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過労で倒れる5分前

 死の感覚、それがすり寄る足音に対して、それなりの人が興味を持っているのではないかと思います。私もその1人で、幸か不幸か臨死――と言うには温いかも知れませんが――体験を何度かしてきました。書き散らしている物を、近々備忘録的にまとめていくつもりですが、まずは最も新しい経験を残しておこうと思い、この文を綴っています。

 数年前まで務めていたブラック企業における激務の影響で、アドレナリンを出し過ぎないよう自分をリラックスさせる方向で私はここ最近を過ごしております。そんな中、少々のトラブルが発生しまして、睡眠時間を3~4時間まで削って作業を進める日が1週間ほど続きました。以前はそのサイクルで90連勤とかやっていた(だから体を壊して退職することになる)ので、なんとかなるだろうと高をくくっていました。
 タスクはなんとかなったのですが、結果としてこれを書くハメになったのですね。

 タスク完了したのが、既に記事にした友人ともつ鍋を食べに行った日です。
 翌日の仕事中は、大きな〆切を乗り越えた高揚感と言いますか、ランナーズハイの状態でした。体は動くのですが、動きが鈍い。脳の命令に対して、体が普段の20%程度でしか動かない。側頭部から後頭部にかけて頭蓋の6割ほどを、蜘蛛の巣が被さったような、モヤモヤと言うかフワフワと言うか、皮膚が2~3センチに膨れたような感覚が覆っています。冷や汗が腰から下に滲み、痺れるような頭痛が常にしている、そんな状態でした。仕事が終わると緊張が途切れたのか姿勢を維持するのが困難になり、二足歩行を始めた人間は、立っているより歩いている方が、そしてそれより走っている方が姿勢の維持の観点では楽だという話を思い出すほどでした。食事もそこそこに身を横たえると、泥のように眠りへ落ちていき、その感覚は手足の先から溶解するかのようでした。

 一夜が明け、事態が変わります。日の光が差し込む頃、激しい頭痛で目が覚めました。痛みの種類は締め付けられるようですが、チョークスリーパーとは異なる痛みで、どちらかと言えば脳震盪を起こした際の感覚に近い。何らかの理由で脳が腫れ、相対的に頭蓋骨で締め付けられた状態だったのではないかと予想されます。首をもたげても軽く振っても痛みが変化したり脈打ったりする感じはありませんが、この頭痛はずっと程度が酷く、身を起こすのが困難で、かつ平衡感覚がだいぶ怪しかったのを記憶しています。
 加えて私の活動を困難にしたのが、一時的な失明でした。もとの血圧が低いのか、私は起床直後に目のピントが合いづらく、物がくっきり見えるまで5~15分ほどかかるのですが、この日は見えるようになる気配がありませんでした。まぶたが開く感覚があり、目のふちを指で触診しても感覚通りまぶたは開いています。しかし目が物を映さないのです。明暗と色はそれとなく分かるのですが、輪郭が不明で遠近感も分かりません。深い霧の中にいるか、濃い紅茶に角砂糖を落としたときのようなぼやけ方でした。
 ひとまず体を休めることにして再び身を横たえると、あっという間に意識は落ちていきました。

 次に目覚めたのは昼過ぎでした。喉の渇き――とこのとき思っていたもの――に動かされ、身を起こしました。目を開けると視界は正常で、時折頭痛と共に視界が時計回りに歪みながら回転する目眩を発生させましたが、立ち上がることは可能でした。
 水分を摂り、テキトーな物(後で片付けの際にゴミを確認したらヨーグルトとゼリーでした)を口に入れ、邪馬台国で収穫を行い(ソーシャルゲームの話です)、再びぐっすりと眠りに就きます。

 次に目が覚めたのは深夜でした。これまで以上に体が重く感じました。
 それでも汗ばんだ体を起こし、水分補給をした、そこで気付きました。
「あ。これ喉の渇きじゃないな」
粘膜が干上がりガサガサとけば立ったような感じが付きまとい、嚥下やあくびなど咽頭部の運動時には、擦り傷の部分を無理に動かしてかさぶたが裂けるような痛みが走ります。
 このご時世に喉風邪は怖いと思いつつ体温を測定するも平熱よりやや高い程度。病院は翌日行くことにしてこの日はそのまま就寝しました。

 頭痛も目眩もほぼ無い状態まで軽減し、活動可能な朝を迎え病院へ。結論から言うと過労だったわけですが、喉は炎症気味とのことで薬を頂きました。
 普段通りの食事といつもより少し多めの睡眠で体力が回復した今頃になって、時が経てば薄れるあの辛さを文字に残しておこうと思い形にした所存です。ダメージ量で言えばかつての職場での日々の方が明らかに大きいのですが、それをアドレナリンで押し流していたのでしょう。そのまま限界を超えていたら、それこそ何の前触れも無い(ように見える)ままポックリと逝っていたのでしょう。人間の体って不思議ですね。

 ここまで読んでくださった諸氏におきましては、頑張り過ぎて悔いを現世に残してしまわぬよう、適度に息抜きしてご自愛ください。

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