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Climax Jump〜仮想人生のはじまり

美しく透き通ったタンジェリンカラー。
ころりとしたフォルムの愛らしいiMacが新婚家庭にやってきたのは1999年だった。

当時の私は年金業界で働き、週末は先輩たちとすすきので飲んだくれ、別会場で呑んだくれていた夫と待ち合わせて帰る日々が楽しくてたまらない20代前半の無邪気な人妻だった。

子どもはまだなく、今に比べて時間はたっぷり使えた時代。
その箱は私の格好のおもちゃとなった。


Wi-fiなんてカケラすら存在しない20世紀末である。
私はPM11時のテレホーダイタイム前からスタンバってインターネットの波を楽しんでいた。もちろんポスペにもハマった。



それだけで大満足だったのだが、近くに住む同い年の義弟に「ぜんぜんPCを活用できていない」とダメ出しされた。

まったくもって余計なお世話なのだが思わずカチンと来てしまい、iMacに内蔵されていたAdobe PageMillで個人サイトを作ってしまった。

当時は同じような個人サイトがジオシティーズを中心にあふれていた。
私は女性向けのフリーサイトの住人となり、知り合った女の子たちとお互いのサイトを行き来し、チャットで夜な夜なおしゃべりした。

ネットアイドルをしている子たちとも友だちになった。
ネカマという単語も同時に覚えた。

すべてが新しく、すべてが面白かった。


ネットの住民になって20年か...。


iMacを手に入れた3年後に
私はラーメン情報の口コミをまとめたサイトの管理人になり、
その翌年に最初のブログをスタートさせ、
閉鎖や炎上や釣りや荒らしに遭遇するなど
愉快な経験もさせてもらって、

今ものほほんとしぶとくネット上に居座っている。

「裏アカウント」なんて言葉もない時代から仮想人生を歩んできた私たち。

今でもときおり、
「あのリスカしたネットアイドルはどうしているかな」
「女装が趣味だったテキストサイトの男の子は今も元気かな」
などと、

薄い Macの向こう側の
黒くて甘酸っぱい昔話に思いを馳せることがある。


天真爛漫で無邪気だった20代の人妻。
「ラーメンだけが友だちの寂しい男」だと思い込まれていたラヲタ。
小悪魔を超えて「大悪魔」と呼ばれていたラスボス的な女。

どれも別人格ではなくて、すべてが私自身だった。

情報の海を思いっきり泳ぎ、ジャンプして、
すべての経験がネットで生きる栄養になっていた。


私たち、3児のお母さんになって今も楽しくしているよ。




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