派手な身のこなしについてこれず、これまでしっかりとしがみついていた彼女は振り解かれてしまったようだ。

しかし、振り向かなくても未だに彼女が少し離れたところから様子を伺っているのを感じ取ることはできる。ふと、僕は彼女の容貌をはっきりとは知らないことに気づく。そして、自嘲する。気の向くままにこの精神を責め苛む子が、せめて美しく、愛らしくあって欲しいと願うのは、慰めを求めているのか、単なる倒錯か。

彼女は時々、自分の本来の居場所である僕の右太ももを目掛け、丸めた紙切れを投げつける。その幾つかは狙った通りの場所に当たる。僕は気が付かない振りをするが、その実、命中するたびに強烈なフラッシュバックが脳裏を掠め、胃が引き絞られる。

拾い上げ、広げてみなくても、その紙片に何が書かれているか僕は知っている。四文字の彼女の名前が、その小柄な体躯には似つかわしくない荒々しく、禍々しい書体で記されているのだろう。自分はあなたの一部であり、不可分な存在だと告げているのだ。

一日に命中する数は、日を追うごとに増えている。いつまで気付かない振りを続けられるだろうか。再び囚われてしまうまでに、できる限りのことを済ませておかねば。

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