PCTルートにおける特許明細書の「逐語訳」の要否について

先日、こちらの記事「人手翻訳vs.機械翻訳ガチバトル!」にて、どれが私の翻訳なのか、そしてどれが機械翻訳なのか、というクイズを出し、意見をTwitterのアンケートで募ってみたところ、次のような結果になりました。
(ちなみに、リンク先記事の①がDeepL、②がGoogle翻訳、③が内田訳、④がChatGTPが正解でした。)

驚いたことに、かなり多数の翻訳者勢が①DeepLに投票していたのです。(※なお、特許翻訳者でない人にもご協力いただきました。)

特に特許に関しては「逐語訳がいい」という「神話」のようなものがずっと信じられているように感じられることがあります。

その根拠として「PCT出願の翻訳はミラートランスレーションをしなければならない」というものがあるように思います。確かに、「平成27年9月30日までの審査に適用される特許・実用新案審査基準」には、「日本語として適正な逐語訳による翻訳文(中略)を提出しなければならない」という定めがあります。

1.外国語書面出願制度による出願
1.4 翻訳文
(3) 第 36 条の 2 第 2 項に規定する翻訳文としては、日本語として適正な逐語訳による翻訳文(外国語書面の語句を一対一に文脈に沿って適正な日本語に翻訳した翻訳文)を提出しなければならない。
(中略)
5.1.2 原文新規事項の具体的判断基準 (1) まず審査官は外国語書面の語句を一対一に文脈に沿って適正な日本語に翻訳した翻訳文を想定す る(以下「仮想翻訳文」という。)。その仮想翻訳文に記載した事項の範囲内のものを外国語書面に記載し た事項の範囲内のものとして取り扱う。仮想翻訳文に記載した事項の範囲内であるか否かの判断基準 は、「第Ⅲ部 第Ⅰ節 新規事項」における当初明細書等に記載した事項の範囲内であるか否かの判断 基準と同一とする。

平成27年9月30日までの審査に適用される審査基準

しかし、平成27年10月1日以降の審査基準ではそのような文言は削除されており、次のような記載となっています。

2.1 明細書等に原文新規事項が存在するか否かの判断
審査官は、外国語書面が適正な日本語に翻訳された翻訳文(以下この章におい て「仮想翻訳文」という。)を想定し、明細書等がその仮想翻訳文に対する補正 後の明細書等であると仮定した場合に、その補正がその仮想翻訳文との関係に おいて、新規事項を追加する補正であるか否かで判断する。

平成27年10月1日以降の審査基準

さらに次のような記載もあります。

2.3 外国語書面を照合すべきケースの類型
(1) 明細書等の記載が不自然又は不合理なため、明細書等に原文新規事項が存在している旨の疑義がある場合
誤訳が発生する代表的な例は、翻訳すべき語句等の見落とし(例 1)、単語 の意味や文脈、文法解釈の誤り(例 2 及び例 3)である。このような場合は、 明細書等に、全体として文意がつながらない箇所や、技術常識に反する事項 が記載されている箇所が発生する。 したがって、明細書等にこのような箇所がある場合は、明細書等に誤訳が 生じており、原文新規事項が存在している疑義がある。

平成27年10月1日以降の審査基準

私が先ほどの記事で挙げた例は英訳ではありますが、まず優先すべきは新規事項がないこと、文意がつながること、技術常識に沿っていること、語句の見落としがないこと、などであることには変わりがありません。

この点について意識した翻訳を心がけていきたいものですね。

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