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エンジン全開キャッシュバック。 2024.05.19 湘南ベルマーレvsアルビレックス新潟 マッチレビュー

開始時の立ち位置と嚙み合わせはこちら。

開始時の立ち位置
各ポジションの嚙み合わせ



■試合の振り返り

 雨模様の平塚でキックオフ。湘南は週半ばの柏戦から2名のメンバー変更。アンカーは茨田に代わって出場停止明けの田中、前節退場したFW福田に代わってルキアンがスターターに入る。
 新潟も2名の変更。水曜日の横浜FM戦で負傷した長谷川巧、舞行龍ジェームスに代わって谷口が左SH、千葉がCBに入った。


 試合は予想通りボールを握る新潟とそれを奪おうとする湘南の構図。7分は新潟のビルドアップをカットした大岩から湘南のカウンター。10分は小島のフィードをカットし、平岡と畑のパス交換で左サイドを深くまで突破。マイナスのクロスに池田が合わせるが、わずかにシュートは枠の右。新潟のビルドアップを抑え込んだ湘南が、序盤に決定機を迎えるがモノに出来ず。

 14分は新潟に決定機。コーナーキックの流れからゴール前至近距離で小見、谷口が続けてシュート。しかしどちらもボムグンがセーブ。
 その直後の流れから再び新潟に大きなチャンス。秋山から中盤に降りた長倉へ縦パスが通り、奥村が顔を出して鈴木孝へスルーパス。最後は長倉がシュートを放つが、ミンテがブロックに入った。立て続けに湘南はピンチを迎えるが、守備陣の奮闘でなんとか凌いだ。


 23分は湘南。大岩のフィードから畑が抜け出す。新潟が跳ね返したセカンドボールをルキアンが拾いかけるが惜しくもロスト。柏戦でもミンテのフィードから見事な抜け出しを見せた畑。そう遠くない未来にこのパターンからゴールが奪えるかもしれないし、相手が跳ね返したボールを拾う役割にルキアンを置けるのも湘南にとってメリットが大きいような気がする。

 徐々に湘南が前線から規制を駆けられなくなり、7分のような逆襲は影をひそめる。すると29分、フリーの千葉から降りてきた長倉にロブパス。ヘディングの落としを鈴木孝が受けて左サイドの谷口へパス。ワンタッチであげたクロスをニアで長倉が僅かにコースを変えてネットを揺らした。新潟が先制する。
 失点から5分後の34分、DFライン裏に蹴られたボムグンのフィードをルキアンとデンが並走しながら追いかける。するとボックス外に飛び出た小島とデンが味方同士で交錯し、こぼれたボールはルキアンの足元へ。あまりの出来事に乱れたボールタッチを整えてから落ち着いてゴールイン。予想外の形から湘南が同点に追いつく。

 前半はそのまま1-1で終了、互いに1点ずつ奪い合って折り返した。ハーフタイムで湘南は1名交代。阿部に代わってディサロが投入された。
 交代に伴って変化があったのは非保持時における最初の立ち位置。ボールの位置によって役割を入れ替えていた前半と異なり、明確に縦関係を取ってルキアンが最前線、ディサロがDH(主に秋山)を管理する役割になっていた。


 そのディサロが51分にチャンスを迎える。ルーズボールを小島まで下げた新潟に対し、ルキアンがプレッシャー。ディサロと池田も連動し、雄斗でボールを奪って最後はディサロがミドルシュート。新潟のブロックに遭うが、湘南がハーフタイムでプレッシングのギアを入れなおしたのが見られたシーンだった。

 59分に生まれた逆転ゴールはまたもディサロが起点に。中盤でのセカンドボール争いを制した田中の縦パスは、ディサロがスルーしてルキアンの足下へ。ワンタッチでディサロに落とすと、柔らかいタッチのドリブルで前進。一見パスコースは右の大外で待つ雄斗しかなさそうな場面だが、足首を返して左に走り込んだ平岡へパス。相手守備陣の裏をかくパスで平岡に時間とスペースを届けると、平岡は左足でファーサイドへシュート。小島が反応して弾いたボールを詰めたのはルキアン。この日2点目のゴールは値千金の逆転弾となった。

 得点直後の60分には51分と同じ形からボール奪取。今度はハットトリックを狙うルキアンだが、シュートは枠を超えてしまった。連続ゴールで一気に突き放せるチームになりたいものである。


 61分は新潟の反撃。コーナーキックの流れから鈴木孝がヘディングであわせてネットを揺らすがオフサイドの判定。明らかに半身が出てはいるが、割とギリギリのシーンではあった。

 スコアがひっくり返ったあとも試合の構図は変わらず。むしろ1点を追う新潟がボールを握る時間が増える。起点は前半と同じくライン間で受ける長倉になるが、複数人で対応して仕事をさせない。
 68分に湘南の選手交代。平岡に代えて奥野、池田に代えて鈴木章斗。それぞれ同じポジションに入る。

 長倉にボールを入れづらくなってきた新潟は、ならばと今度は右SB藤原がハーフスペースで受けてチャンスメイク。しかし撤退守備で中央を固める湘南の守備を崩すところにまでは至らない。
 71分に新潟の選手交代。CB千葉に代えて特別指定選手の稲村、右SH小見に代えて松田。どちらも近いタイプの選手同士での交代。


 69分のシーン。ボール奪取からルキアンがディサロに落としたところ、縦に急がず右サイドの雄斗に渡して保持の時間を作った。それまで新潟に押し込まれる場面が続いたため、味方の呼吸を整える点でも大きな意味のあるパスであり、章斗や福田とは異なる特徴を見せたシーンである。

 85分は新潟が迎えた後半最大の決定機。ライン間で細かくパスを繋ぎ、左サイドを抜け出した谷口がクロス。ファーサイドからフリーで走り込んだ松田のボレーシュートはクロスバーを叩いた。


 87分に湘南は最後の選手交代。ルキアンを下げて茨田を投入し、ディサロを最前線、章斗を左SH、茨田を右SHに置いた5-4-1に変更して逃げ切りを図る。
 所々危ないシーンがありつつも、アディショナルタイムもしのぎ切った湘南。前節のショッキングな敗戦を引きずることなく2-1で逆転勝利を掴み取った。


■新潟の湘南攻略と、湘南の修正

 解説の林氏もDAZNの中継内で触れている通り、両チームのシステムが異なることによる噛み合わせのズレが試合の動くポイントとなった。

 湘南は相手がボールを保持するエリアによって、奪い方を調整しているように見えた。ゴールキックのような相手陣内深い位置で新潟が保持する場合は激しくプレスをかけ、できるだけゴールに近い位置で奪い切る狙い。ハーフライン近くまでボールを運ばれてからは、ボールに近い新潟の選手たちを前から順に捕まえていき、足りなければDFラインの選手もスライド。あらかじめパスの届け先を消し、ボールホルダーに長いボールを蹴らせて回収する狙いだったように思われる。
 4:47は後者が上手くいったシーン。ボールを持った千葉はボールを届ける選択肢をどこにも見つけられないようなジェスチャーをした後、パスというよりもボールを捨てるキック。ボールはボムグンが難なく回収して湘南がボール保持権を得る。
 7:09は前者の好例で、前線とDFラインまでが縦に連動してボールを奪った良いシーン。阿部がGK小島、ルキアンが千葉へプレッシャーをかけ、池田がサポートによる奥村をマーク、雄斗が星に寄せつつ内側を切ると、縦のコースに入った谷口へのパスを大岩がカットしてカウンター。クロスを上げるまでには至らなかったが、ショートカウンターからゴール前に4人以上が押し寄せる迫力ある攻撃だった。

前からハメに行って、相手陣内の深い位置で奪い切ったシーン

 湘南が思い描く展開で試合を運べなかったのは、前者よりも後者の形に綻びがあり、また新潟はその綻びを広げるのが上手なチームであったためであろう。先ほど取り上げた4分のシーンをきっかけに、新潟はどのエリアならプレッシャーを受けずボールを送れるかを検討していたと思われる。もともとはFWかWGがDFラインと駆け引きし、FWの一人が中盤の背後、とくに田中の後ろを使うのがプランだったはずだ。
 開始早々22秒の時点で、千葉から降りる鈴木孝のルートが開通。14分はDFラインに降りた秋山から中盤に降りた長倉の縦パスが通ってチャンスにつながる。新潟の選手たちは試合開始15分間で以下の2点に気づいたのかもしれない。

新潟が見つけた湘南の綻び
1:GKを経由した後のDFラインでボールを持つ場合は時間をもらえる
2:列を降りる選手のマークは放置しがち

 とくにCBの2人と秋山は1を、奥村と長倉、鈴木孝は2に気づき、田中の背後を意識の合流地点としてプレーしていたと推測する。相手の様子を見ながら狙ったエリアを起点として先制点を挙げた新潟としては、してやったりといったところ。

新潟が見つけた湘南の綻び。
WGかFWがDFラインを引き付け、田中の背後を降りるFWが利用する。


 8分ごろのボール保持からパスミスで新潟に奪われた後のシーンから、湘南の意識づけにもブレが見られるように。具体的には奪われたボールへの寄せや牽制が緩いまま、ポジションの修正等を行っていた。確かに新潟は人の間や背後を取るのが上手な選手が揃っているため、それを警戒するのはわかる。とはいえそもそもボールがオープンで保持者がどこにでも蹴れる状態であるなら、出し手と受け手の呼吸が合えばその警戒も突破されてしまうだろう。

 24分はボールにプレッシャーがかかっていない状態でポジションの修正を行う湘南の選手たち。新潟は小見が右サイドから中央へ移動、平岡・田中・池田の背後に新潟の3選手が立って関係を作られており、フリーのデンから送られた縦パスがズレていなかったら大ピンチだったはずである。
 今週のトレーニングでスライドやポジション修正の準備をしてきたのかもしれないが、あくまでそれは応用問題。前提条件となるボールホルダーを自由にさせない状況を作れていない段階で応用に入ってしまったため、よりシンプルな形で守備を攻略されてしまっていた。


 ボールへの寄せが甘い原因がDFラインが押し上げ切れていないことによるものなのか、FWが走れておらず規制が甘いためなのかは断定できない。おそらくどちらも部分的に正しいし、メンタル的な要素も影響しているのだろう。同点になった直後に相手をはめ込むようなプレッシングが見られたのは、その部分の表れといえるかもしれない。
 失点後は意識の修正からか、降りるFWに対してCBが厳しくつくように。45分を回った直後のミンテと鈴木孝の競り合いは中々見応えのあるシーンだった。またその直前のシーンでは前線の面々も迷いなくプレッシャーをかけられていた。


 湘南はハーフタイムで意思統一による修正を実施。卵が先か鶏が先か的なプレッシャーをかけきれない問題に対して、チーム全体で前への意識を強調することで解決を図る。ルキアンが最前線で追いかけてディサロがそれに続き、中盤とDFラインも連動してスライド。前半狙われていた田中の背後のスペースはDFラインを高くして圧縮、チーム全体で守備のベクトルを前方に向けた。
 その結果、試合開始直後に見られていた相手陣内深くでのボール奪取が再現可能に。また全体がコンパクトになったことで奪ったボールの届け先が複数あり、ポジティブトランジションでも優位に立てたとも言える。ルキアンとディサロの距離感もよく、前半にはほとんどなかったワンタッチの落としを拾ってドリブル、というシーンが見られるようになり、逆転ゴールもその形から生まれていた。


 長倉に終始蹂躙されていた試合ではあるのだが、新潟が彼以外からの攻略パターンを見つけられなかったため、中央に撤退する守備でなんとか防げてしまったのだろう。谷口や小見、松田が縦に仕掛けたり、パスではなくカットインなどがあれば湘南の守備陣形が横に広がり、長倉を止めるのはもっと難しかったはずである。右SBの藤原を中心とした攻撃をもっと早くから強調されていたら危なかったかもしれない。
 怪我人等による新潟の厳しい台所事情が湘南を助けてくれた試合。不思議な勝ちを拾ったのは(1点目の事故も含め)幸運と言える。


■より上に向かうためには?

 試合内容的には敗れた柏戦の方が良かったこの試合。試合開始直後は高い位置でボールを奪えていたが、新潟の対応によって徐々にボール奪取位置が下がってしまった。その結果奪ったボールをどのように新潟ゴール前に届けるか、という点において課題が残った印象である。好調の畑が左サイドを駆け上がって平岡に繋いでチャンスを作ったシーンはいくつもあるが、GKやDFラインからボールを繋いで新潟のプレスを躱すシーンは見られなかった。
 前からプレスに来るなら頭を超すボールを蹴ってしまえば良い、と裏に走るランニングを見せたルキアンへのフィードが小島とデンによる事故を引き起こしたのはラッキーというほかない。とは言えバックラインから繋ぐスタイルこそが最強というわけではないし、とにかく前に蹴っていれば何か起きると信じるギャンブラースタイルもどうかと思う。つまりは使い分けが重要であって、どのプレーを選択するかは相手の出方次第。その点においては、新潟の方が何枚も上手だったように見えた。


 鳥栖戦と同じく、自分たちのプレスを信じてやり切った結果が勝利を呼び込んだ。ドローだった町田戦も同じ姿勢だろう。もちろんチームが一丸となって戦うそれ自体は悪くないが、より強いチームと競った時に差が出るのは相手の強みを抑えて弱みを突く、相手のことを見ながらサッカーをする(解説の林氏も同じことを言っていたが)という点なのかと思う。
 それは各プレーごとの小さな話ではなく、この相手はこういう状況下ではどのエリアが空く・味方の誰某のマークが空きがち、といった少し広めのスケールの話。だが湘南に所属している選手で、ピッチ上からそういった情報を仕入れるのが得意な選手はフィジカル的な強度の面で不足している傾向にある。才能ある彼らをチームに組み込めるか、という点は今後の完成度に影響を与えそうである。


 またチーム全体の戦い方に関して言えば、攻守の繋がりが部分的であったなという印象を持った。いい攻撃はいい守備からとはよく言われるが、高い位置で奪えればチャンスになるが、自陣で奪う場合は中々難しい。そして相手に奪われる位置が自陣寄りであるほど、思い切ったプレッシングに出られず押し込まれてしまうといった具合だ。相手陣内に蹴ってプレッシングをやり直すという手もあるが、相手の攻撃回数を増やしてしまうという点とスタミナ面においてあまり望ましい方法ではない。
 唯一畑にいい形でボールが入れば相手を一枚剥がしてなんとかしてくれるようになってきたが、彼もそろそろ警戒されてくる存在。誰か任せのビルドアップ・崩しにはいずれ限界が来るだろう。

 結局のところ、チームでボールを持てるようになる以外に勝率を上げる方法はなさそうである。サッカーがボールゲームである以上は当たり前なのだが。苦手な面と向き合いつついかに勝ち点を拾うか、湘南が(今シーズンだけではなく長期的な意味で)上に向かうには、それに向き合うしかない。


試合結果
J1リーグ第15節
湘南ベルマーレ 2-1 アルビレックス新潟

湘南:ルキアン(35',60')
新潟:長倉(30')

主審 先立 圭吾

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