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著作権と墾田永年私財法のカンケイ、という話

ここ数日、とある画像がとても話題になっています。

渋谷に巨大な「墾田永年私財法」―― 謎の広告にネット民ざわつく 「気になってこれしか情報が入ってこねえよ!」(ねとらぼ 2021年2月4日)

それは明治R-1の広告として渋谷駅前や電車内などに掲示されているもので、大きく書いてある「墾田永年私財法」というインパクトが甚大です。

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(※上記画像は先述の記事より引用。©2021 ITmedia)

さて、そもそもここに書かれている”墾田永年私財法”とは何か?
”こんでんえいねんしざいほう”という何とも言えない格好良さから頭の片隅には鎮座していましたが、遙か昔の日本史の授業で聞いた限りで、大人になってこの言葉を発する機会はほぼなく、どのような内容であったははっきりとは覚えていません。
きっと、このわかりやすい法律名の通り、”田畑を開墾したら永久に自分のものにできる”ということだと思います。

墾田永年私財法と著作権法は似ている?!

ところで、この墾田永年私財法を語る上で関係してくるのが”著作権法”です。

でも、いったい何の関係があるのか?!

それをわかりやすく説明してくれる秀逸な書籍が、冒頭の画像にある「岡本薫『小中学生のための初めて学ぶ著作権(新装改訂版)』(朝日学生新聞社)」です。

元・文部科学省著作権課長である岡本氏による著作権入門書籍なのですが、題名のとおり小中学生向けということで、基本的に漢字にはルビがふられており、また図やイラストも多く用いられており、とても読みやすい書籍です。

そして、この本の第5話(46〜53頁)「著作権はなぜあたえられているのか?」の説明として墾田永年私財法(この法の前に存在した班田収授法、三世一身法とともに)が登場します。

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(※岡本薫『小中学生のための初めて学ぶ著作権(新装改訂版)』(朝日学生新聞社)46頁より引用)

従来の班田収授法の時代は、頑張って開墾してもそれは天皇の土地になってしまう。でも、墾田永年私財法では、それは永久に自分(自分の家)のものになる。
つまり、”開墾”という頑張った作業に対しての見返り、インセンティブとして”永久に自分のものになる”ということを与えることで、当時の人々はこぞって開墾していったわけです。

著作権法に基づいて発生する著作権という権利も、この墾田永年私財法と同様に、著作物の創作活動に対して、その著作物が無断で使われることがないように法律(と司法)が保護してくれるというインセンティブであるわけです。

班田収授法の時代のように、いくら頑張ってもそれが自分のものにならなければ人々はやる気を失います。しかし、墾田永年私財法、そして著作権法のような権利が与えられるのであれば、頑張ろうという気になりますよね。

それによって、墾田永年私財法時代では田畑が、著作権法では著作物が多く生まれることになるわけです。

かなりお勧めの本です

実はこの本、児童・生徒向けにわかりやすく書かれているのもポイントですが、それ以外にもポイントがいくつかあり、大人でも十分読むべき本であると言えます。

まず、先述のとおり図やイラストも多いことに加え、平易な文で書かれているだけでなく、著作権法を一通り解説していることです。
これ1冊読むだけで、著作権についての基本的な知識を得ることができます。

さらに、著作権だけでなくそこから派生する”契約”(第5章)であったり、”自由と民主主義を使いこなせる大人になってください”という第6章も、未来を担う子ども達には重要なところです。

他にも、映画の著作権者(著作権法29条)のルールについて、なぜ映画会社に有利で映画監督に不利なルールになっているのか、という説明では

「映画業界」の「政治力」が強かったから
(岡本薫『小中学生のための初めて学ぶ著作権(新装改訂版)』(朝日学生新聞社)128頁より引用)

というド正論まで教えてくれます。

このように、小中学生はもちろん、著作権ってよくわからないという大人にもかなりお勧めの良書だと思います。


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