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ウマ娘の面白み ~アニメ編~

 テレビアニメの2期とアプリゲームで爆発的な人気を記録した『ウマ娘 プリティーダービー』ですが、とある友人から「ウマ娘の面白みって何よ?」と解説を求められた私は資料を作成しました。その資料を寝かせておくのももったいないので、このたび一般向けに手を加えて公開することにした次第です。
 なお筆者は、オグリキャップで競馬にハマった親戚のお兄さんに連れられて見たサイレンススズカから競走馬を知り、時を経てジャスタウェイとキタサンブラックに惹かれ今に至ります。古いミーハーの筋ということですね。

 なお、この記事はコンテンツの存続(のための販売促進)を願うものであり、また同時に二次創作物を自身の作品と扱うのに抵抗のある筆者の性分もあって、ストーリーのネタバレは極力除いてありますことをご承知おきください。

歴史物語の面白さ

 テレビアニメシリーズにもゲームにも共通する面白さの1つに、歴史物語としての面白さがあります。歴史物語とは、古くは中国の史記、日本の大鏡、今鏡など、歴史的なイベントにエンタメ性が見出されてできた物語です。司馬遼太郎作品の数々や大河ドラマなどもそうです。ウマ娘にはそれに属する面白さがあるのです。

 歴史物語の面白さとは大きく3種あります。1つは結末があるがゆえの道中の面白みです。時代劇(これも歴史物語の一種と言えますが)やアンパンマンやこちら葛飾区亀有公園前派出所など、古くから愛される勧善懲悪展開を固定している物語の安心感がこれに含まれます。それ以外にも、近年人気を博してきた小説家になろうの作品群に見られる、展開を説明するタイトルもそうですね。
 サスペンス映画の巨匠アルフレッド・ヒッチコックの言葉を借りれば「観客にはなるべく事実を知らせておくほうがサスペンスを高めるのだ」とのこと。視聴者が結末を断片的に知っていることで道中のなんでもないシーンが輝きを放ちだす効果があるのです。
 ウマ娘も、実在した競走馬の生涯を丁寧になぞることで、歴史の再演の持つ魅力を発しているのです。

 歴史物語の面白さの2つめは、今を生きている私達への接続です。ホラーのオチに多用される「ほら、あなたの隣にも」系演出が最たるものですが、物語の世界が我々の生きる現実世界と地続きであると匂わせることで、臨場感が増して物語へ引き込まれます。川端康成作「化粧の天使達」の一節として有名な「別れる男に、花の名を一つは教えておきなさい」という言葉もここに繋がります。
 視聴者の見えるところ、手を伸ばせば触れ得るところに彼ら彼女らの生きた証が在るため、視聴者の中に物語の存在が長く尾を引きます。それにより物語が再開した際の感情移入が日増しにスムーズになっていきます。こうなると、1度見たお話でも見返すたびに感情移入の深さが増していくので、見るたびに新たな発見が生まれやすくなり、リピーターが誕生するのです。

 歴史物語の面白さの3つめは、史実の解釈です。ある出来事に対しどう解釈するかはクリエイターの自由です。歴史小説家の司馬遼太郎氏は、その解釈が世に広まり過ぎて史実なのか司馬氏の解釈(フィクション)なのか判然としない状態にまでなってしまっているのですが、それほどまでに他者と解釈をぶつけるのは面白いのです。
 競馬のレース要素は、調教師を中心にした厩舎の戦略、騎手の心技体、競走馬の心技体から成ります。そのほとんどは人間のスポーツと変わらず、人馬の折り合いもチームワークとして描けます。ただ、ウマ娘では騎手と馬を一体化させてウマ娘の人格を成しているので、そのような人馬のチームワークは形を変えているワケですが。
 そんなレースのどこに作者の解釈が介入するかと言うと、競走馬の『心』の部分です。どのように走るのが好きかという性格はレース展開に深く関わるので独自解釈は入れづらいのですが、競走馬の持つ『誰よりも速く走りたい』という本能を、他の人間の感情・本能として解釈し、描いているのが見事なのです。
 スポーツ選手がその競技に臨むモチベーションがそれぞれ違うように、夢、誇り、友情、恩、敗北の忌避、などなど、それらのバランスを変えてキャラクターの心情を鮮やかにしているのです。その解釈が、各馬のエピソードを根拠に丁寧に行われているのがなんとも面白い。

 と、こんな具合に、ウマ娘には歴史物語の面白みである歴史再演の持つサスペンス性視聴者への地続き感から生まれる感情移入史実解釈の見事さが含まれているのです。

スポーツものの面白さ

 アニメとゲームに共通する面白さをもう少し掘り下げます。競馬と言うとギャンブルの側面を思い浮かべる人が多い(私もその1人です)のですが、ウマ娘はスポーツの側面に光を当てています。この時点でお気付きの方もいるかと思いますが、題材がニッチなのです。
 スポーツとして見たときの競技人口が知名度に反して非常に小さいのが乗馬、中でも競馬なのではないでしょうか。どこまでを数えるかは議論の余地があるでしょうが、中央競馬に属する騎手が約130名、調教師が約180名で計300名強。地方競馬は騎手が270名強、調教師が460名強で合わせて約740名(ばんえい競馬に携わる方も含まれています)。マネージャーやサポーターではなく試合に出場する選手を競技人口として数える他スポーツに倣い、競走馬に乗る日本の人口を数えてみると1000~1100人となることが分かります。これは野球の380万人、サッカーの430万人、バスケットボールの220万人、バレーボールの290万人など(数字は新型コロナウィルス感染症の流行前である2019年)と比べると非常に少ないことが分かります。ギャンブルの側面から見ても、競馬人口は約90万人と言われていますので、やはり他のメジャースポーツに比べると少なめです。

 さて。こうしてニッチさを強調して何を示したいのかと言うと、題材がニッチであるために王道の展開がより輝くのだということです。
 日本においては、創作コンテンツが普及する前に国や団体のプッシュがあった野球を除き(強いて挙げるならば正岡子規作品)、ブーム(競技人口の増加)の火付け役となった物語が存在します。上述のスポーツで言えば、キャプテン翼、スラムダンク、アタックNo.1などなど。バレーボールは1964年の東京五輪効果の方が大きそうですが。ボクシングのあしたあのジョー、アメリカンフットボールのアイシールド21、ロードバイクの弱虫ペダル、競技かるたのちはやふる、将棋の3月のライオン、カバディの灼熱カバディ辺りもそう言えるかと思います。
 こうした、ややマイナーなスポーツを取り扱うと、例えば野球漫画などで古くから使われていたストーリー展開が再び輝くのです。創作をする人には当然かもしれませんが、昔からある良いものに他の良いものを混ぜて新規性を得ることは創作の、研究の恒なのです。

 燦然と輝く夢。日々を費やして積み上げる努力。共に励むひととの絆。事故や敗北や理不尽から成る挫折。その先の勝利。そうした、悪い言い方をすれば使い古された演出、良い言い方をすれば正に王道のスポ根ストーリーが、我々の胸を打つのです。器がニッチだからこそのこの直球勝負が実に爽快で、ハマった人も多いのでは。

原作愛

 ファンの間で史実を原作と呼ぶ風潮があるのでそれに則っています。
 元ネタとなる競走馬ありきなのはアニメもゲームも変わりませんが、アニメは特に原作愛が溢れているのが分かりやすいです。まずメインとなるレースシーンを中心に作画が美しい!アニメファンの間では「作画カロリーが高い」と表現されることもありますが正にそれです。劇場映画に迫る描写が王道スポ根の熱に拍車をかけています。

 各キャラクターのデザインが、元の馬の姿を模していると共に、大きなレースで着る勝負服には主戦ジョッキーの騎乗服のデザインも混ぜられています。これもなかなかの凝りようだったのですが、より衝撃的だったのは、各キャラクターの走行モーションが異なることです。
 人も馬も全個体が異なる肉体を持っているので、走るモーションも全員異なるのですが、ウマ娘作品では元の馬の走行モーションを元に、人間だったらこんな感じになるんだろうなというモーションに作り替えているのです。フォーム・ストライド・ピッチから成る走行モーションを個別に用意するという熱の入れようは異常と言えるでしょう。しかしその熱は私の心を打ちました。
「先頭を走るお馬さんをよく見といてね」
そう言って親戚のお兄さんが私に見せたレースの勝ち馬。その面影が確かにそこにあったのです。しなやかな身のこなし、鋭い足さばき、そして先頭を走る喜びの滲む表情。かつての名馬の息吹が感じられたのです。

 加えてレース展開がモブの動きに至るまで史実に忠実であることもひとつの面白みです。JRAが公式ホームページで過去のレースの映像を配信しているので、アニメのレースシーンと比較するのもひとつの楽しみ方でしょう。私はある年のオールカマーが好きです。

 あとは、日常シーンに散りばめられた小ネタの数々も見どころです。メインキャラクターを輝かすと、どうしても他の馬のエピソードはカットせざるを得ないのですが、それを小ネタとして日常シーンの背景に散りばめているのです。いっつも何か食べてるオグリキャップが好きです。
 ネタそのものも競馬ファンからしたら面白いのですが、それ以上にこれらを散らすことでシリアスとコメディのバランスが取られていることも物語としての面白みを増幅させている要因のひとつでしょう。

テーマ曲の使い方

 さて、アニメ編の最後はテーマ曲の使い方に関してです。
 年齢の割れる話ですが、メインテーマ曲の使い方が一番印象的な作品は、私にとってはデジモンアドベンチャーです。最終話の終わりにミミの帽子が風にさらわれた瞬間。宙に舞ったパステルカラーの帽子が青い空に吸い込まれるあっという間。その「あっ」と息を飲むのに合わせて列車の音が消え、メインテーマのアカペラアレンジが流れ出す。その歌い出しが「無限大な夢の後の何も無い世の中じゃ」とのサビ。無限大な夢=これまでの冒険が終わり、現実世界へ戻っていく主人公らと視聴者を重ね合わせた歌詞が胸に染みる頃、一気に音が戻ってくる……思い出深いシーンです。
 同様に曲の使い方や歌詞が重要な要素になっている作品として、グレンラガン、蒼穹のファフナー、魔法少女まどかマギカ、戦記絶唱シンフォギアなどが挙げられるでしょう。アニメウマ娘はここに並ぶテーマ曲演出がなされています。制作スタッフがシンフォギアと共通しているため、そこは姉妹作品と言えるのかも知れません。
 詳しくは自身の目で確かめていただきたいのですが、特に2期。OP、ED、挿入歌の使い方、演出、詩の解釈、作中でのキャラクターの口ずさみ方まで血が通い、ひとつの作品として拍動を生んでいます。キャッチ―な曲調が最終的に詩として視聴者に返ってくるので、ぜひ楽しんでいただければと思います。

アニメ編総括

 以上でつらつらと述べたことをまとめると、アニメ作品ウマ娘プリティーダービーの面白さはこの4点に集約されます。
・歴史物語の面白さ
・楽しみやすくした王道スポ根
・溢れる原作愛
・胸を打つテーマ曲演出

 似た傾向の作品も多々ありますので、漫画ではアイシールド21、あひるの空、火ノ丸相撲、ハイキュー!!。ドラマではプライド、真田丸、新選組。小説ではバッテリー、燃えよ剣、ボックス!辺りが好きな方は楽しめると思います。

 話題になってるけど見ようかどうか迷っているという方、周囲に勧めたいけど語彙力に自信の無い方は参考にしていただけたら幸いです。

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