見出し画像

サンタファンタジーを卒業した君へ

サンタクロースって何歳まで信じていただろうか。

わたし自身の記憶を紐解いてみると、8~9歳の頃にはサンタクロースの正体に気付いていた。3人兄妹の末っ子、少し歳の離れた兄姉がいたわたしは比較的ませた子どもで、周りの友人がまだサンタクロースの存在を信じている様子を少し醒めた目で見ていたように思う。
毎年変わらず枕元に置かれるお菓子の詰まったブーツをそろそろ違うものにリニューアルしてくれたらいいのにと思いながら、でも毎年欠かさず置いてくれる両親の気持ちを思うと口には出せなかった覚えがある。

そんなわたしが数十年経って、15歳と12歳の男子と、9歳の娘、3人の母となった。わたしよりずっと可愛げのある我が子たちは、長男が小学校に入る前くらいからサンタさんへのリクエストを手紙に書くということを習慣にしはじめた。クリスマスの1ヵ月ほど前にプレゼントへのリクエストをしたためた手紙を用意し、リビングの窓辺に置く。数日後にわたしたちの手で回収された手紙は、夫婦会議にて稟議にかけられ、予算や教育的観点でGOサインが出ればプレゼント手配の段階に、これはちょっとまずいだろうとなれば、母のもとにサンタさんから連絡が入ったという体で子どもたちに再考の打診が出されることになる。
いま自分で書いていても無茶苦茶な設定。だから、サンタさんはどうやって鍵のかかった家に入って来れるんだろう、とか小さく疑問を抱きながらも長男を筆頭に我が子たちは何年もそんなクリスマスプレゼントの申込手順を踏んできた。こうすればクリスマスにはサンタクロースからプレゼントをもらえる、そんなファンタジーに心支えられながら。

でもこの数年で、わたし自身がこのクリスマスプレゼントを頼むやり取りがまるで八百長試合のようだなと感じ始めた。
きっかけは長男が小6のとき。リクエストの手紙に「スマホが欲しい」と書かれていた。友人数人がスマホを所有し出し、受験のために通っていた塾の帰りが遅くなっていたころ。スマホがあればどれほど便利かを、長男も妄想していたんだと思う。小学生でスマホ所有は無し、わたし達両親に常日ごろから言われていた長男なりの意志表示が、サンタさんへの手紙という形をとって表面化した。

9歳にはサンタの正体を知っていた元マセガキの母からすると、小6でサンタクロースを信じていないことは薄々分かっている。サンタクロースという架空の存在を打ち消してしまえば、きっと簡単。小学生でスマホはないって前々から言ってるじゃない、却下。そう一蹴できる。
そして長男にとっても、両親には頼んでいない、欲しいものを叶えてくれる「サンタクロース」に頼んでるだけ、そんな体裁が彼の本音を出しやすくした。
そんなお互いの気持ちが透けて見えるようなやり取りを敢えて演じ合うさまがまるで、裏では勝ち負けが決まっている出来レースを観客の前でやり合っている胡散臭い試合のようで、耐えがたくなった。

相手のためとは言え、母子感で繰り返される偽りの会話。どこか上滑りで目を逸らしながら行われるそれらのやり取りから解放されるべく、長男の目を真っ直ぐ見て「ね、本当はもう分かってるよね。」と言ってみた。
サンタさんは本当は居ないって、もう気付いてるよね、と。

一瞬面喰った様子だった長男、でもどこか清々しい表情でニヤリと笑って、前年にごみ箱に捨てられたAmazonからの領収書に自分が頼んだプレゼントが記載されていたこと、そこに書かれた宛名が母の名前だったことで全てが分かったのだと教えてくれた。わたしの詰めの甘さが、彼のサンタクロースへのファンタジーを強制終了してしまっていたらしい。

そうして長男がサンタファンタジーから卒業したあとも、我が家では次男と娘にあげるプレゼントのためのやり取りが毎年続いてきた。でも昨年あたりから、小学校高学年になった次男の口ぶりに出来レース感が出てきた。
今年のクリスマスプレゼントどうしようかな、聞えよがしの独り言であれもいいけどこれもいい、そう言って明らかに両親の顔色を窺う。事前調査なんだろうな、半分聞こえてるけどくらいのスタンスで彼の言葉を聞き流しながら、そろそろ次男もサンタファンタジー卒業かなと感じていた。

そして今年のクリスマス、母子共に忙しくてサンタさんへの手紙を書かないまま気付いたらクリスマスの1週間前になっていた。そういえば今年のプレゼントは要らないの?と、子どもたちに問うと、途端に慌てだす二人。挙句の果てに23日までに手紙を出せばクリスマスには届くと思ってた、とアスクル的な発想で逆切れしてきたので、これはそろそろ次男をこちら側に呼び寄せる時期だと判断し、3年前の長男同様に次男に切り出した。
「サンタさんは誰か分かってるよね、お兄ちゃんにも同じ6年生のときに話したんだけど。」その言葉に少し驚きながらも、兄と同列に並べる悦びでニヤリ笑いがこぼれる次男。やっぱり君もか、と思う母。だってこんな腹の探り合い、お互いのそろそろ疲れてきたよね、と。

サンタクロースという架空の存在を介してこそ欲しいものをリクエスト出来るクリスマスというイベント。そんなサンタファンタジーを卒業した君たちはもう、面と向かって欲しいものや叶えたいことを口に出来るだけ成長したし、それを手にするために相手を説得する力も持っているはず。これからは「サンタさんへ」ではなく、依頼したい相手の目をしっかり見て願いを叶えていけるひとになってくれることを、母は切に願ってる。サンタクロースでたくさん練習してきたから、きっと出来るよね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?