雛人形を選んで、母になる。

娘が生まれて早2か月半。だいぶ生活のリズムも整ってきて、子どもとの毎日にも慣れてきた。


いつものように里帰り先の実家で両親と3人でリビングにいたときのこと。

「初節句のお祝いで、雛人形を買ってあげたいんだけど。」

と父が言ってくれた。


そういえばそうだった。気付けばもう2月で、娘の初節句がもうすぐやってくる。思いつきもしなかった。女の子だから、そうかお雛祭りするのよね。

「そっか、もうそんな時期か~。ありがとう~。」

と何となしに返事をした。

正直なところ、お雛様は選ぶにしてもコンパクトで収納しやすいものをネットで探してさくっと自分買うんだろうな~くらいに思っていた。


お雛様にまつわる私の記憶は、そんなにパッとしない。

私のひな人形は、大きな七段飾り。母方の祖父母が買ってくれたもので、小さな部屋であれば丸々占拠してしまうくらいの大きなお雛様。
お雛様を毎年出してもらえるのは嬉しかったけれど、どうしてもあの大きな七段飾りを引っ張り出してきて飾る→片付けるのがめちゃくちゃ手間、っていう印象の方が強かった。

そして実は、ひな祭りだよ~って言って皆でご飯を囲んでも、正直何を祝っているのかよく分からん。それが、私のお雛祭りに関する記憶だった。


そんな私だから、当然「娘ちゃんのためのお雛様を買ってあげるよ!」と言われたところで、そこまでときめかない。

うーん、ちっちゃいのでいいや。収納しやすいの。くらいに思っていた。


それとは反対に、両親(というか特に母)はとても張り切ってくれ、事前に下見と称して地元の人形屋さんを回っては、

「着物の着せ方も色々あってね…」
だとか
「○○っていう作家さんのお人形がとてもかわいくて!」
だとかの話を聞かせてくれた。

残念ながら今までひな人形に対して「かわいい」っていう気持ちをこれまでにあまり持てたことのなかった(ごめんなさい笑)私は、この両親との激しい温度差に何とも申し訳ない気持ちになりながらも、
「あ、そうなんだ~」「へえ~」
と、まあ適当な返事をしていた。


そもそも、どういう観点でお雛様を選ぶの?
お顔とか着物で全然違うって言われるけど、そこに対してこだわり持てるほど知識ない…し、興味もな(ry

だから、シンプルで、インテリアに馴染んで、コンパクトで収納しやすいやつがいいわ。
うん、それに限る

って、思っていた。


そして週末になり、両親と娘と4人で雛人形を見に行った。

2軒お店を見ることにしていて、1軒目は品ぞろえ豊富な大きい専門店。

案の定、お店で実物を見てもチラシで見ていた印象と大きく変わらず、
正直目の前にいろいろ並べられても何が違うのか分からない。

もういいわ~、コンパクトなやつでいい

でも、どうしてもここ数日気になっていたのが、両親のキラキラした目。笑
初孫に一生ものの雛人形を買ってあげよう!と、とても楽しみにしてくれている。
だけどそこまでテンションを上げられない私、だからこの日は「せっかくだから、両親が喜んでくれるようなものを選ぼう」くらいに思っていた。


とはいえやはり1軒目ではピンとこず、2軒目は地元の老舗の人形屋さんへ。

お店は昔からある古い商店街の一角にあり、特に目立ちもせず何も知らなければ素通りしてしまいそうなくらいひっそりとしていた。

「こんにちは~」
と中に入ると、お客は私たちのみ。中も狭くて、なんだか薄暗い。


でもこの店が、すごかった。


中へ入っていくと、目を引くのがまず美しい着物。
見たこともないような変わった柄ながらも、上品で艶やか。
お雛様は赤と黒って何となく思っていた私のイメージを覆してきた。
殿と姫どちらも黄色っぽい着物を着ている人形もいる。殿が柄の大きな着物を着ている人形も。
こんなのもありなんだ、と思わされるような色の着物でも奇をてらっているような感じではなく、ちゃんと古典的で風格を感じさせる。驚いた。


着物の美しさに惹かれてじっと眺めていると、次にその顔のきれいさに気付く。
どこかお雛様って怖いなと思ったりしていたけれど、そんな印象は一切与えず、見ている人をまるで癒してくれるようなお顔だった。


ここにきて初めて、選ぶのがとても楽しくなった。

迷いに迷って、「これかなぁ」というものが決まりかけたその時。
何となしに視線を向けた先にあった人形に目が留まった。

それは他よりも一回り小さい「芥子雛」と呼ばれるお雛様。
小さいながらも着物の珍しい柄がとても美しくて目を惹く。
そしてお顔が他の人形とは少し違っていて、「書き目(=人形の顔の中にガラスの目が入れられているのではなく、筆で目が書かれたもの)」のはんなりとした上品な顔だった。

そして一回り小さいそのサイズが、小さく生まれてきた自分の娘を思わせるようで何とも可愛く感じられる。


その人形から目が離せなくなって見ていたとき、ふと両親の反応が気になった。どうやら、せっかくだからもう一回り大きな人形を買ってくれるつもりだという。


正直、ものすごーーーく悩ましかった。
なぜなら、両親がこうした場面で自分の意見を言ってくることは本当に稀だから。


ちなみに言うと、基本うちの両親は「あなたの好きなように、自由にやりなさい」というスタンスの持ち主で、これまで私はそれはそれは自由にやらせてもらってきた。

だからこそ、両親がちょっとでも自らの希望らしきものを口にしたときには、私はそれを全力で叶えたいと思ってきた。食べたいものだったり、行きたいところだったり、ちょっとしたことでも。
彼らが数少ないながらも口にするそれを叶えるのが、私は嬉しかった。


だからこの時も、すごく珍しかった。
両親はどうやら、私が持っているのが豪華な七段飾りだから、初孫に買い与えるとしたら七段まではいかずとも五段や三段、もし段飾りでなければ豪華で大きな親王飾りを買ってあげたいと思っていたようだった。

もしこれが普段の私の自分のための買い物なら、迷わず自分が一番いいと思ったものを選んでいたと思う。
けれど、この日は私が喜ばせたいといつも願っている両親が、数少ない自らの希望を述べてきた。・・・悩ましい。


迷いまくっていた私は、ふと父の腕に抱かれていた娘を眺めた。
抱っこされながらすやすやと寝ていて、本当にかわいい。


その時思った。

あ、私は今、この子の母親として、この子に与えてあげたいものを選んでいるんだな。と。

今の私は、娘じゃなくて、母でいなければいけないんだな。とも。


そんなことを考えていたら、母が近くへやってきて、
「あなたが娘ちゃんのために1番いいなと思うものを選んであげなさいね。」
と言ってくれた。

この言葉にも背中を押してもらい、結局、その芥子雛を選ばせてもらった。
(父はまだちょっと「三人官女はつけなくていいの~?」と残念そうだったけれど笑)



無事に雛人形選びが終わって店を後にしたその時、なんだか初めて雛祭りの意味が分かったような気がした。

今日まで健康で元気でいてくれて、ありがとう。
世界一大事な、自分の可愛い娘が、どうか健やかに育ってくれますように。
どうかたくさんの幸せが、この子に訪れますように。

そんな親の願いを込めて、お祝いするんだね。って分かった。


母親として、自分の娘に1番選んであげたいと思う雛人形を選べてよかった。

これからは毎年、楽しみだね。雛祭り。


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