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「好きだけど、諦める」をなくしたい!楽しく料理に関わり続けるための挑戦

離職率51.5%。

これは、飲食サービス業・宿泊業における3年以内離職者の割合だ(厚生労働省の調査より)。全業界の31.2%と比較しても大きな数字となっている。

今回取材したえいさんも、幼い頃からあこがれ続けた料理人を諦めた一人だ。

自ら望んで就職する人が多いはずなのに、なぜ3年以内に半数も辞めてしまうのか。好きなことのはずなのに、なぜ続けられないのか。

生き残れないと感じて諦めた料理に、現在再び向き合っているえいさんに話をうかがった。

えいさんの経歴
鋸山(のこぎりやま)BASE cafe & market のオーナー。
調理の専門学校を卒業後、フレンチレストランに勤務し、デザートを担当。サラリーマンに転職したあとフリーランスとして独立。飲食業界から離れた後も飲食への興味を持ち続け、2019年からは料理人が自由に楽しく創作料理を表現できるイベント「俺達のビストロ(俺ビス)」を不定期で開催している。
2021年10月より鋸山BASEをパートナーのトミーさんとオープンし、2023年3月からは業態を「カフェ&マーケット」としてリニューアルオープンする。

今人生を変えないと、多分ずっとこのままだ

写真:イメージ

えいさんはかつてレストランで働いていた。そこは、終電を過ぎるまで働くために寮生活をしなければならないところだった。

「毎日長時間労働なうえ、休みの日も半日仕込みでほぼ休めませんでした。モラハラもありました。料理のスキルだけでなく、肉体の強さも必要とされることに違和感がありました」

そんな環境で4年間働き続けたえいさん。当時はつらさに耐えるからこそ自分のお店を持った時に頑張れると思っていた。しかし、ずっとつらい環境で働き続けることに限界を感じ、22歳のときに飲食業界を離れた。

「幼稚園生の頃から包丁を握っていたほど好きな料理を辞めるのは、つらい決断でした。でも『今人生を変えないと、多分ずっとこのままだ』という危機感がそのつらさを上回り、好きな飲食の道を離れることにしたんです」

いつか飲食業界に戻る希望をかすかに抱きつつ、一念発起してサラリーマンに挑戦した。サラリーマンとして4年ほど働くかたわらで、楽しく自由に料理をするようになった。その結果、料理が好きだった頃を思い出し、再び飲食に関わるようになった。

写真:俺ビス第1回「駄菓子のフルコース」でえいさんが作ったタルト

「飲食業界を離れてみて、料理の楽しさを改めて感じたんです。人から依頼されて料理を作るんじゃなくて、アドリブで作るのって楽しいなって。この楽しさを飲食業界で働く人たちにも思い出してほしい気持ちから『俺たちのビストロ(以下、俺ビス)』という食のイベントを始めました」

えいさんは飲食店に勤めるつらさとして「忙しさ」「低賃金」「お店の料理しか作れないこと」の3つがあると考えた。これらのつらさを全てなくし、料理人が自由に自分の作りたい料理を楽しめるように俺ビスを始めた。これまでに4回開催し、今後も開催していきたいと考えている。

偶然が重なって奇跡的にできた店 鋸山BASE

写真:鋸山BASE店内

えいさんは現在、千葉県富津市金谷にある山のふもとに「鋸山BASE」という店を構えている。

「実はずっと、お店を持つことには消極的でした。でも偶然が重なって、奇跡的にお店を開くことになったんです」

場所に縛られること、ランニングコストがかかること、集客が難しいことなどから、お店を開いても料理を嫌いになりそうだと思っていたそう。しかし、鋸山BASEはその3つの不安を全て解消するものだった。

「そもそも、鋸山BASEは『お店を開こう!』と思って開いたわけじゃないんです。パートナーと2人で住める物件を探したら、たまたまお店のスペースが併設されている物件に住むことになった。しかもその物件は観光地にあるので、集客はある程度見込める。2人でやれば人件費もかからないし、お店を開かないともったいない!と思って、鋸山BASEを始めることにしました」

写真:鋸山BASEオリジナルクレープ

こうして2021年に鋸山BASEがオープンし、コーラや古着、おしるこなど様々なものを販売した。

2022年にはコンセプトを「大人も子どもも楽しめる駄菓子屋」とし、駄菓子を中心とした商品を販売。駄菓子アイスやふクレア(ふ菓子×エクレア)などの駄菓子を用いたスイーツや、それに合うコーヒーの販売もしていた。

遊び心と温もりと やりたいことをやるために

写真:鋸山BASE外装

2023年3月、鋸山BASEは駄菓子を中心としたお店から「カフェ&マーケット」に生まれ変わる。

「鋸山BASEをつくるとき、テーマを『コラボ』にしたんです。クリエイターとの化学反応を作っていきたいと考えていたので。でも正直、駄菓子をテーマにすると商標登録の関係でやりにくい部分も多かったんですよね。2023年からはよりコラボしやすいように、抽象度の高いコンセプトのお店にリニューアルすることにしました」

新しいコンセプトは「遊び心と温もりと」。遊び心は「親しみの中にある洗練美」、温もりは「商品やサービスの先に人を感じる体温」と定義づけている。
「鋸山BASEをリニューアルするにあたって、店舗開発者のまさきさんにお店のコンセプトを整理してもらいました。そのときに『2人の人柄を前面に出したお店にした方がいい。その方が長く愛されるお店になると思う』って言われたんです。観光地という立地と、2人が持つリソースをかけ合わせた最適な形にリニューアルできて、かなり満足しています」

写真:鋸山BASE店内

リニューアル後は、えいさんがカフェを担当し、パートナーのトミーさんがマーケットを担当する。カフェメニューには新たにクレープが加わり、より遊び心が溢れた飲食物の販売がおこなわれる。一方ショップはオリジナル商品や、千葉県各地のお土産を扱う。トミーさんの近すぎず遠すぎない距離感の温もりある接客も楽しみだ。

さらに、今後はコラボにも力を入れていく。若手が主体になってチャレンジしているプロダクトをメインに、コラボ商品を展開していく予定だ。

「好きだけど諦めなきゃいけない」と思っている人へ一言

写真:楽しそうに話すえいさん

技術を求められる職では、上には上がたくさんいる。その人たちと比べて自分の実力のなさに絶望し、好きだけど諦める決断をする人も多いだろう。そんな人に対し、えいさんは好きなことに関わるパーセンテージを調整することを勧めている。

「例えば料理人だと、『料理する仕事しか選べない』ってとらえる人も多い。でもお客さんは多様でいろんなニーズを持っているから、必ずしも料理することだけを仕事にする必要はないと思うんですよね。100%好きなことに注力するのが辛ければ、別の仕事をしながら50%くらいにしてもいい。どんなパーセンテージでも続けていればスキルアップできるので、好きなことを好きなまま続けられるように関わり方を調整してみてほしいと思います。

でも実際にパーセンテージをコントロールするのは難しいことなので、自分の背中で語っていきたいですね。ロールモデルとして生きていくことで、同じような生き方をしたい人の役に立てたらいいなって思います。鋸山BASEに来てもらえれば、お話聞きますよ」

好きなことを諦めた経験を経て、より自由に好きなことに取り組んでいるえいさんがつくる、温もりと遊び心のあるお店をぜひ一度訪ねてみてほしい。

鋸山BASE(のこぎりやまベース)
営業日:土日祝 11:00〜17:00
場所:千葉県富津市金谷4046-3
   鋸山ロープウェイ 駐車場目の前
アクセス:浜金谷駅から徒歩約8分


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