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#20:アルジェリアの呪術師プリンス?(後編)

不思議な魅力を持つ呪術師プリンスTとランチデートをしたその日のうちに連絡がきた。
「明日一緒に過ごさない?」と聞かれたので
「昼は仕事があるから、夜しか無理」と答えた。
次の日も朝から仕事だ。まぁ、いいセックスをした次の日はどんなに寝不足だったとしても、不思議と眠くならないものなのだけど。

部屋のチャイムが鳴り、ドアをそっと開けるとあの逞しくて滑らかな腕がちょうど私の視線の先にあった。初めて黒人とセックスするのだ。と思うと好奇心が湧き上がってくるのを抑えられなかった。当たり前のように服をゆっくりと剥がされて大きな手が身体を這う様子は見ているだけで興奮した。
どんなに凄いセックスがこれから行われるのだろう、と思う期待が大きすぎたのかもしれない。

彼のサイズは予想していたよりもはるかに普通で「あ、そういう感じね」と思わずにはいられなかった。小さくはないけど、大きくもない。かつて見た海外ポルノのソレとは別ものだと認識せざるをえなかった。
雰囲気を作るのはその他の外国人と同じく上手だし、丁寧な前戯が行われていたので気持ちよさは安定してあった。ぬるいお湯と泡がたっぷり張られたバスタブに一緒に長時間入ったことの方がセックスよりも印象に残っている。

弾けるようでありつつ、しなやかな筋肉をクッションがわりにしてバスタブに浸かるのは私にとって最高に気持ちよかった。お風呂から上がると再びセックスが始まる。バスルームからタオルをベッドに運ぶのと同じような感じで私を担いでいくのは日本人男性とはなかなか味わえない楽しさだろう。

2回ほど楽しんだあと、大層気に入った彼の腕に抱かれて眠るのも気持ちよかった。男性の香水はセクシーな気分になる。彼も何度か夜中に起きたようで、起きるたびに私の髪を撫でて静かにキスをしてくれるのはまるで付き合いたてのカップルのようだった。

問題が起こったのは朝になってからだった。
私がメイクを済ませて着替えようとしていると、ソファに裸で座ったTは私がいる方向に靴下とスニーカーを投げてきた。
「は?何??」と聞くと満足げな表情でTはこう答えた。
「さ、履かせて」
「どういうこと???」驚きのあまり動けない。
「履かせて。服も着せて」
何この人。頭がおかしいんじゃないのか。そう思わずにはいられない。
「そうやって靴を履かせてくれるのを見ると興奮するから」と、説明くさいセリフが投げかけられた。
「イヤ。自分で履いて、自分で着て。そしてさっさと出ていって」
と返したものの、ニヤニヤして私が反論している様子をソファにふんぞり返ったまま見ている。
「俺は王子だぜ?」
もう、何も言えない。きっと王子とか言ってるのも嘘だろう、と直感的に思った。そうなると、私はまたしても頭がおかしいやつとホテルの部屋に2人きりなのだ。まだ始業時間まではかなりあったので自分の支度を済ませて、私は靴下と靴を履かせるという行為に出た。ふと視線を上げると、勃っている普通サイズのモノが視界に入ってきて、なんだか不愉快な気持ちになった。

「さ。王子様のご自宅までお送りしますよ」
と言った私の言葉を聞いて、チラッと時計を確認したことを見逃さなかった。部屋に誰かいるのだ。
「どうぞ」と案内されたのは高輪の高級マンションだった。部屋数も多くないし、狭かったけど、1人で住んでいる以上の生活感があった。当たり前のように飾ってあった写真には日本人の女性が写っていた。
「え?誰これ?」と聞くと
「財布」と答えたのだ。笑いながら。

最低だ。こんな男と寝てしまった自分を恥じたし、何よりも「呪術師でプリンスなんてエキゾチックで素敵」なんて思ってしまった自分に嫌気が差した。
その写真の中の女性は少なくとも幸せそうだった。聞くと、お医者さんをしているらしい。そして、Tは二交代制の工場で働いているという。王子だから、お金のためではなく、社会勉強のために。

ため息がでる。こうやって一生懸命働いている知らない女性の買ったマンションに平気で昨日寝た女を連れてくる人間がいるのだ。とはいえ、彼はなぜ私の誕生月を当てたのだろう?と思うと少しはファンタジーの要素を残しておけるかな、と思いながら部屋を出て彼の連絡先を削除した。

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