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牛乃ジャズ探訪(12) Justin Kauflin

高知の音楽家・ギタリストの牛心。です、暗きを照らすようなジャズレビューを目指す連載です。
「さすがにこの人は有名じゃろ・・・・」と思っている人も、まるで知られてないというのがジャズ界隈です。前回のコリー・ヘンリーも結構有名なプレイヤーだと思ってたんですが、特に楽器が違うと知らないみたいなところは多々あります。

そういうことで、今回は本当に知られてなさそうなシリーズです。

ジャスティン・コーフリン(Pf)

ジャスティン・コーフリンは1986年メリーランド州生まれのピアニストです。
幼少からピアノとヴァイオリンを始めて演奏会などで活躍いていたのですが、11歳のとき滲出性網膜症により視力を失ってしまいます。

盲目になったのを機にジャズピアニストを志し、15歳の頃にはジャズフェスなどに出演。ウィリアム・パターソン大学に入学してからはクラーク・テリーらに師事し腕を磨いた。詳しいバイオはwikiをどうぞ。

プレイスタイルはオールドスクールジャズを踏襲しつつ、現代らしいアレンジも取り入れているハイブリッド型と言えるでしょう。
ですが彼の美点は即興がどうとかアレンジがどうとかいうより、音色がすごく好みなんです。

語彙力なくいえば丸い甘いんですが、それに加えてピアニストっぽい表現をすると、木が鳴っている音だし、弦の響かせ方が上手い
これはクラシックピアノの影響が大きいんだと思います。


クラシックからジャズへの転向が多い理由

以下は主にピアニストの話です。
皮肉っぽい言い方になりますが、クラシック出身のジャズプレイヤーはとても多く、その逆はとても少ない

理由は単純、楽譜力です。
ジャズはトップメロディとコードを覚えればプレイできますが、クラシックは当然、楽譜を再現するのが本旨ですから楽譜が読めなければ始まりません。

ところでクラシックからジャズに転向したアマチュアが一番悩んでいるのは、タイム感のようです。
多くのクラシック曲はタイムが伸び縮みするのが普通です。一方ジャズやポップスは基本的にイン・テンポです。インテンポというのは一定のテンポという意味です。
特に日本のクラシック教育者はイン・テンポは味気ないと教えがちで、それは間違いでもないと思いますが、それによりクラシックプレイヤーは(テンポが伸び縮みに慣れすぎて)イン・テンポへの意識変化が難しいようです。

とはいえテクニックは磨かれているので、「イン・テンポによるプレイングが基本だよ」と教えると調整していいプレイになります。

逆に、ジャズが好きでジャズからピアノ始めましたという人もイン・テンポで演奏するのは難しい。こちらの場合、先入観はないのですが単純に楽器力が足りてないケースです。
クラシック教育を受けていない場合、楽譜力もあまりない。というか楽譜がなくても大丈夫だろうと思っている人が多いように感じます。
楽譜力の無さもイン・テンポでプレイする障壁になっています、なぜなら譜割の理解こそリズムの基本だからです。特に休符と音の長さに対する理解は、楽譜で可視化することで容易になります。楽譜力の無さは、リズム感を鍛える上で大きなネックになります。

楽譜力の有無がテクニックを左右するというと「そんなバカな」と思う方も少なからずいると思いますが、実感として9割9分は関係あります。
なので僕のレッスンでは単純でもいいので譜割で理解する時間を設けます。
どのレッスンでもそうしています。


バリアフリーなジャズ界隈

身体的なペナルティを持つジャズプレイヤーは結構いますが、ことジャズピアノではミッシェル・ペトルチアーニが有名です。

盲目ということでいえばジョージ・シアリング、アート・テイタム、レニー・トリスターノ、ジャズでなければスティーヴィー・ワンダーは盲目です。
デヴィッド・サンボーンは小児麻痺のリハビリで始めたサックスで世界的なプレイヤーになりましたし、ジャンゴ・ラインハルトも事故で指を失いながら超絶的なギターテクニックをします。

このように、ジャズというフォーマットは障害者にとって門戸を広げているのです。
ジャズティン・コーフリンについても、音だけ聴いて視力がどうとかまるでわかりませんよね?

このアルバムのジャケットを見てピンと来ますか?盲導犬と一緒に移るジャズティンの凛々しさに胸打たれます。
障害があろうがなかろうが、ちゃんとした音楽教育と環境があれば素晴らしいプレイヤーは育つのですね。

音楽とバリアフリーについて、もっと幅広い人に考えてもらいたなぁと思います。

牛心。
高知在住の音楽家・ギタリスト。バークリー音楽院中退というものの、在学中はジャズプレイヤーは目指してなかったし現地で活動もしてなかった。本格的にジャズをやろうと思い始めたのはここ5年くらい。

サポートなんて恐れ多い!ありがたき幸せ!!