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1日で4つの空港を回った女、爆誕(後編)

飛行機を乗り継げなかった。

午前7時、トルコのアンカラ・エセンボーア空港での出来事である。

友達を訪ねる楽しい旅だったはずが、一人で乗り継ぎの交渉をしなければならない試練の旅に変わった瞬間である。

自分の乗る予定だった飛行機のゲートが、電光掲示板にて ”GATE CLOSED”の表示になっているのを見つけた。とにかく誰かにこの事態を相談せねばと周りを見渡すが、職員は近くにいない。周りにいたはずの人もどんどんいなくなり、聞こえるのは自分の心臓音だけである。

慌てて周囲を確認したところ、トイレ付近に清掃員のおっちゃんを確認した。多分相談すべきはこの人じゃないだろうが、とにかく誰かに指示をもらいたいという一心で近づく。

「すみません…この飛行機…」

と話しかけるが、英語は通じない雰囲気。


うーん、そうなのだ。トルコの第一空港であるイスタンブル空港ならまだしも、第二空港であるアンカラ・エセンボーア空港はどちらかというと国内線が充実している。現在私がいるところも国内線乗り場である。

なんとなく感じていたけど、やはりあまり英語が通じない。私のトルコ語レベルは3歳児にも満たない程度だが、なけなしのトルコ語で乗り切るしかない。


とにかく清掃員のおっちゃんには ”kapı kapalı”(ゲートが閉まってます;;)という言葉を、ちょい泣き顔で繰り返す。すると、もう一度手荷物検査のほうへ行けというアドバイスをいただいた。

手荷物検査のおばちゃんにも話しかけるものの、話しかける人みんな、私が迷ってゲートにたどり着けていないのだと思い、親切に場所を教えてくれようとするのがまた悲しい。乗れなかったんだよ…。

もはや ”kapı kapalı”を魔法の呪文のように唱えている。これさえ唱えればみんなが私が直面している事態を瞬時に理解し、次の方策を教えてくれる。(可哀そう…という顔とセットで)

その後、チケットカウンターに行って事態を説明する。凛々しい顔をしたおばあちゃんと対峙し「乗れなかったんです」というと、「どうして?」と間髪入れずに聞かれた。

これは責められるに違いない…と再び体がキュッとなるが、乗り遅れた時点でもうどうしようもない。「20分ほど飛行機が遅れて、乗り換えは30分ほどの時間しかなくて…」としどろもどろに説明する。私は英語ができる方ではない。

「なるほど…」と言ったきり、パソコンをカタカタし始めたおばあちゃんに、「チケットはありますか」「何リラですか」「今日中に行けますか」などをとにかく聞きまくる。最悪空港に寝泊まりするかどうか、この交渉にすべてがかかっているのだ。


おばあちゃんは次の航空券をいろいろと確認してくれているらしい。いきなり、「10時のフライトはどう?間に合う?」と聞かれる。おばあちゃんが提示してくれたのは、ここから更にイスタンブルまで飛び、そこからトラブゾンへ向かうというものだった。

当日中に着ける(なんなら14時くらいには着ける)ということで、申し分ない代替案だ。しかし、一つずっと気がかりなことがある。それは、航空券を当日に購入すると、とんでもないお値段を払わなければならないのではないか…という不安である。


恐る恐る、「何リラですか…」と尋ねる。正直、何リラでも買うつもりでいた。とにかく友人に会えれば、この旅行はなんとかなる。

おばあちゃんはそこで初めて、「10分間というのは、乗り換えができる時間ではないわ。あなたが乗り遅れたのは航空会社側の過失だから、チケット代を払わなくていいよ」と…!!!!

おばあちゃん…!!!!

本当ですか、本当ですかと何度も繰り返し、ありがとうございます、ありがとうございますと頭を下げる。凛々しく少し怖く見えていたおばあちゃんの顔も、心なしか朗らかに微笑んでくれているように見える。地獄に仏とはまさにこのことだ。


そこから事務的な説明を沢山される。まず、私の荷物は本来の航空機に乗らず、空港にそのままあるので、まずはそれを取りに向かうこと。そして手荷物を受け取ったら、再びチェックインカウンターへ行き、スーツケースを新たに預けること。手荷物検査ももう一度行って、今度こそ飛行機に乗ること。

圧倒的な情報量と、時間内に再びこれらをこなさなければ飛行機に乗れないという焦燥感でパンクしそうになりながら、とにかく何度も聞き返す。「まずはスーツケースを取りに行って…?場所はどこですか?下…?まず右に行って下に降りて…?」

そこからは、入れた情報が脳内から出ていかないうちにひたすら目的地へ向かう。まずはスーツケースについて尋ねる。私が尋ねた人は英語が話せなかったようだが、わざわざ英語を話せる友人に電話をつないで指示を出してくれる。

その後何とかスーツケースを回収し、再び2階に戻ってスーツケースを預ける。行き先を確認され、「イスタンブルにまず行って、その後トラブゾンへ行きます」と答えると、不思議そうに「ここからトラブゾンへ行く飛行機も出てるのよ。ちょっと前だけど」と言われる。(ええ…ええ…知っていますとも…)と傷跡をえぐられながら、なんとか通過。再び手荷物検査へ向かう。

手荷物検査の担当者は、私が先ほど「ゲートが閉まっちゃって…どうすれないいですか;;」と泣きついた人なので優しい。「無事戻ってきたんだね~~~」と言葉をもらう。

なんとか間に合い、飛行機を待つ間にホットチョコレートまで買う余裕ができ、飛行機を待つ。しかし天候不順で、こちらもやはり少々遅れているらしい。今度は1時間の乗り換えだが、果たして間に合うか…。またしても、不安がじんわりと胸中を黒く染め上げる感覚が襲う。うう…胸が痛い…。


結果から言うと、この飛行機も着いた時点で赤字でLAST CALLの文字が出ていた。間に合うか間に合わないか、ぎりぎりの戦いである。血の気が引いたが、初めて訪れた空港を地理関係も分からないままダッシュし続け、なんとか間に合った。吐くかと思った。

初めての空港に来たのが嬉しくて、
時間が無いのに撮った写真


その後は友達のお父さんが空港まで迎えに来てくれ、友達にも再会し、労いのスープも頂き…と、「乗り切った…」と感じるには十分の手厚いサポートを受け、初日を終えた。しかし、9日間にも渡るトラブゾン旅行は幕を開けたばかりである…!前途多難。




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