誰も私を救えない
生と死を経験するのは
わたしの人生でわたし一人だけだから
私たちは決して互いの得体を知ることがない
あなたはわたしに名をつけられない
同様にわたしはあなたを救えない
愛する誰かをそばに留めて
互いの生を共有した気になれば
そんな心地のいい酔いに身を任せれば
私自身の得体の知れなささえ
忘れていられるのかもしれない
でもどれだけ近くにいたって
わたしはあなたの視線の先にあるものが
やっぱり分からないよ
あなたの構造を目で確かめたとて
あなたを知ったようには思えない
そしてそれ以上に
あなたの存在は
同じ場所に留められるには惜しすぎる
私の存在も然り
あなたはそばにいてもいなくてもいい
愛しているからこそ
愛されているからこそ
個として生きていかなければ。
ただ
かつてあなたの吸って吐いた息が雲に
やがてベランダの緑を潤す雨に
いつか一杯の水道水に
そしてようやく私のからだを流れる血に──
そんな環世界の美しさを
あなたもその目で見つめていること
これだけを信じよう
私の救いは私の輪郭
私とあなたを隔てる肌の
冷酷なまでの確かさと
その優しい暖かさ
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