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スタディーノート7 脳内議論

世界各地で働きバチが失踪していることを皆さまはご存知であろうか。日本でもまた多くの外国人実習生の失踪が相次いでいる。今年4月から政府により改正入管法が施行され、この5年間で日本の外国人労働者受け入れの数は増加するとされている。彼らは希望とともにやってくるのだ。しかし、その冀求を打ち砕かんとする社会構造が日本には部分的に存在している。現在滞在中のシットウェにもそんな希望を持つ若者たちがいた。
 8月にシットウェに滞在していた同じ大学である知人から日本語教室の存在を知り、繋げてもらうことができた。人との巡り合わせが良いと思える瞬間である。日本語講師の方は地元のコンピュータ大学の教授をしており、ヤンゴンでの日本人と関わる勤務経験から来日せずして日本語を習得したという。彼女自身も日本で働きたいと思ってはいるが、両親の反対を押し切れないそうだ。教室は彼女の家の部屋のスペースに机とテーブルが置いて行われていた。シャワーを浴びた後の上半身裸のおじさんが教室の横を横切るのがなんとも印象的であった。
 17時30分に彼女の家に行くとアポイントメントをとっていた私は道に迷うことを恐れ、半刻程早くホテルを後にした。しかし思う以上に早く到着してしまったので近くの売店でタバコをふかすことにした。

「今から会う人たちに日本で起きていることを話すべきか、否か」。
頭の中ではNHKノーナレで見たベトナム人実習生が搾取されるシーンが走馬灯のように駆け巡っていた。
「彼らは未だ日本語学習を始めたばかり。悲観的なことを話して意欲を減退させてしまっては本末転倒ではないか。」
「いや、しかし現状は現状である。労働力としか見なされない環境へみすみす飛び込ませるのは如何なものか。とはいえ私の拙い言語で現状を伝えることは不可能に近いであろう。」

脳内での議論が煮えきらぬまま、約束の時間は来てしまった。彼女の家に入ろうとすると早速「こんにちは」と生徒に挨拶をされる。思わず私も「こんにちは ミングラーバー」と返す。彼らとどの言語で会話するかはすでに議論の決着はついていた。(私からの会話は)日本語と二束三文のビルマ語(ラカイン語)である。日本語を一生懸命勉強する者に対して英語で近道のコミュニケーションをしたくはなかったからだ。始めの皆の前での自己紹介でも口輪筋を最大活用しゆっくりと話す。誠に滑稽な姿であったであろう。

写真1・教室の壁に貼ってある五十音表。
 
生徒は全員で四人であった。どうやら一人を除いて日本での働きたいというわけでもないらしい。ミャンマー大都市のヤンゴンでは多くの日系企業が進出し、日本語を話せる者は有利に選考を進めるそうである。白熱した議論があったこともあり、それを聞いて思わず笑みが溢れる。とはいえ、日本の現状を知った彼らの反応を確認したいという気持ちは少なからずあった。授業は日本の会社が出版元である教科書を皆で進めていく形式である。中には日本語を呟く者、一心不乱に何かメモをとっている者もいた。日本で目にする外国人たちの来日する前の段階を見ることができたようでどこか新鮮な雰囲気である。
 
19時に授業が終わる。颯爽に帰っていく生徒たちとは別に私をバイクでホテルまで送ってくれる生徒がいた。唯一日本で働きたいと言っていた彼である。日本のITの技術を学びたいという彼。また脳組織による議論が白熱するかと思えた。しかし彼はバイクに乗りながら英語で日本のアニメの話をし始めた。私の見ないジャンルであったので曖昧な相槌しかできなかったが、彼は相当日本のアニメに憧れを持っているようだ。私は彼に声が枯れんばかりのエールを送るしかなかったのだ。高田馬場で会えれば万々歳ではないか。互いに「さようなら」と言って別れた。

写真2・日本のITを学びたいという彼。

https://m.youtube.com/watch?v=BwMW9eZSLd8
「ノーナレ 画面の向こうから -ベトナム人実習生-」

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