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牛乃ジャズ探訪(6) Joey Alexander

牛心。です、有名かどうかは無視してジャズプレイヤーを啓蒙していく連載です。
ジャズに詳しい人なら彼の名を知らない人はいないでしょうが、今回はジョーイ・アレキサンダーを紹介したいと思います。

ジョーイ・アレキサンダー(Pf)

2003年インドネシアはバリ島生まれ。いまが2018年の5月なので15歳。
若い、けどデビューの頃から比べると随分大人になった印象があります。どんなキャリアかはこちらのサイトがまぁまぁ詳しい。

ざっくりいうと、11歳でニューヨークはリンカーンホールに出演しデビューした後、様々なコンサートやジャズフェスに出演し、2016年にリーダーアルバム『COUNTDOWN』で第59回グラミー賞「最優秀ジャズ・インストゥルメント・ソロ賞」にノミネート。

いくつか動画を貼ってみます。

世界中のジャズ界隈に衝撃をもたらしたGiantStepsも。

どうでしょう。僕も最初は「キッズだからきっとそれなりだろう」と斜に構えて動画再生ボタンを押したのですが、その考えの浅はかさを思い知らされました。
これは完全に世界トップクラスのジャズサウンドです。

どこが、と言えばきりがないのですが、敢えて1つ挙げるとしたら、彼のプレイはハーモニーを守りながらモチーフやアイデアを展開しています。
ハーモニーを守る(もしくは意図的に操作する)のはジャズという音楽のアイデンティティですが、それだけだとちょっと退屈で、どういうフレージングやチャレンジをするかがトッププレイヤーには要求されます。
しかも彼のピアノサウンドが古典的なジャズプレイヤーのそれをしっかり踏襲しており、「ハービー・ハンコック好きなんだろうな」「ここのとこビル・エヴァンスだ」とか、沢山のレコードにあたりながら吸収しているのが分かります。分かる人には分かると思います、きっと。

神童は大人になる

嫌な言い方になったらごめんなさい。
子どものうちに楽器を始めてると、大人は基本的に「すごいね!」「天才か!」という評価をして褒めたりおだてたりします。それは、僕はとてもいい傾向だと思っています。

ですが、その子が子どもの頃のまま大人になっちゃうと、子どもの頃受けてきた好意がどんどん無くなっていく感覚に陥ってしまう。だんだんと「それくらいできるのは他にもいる」という状況になってきて、キャリアは他より長いけど、周りにもっと凄いのが出てきて、、、、と。
そこでその子が「これまでやってきたこと」をちゃんと活用して伸びていけるなら、その子のペースでいいのでやっていくべきでしょう。

この「子どもから大人になる」という切り替え時期に、どんな音楽教育が必要なのかをずっと考えています。
いまのところ「子ども扱いしない」ことが、一番効果的だと思ってます。

特にいまの小・中学生が置かれている状況、こと音楽に限ってですが、ネット検索すれば世界中に凄いプレイヤーがいる中で自分が何をやればいいのか途方にくれているのではないかと感じるのです。
10代前半までに楽器をやらせてみて、ハマったならすぐに上手くなっていきます。
重要なのは、その上手くなった事実ではなく、そこからもっと上手くなるための手法なんじゃないかと。

神童と呼ばれた子も、そのうち神童ではなくなるのですからね。
その点、ジョーイ・アレキサンダーはこの数年でサウンドにより磨きがかかり、ずっと成長しているのが見てとれます。
子ども扱いされてないというか、すでに彼は年齢を超越した世界にいます。
どうやってそういう世界に子どもを送るのか?って、「子どもだからできない」「子どもだからわからない」という先入観を大人が捨てることから始めなきゃいけないと思います。

親のジャズ愛を感じる

ジョーイ・アレキサンダーの新しいアルバムはセロニアス・モンクの曲ばかりで構成されています。

これがまた素晴らしくモンクっぽくて、モンクの曲の面白さと、モンクのソロのヘンテコ感がちゃんと吸収できてる。
恐らくですけど、彼は父がジャズオタクらしいので、その父親とジャズの話を沢山しながら育ったんじゃないかな。

「ジャズ奏者はコルトレーンチェンジで挫折する」
GiantStepsやったろ!

「なんだかんだでモードもコルトレーンのがかっこいいよな」
My Favorite Thingsやったろ!

「こういう新しいプレイヤーがいるぞ」
Chris Potterと共演したろ!

いや、まぁ、そんな上手くはいかんですよ普通は(笑)
けど少なくとも、沢山のミュージシャンを知ってる人が身近にいたら、子どもは自然とそれらから学ぶんでしょうね。

なので、神童は才能というより、親が作るもんだろうなぁと思う次第でした。

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牛心。高知在住の音楽家・ギタリスト。感性やセンスや才能という言葉でひとくくりにされることを1つ1つ紐解いて、最終的には感性やセンスや才能を撲滅したいと考えるラジカル・ジャズ活動家でもある。(活動家ではない)

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