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#21:私が出会った一番綺麗な男①

Bと出会う前は「私、顔とか見た目とか気にしないタイプだから」と堂々と公言していたのだが、Bは私のその考え方を見事にひっくり返した。見た目がいいのであれば、いいに越したことはないのではないか。おそらく、人生で出会った中でも一番かっこよくて…というよりも美しかった。同じ人間とは思えない、という表現をよく聞く。彼はまさにソレだった。白人系のブラジル人で、大阪に住んでいるという彼は私と同い年で、バツイチだと言っていた。tinderでプロフィール写真にしていたのは横顔だったけど、普通の人ではないのだろうという逞しい腕が顔よりも目立っていた気がする。オーランド・ブルームをさらにゴツくしたような感じだ。

会って話してみましょう、という流れになりヨドバシカメラの前で昼間の12時に待ち合わせをしようと言われた。待ち合わせの場所からしてビミョーだな、と思って大した期待はしていなかったものの、ラインがきた。
「今、どこ?」
「ちょっと遅れてるけどもうすぐ着くわよ」
「よかた」
たどたどしいものの、日本語でコミュニケーションがとれるのは楽だ。
私が指定の場所へ行くと190cm以上はあろうかと思われるBがシンプルなTシャツにジーンズ、ニットキャップをかぶってガードレールにもたれて立っていた。
「B?」と話しかけると最上級の笑顔で
「よかたー。さっき、同い年ぐらいの、チョト残念な人が僕を見てたからもしかして緋紗子かなと思ってて!あの人と違う人でよかった!」と折れるのでは…と思うほどの力で抱きしめられた。
周りの人たちはきっと私たちがまさか初対面だとは思うはずもなく、仲のいいカップルが再会を喜んでいるのだろう、というぐらいの感じで見ていた。私は決して体重が軽い体型ではないのだが(そういうところも外人に好かれやすい部分ではあると認識している)、Bはガードレールの向こう側にヒラリと移動して片手で私を持ち上げた。やばい。これは誰しも恋に落ちるやつだ。四駆の助手席にそのまま運ばれる様子をヨドバシカメラ前の人々はポカンとして見ていた。

セックスするのが楽しみでたまらなくなってきた私は
「…今からどこいくの?」と聞いた。
「お茶しよ!」と元気に答えられて拍子抜けしたものの、まぁまだ昼過ぎだ。車を停めてオーバカナルのテラス席でサンドイッチとレモネードをオーダーした。

Bは見た目だけでなく、心も綺麗だった。ピュアすぎて、驚いた。私がなぜtinderをやりはじめたのか、今何を求めているのか、どんな気持ちなのか、ということを素直に語ると、涙を浮かべながら頷いて、じっと目を覗き込んでくるので、その度に私の心臓は奥の方からギュゥと締め付けられるような感覚を味わう羽目になった。
そして、ひとしきり私の話を聞いたあと、
「緋紗子、たくさん話してくれたから、Bの話するね」と語りだした頃にはBは私の手をずっと両手で握っていた。

ブラジルで日系の女の子と付き合ってたBは彼女が日本に家族で帰国することになり、別れを決意したものの、彼女はどうしてもBと別れることは受け入れられず、ビザの関係もあり結婚して連れてきたのだという。
「若かったから何も考えてなかったんだよね」
というBの表情には後悔している様子は感じられなかった。
日本に来て、趣味のバンドをしていたらそれはもう、女の子に人気があったのだとか。もちろんそうだろう。
そして、嫉妬に狂ったBの元嫁(とはいえ当時17歳の少女)は男が言われてもっともイヤなセリフのうちのひとつであろうアレを発してしまったのだ。
「バンドと私、どっちが大事なの?」
即答できなかったBと彼女は別れることになった。
単身で日本で生きていく羽目になったBはきっと苦労しただろう。昼は印刷会社で働き、夜はボディガードのバイトをして貯金をしていると言っていた。ボディガードというか、クラブとかで喧嘩が始まったりしたら止めるような仕事だ。まぁ、普通の日本人の男性なら体格差だけで怖気づくだろう。そんな生活がもう20年近く続いているという。決して貧乏くさくないのは趣味を持って、お金を使っているからだろう。大型の日本車を買い、ハーレーに乗り、楽器を楽しみ、ジムで汗をかき、ファッションを楽しむ。
こういう苦労を積んできて、人生の経験値が高い人に弱い。もちろん高級ブランドを身に着けているとかではないけど、見た目と体格がいいのでTシャツとジーンズを着ているだけでも誰もがモデルだと思うだろう。
「モデルとかしないの?」と興味本位で聞いてみたら
「そういうのは好きじゃないからなぁ。力仕事してる方が好きだから」

気がつけば17時をまわっていて、テラス席に最初からいたのは私たちだけになっていた。
「今日はボディガードのバイトがあるけど、もう少し一緒にいたい」
と手を引かれるままついていくと、シティベーカリーのコーヒーとパンを買って、駅の広場のベンチに到着した。
「緋紗子みたいな日本人の女の子、初めて会った。嬉しいな」
と語りながらパンをおいしそうに食べる姿は動画に収めたくなるほど美しかった。
多くの人が行き交う広場で、Bは
「キスしてもいい?仕事、がんばれるから」
と言って私に長い長いキスをした。

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