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#36 一人と一人

お久しぶりです。id_butterです。

人生で最高に不幸な時に恋に落ちた話 の36話目です。

最近、彼のそばにいるのがなんだか居心地悪い。

わたしは、彼になんでも話す。
思ったことを黙ってられない、これが女ってことなんだろうか。いや、わたしだけかもしれない。全国の女性へのハラスメントだったかも。
彼はわたしとつきあっている訳でもないのによく聞いてくれる。なんでだろう。最近、諸事情により仕事の話なんかちっともしていない。そんないやそうでもない。最近の男性の心は広くなったんだろうか。わたしが知らなかっただけなのかも。

そんなどうでもいいことをつらつら考えていたある日、ふと気づいた。

わたし、これが欲しかったんだな。

「これ」の説明の前に、たぶんわたしが彼に話した内容について説明が必要だ。

・小学校低学年の時に痴漢にあった話
・痴漢にあったことを母親に言ったら、「汚ない」と言われて速攻でお風呂で洗われた話
・その後延々と痴漢にあう話
・家族のいろいろな話
・離婚した夫との離婚理由
・夫をいかに家から追い出すかという話
・夫が生活費をあまり負担しない話
・大学生のころキャバクラで働いていた話
・時々お告げが降りてきてしまう話​

もちろん、こういうことを普段話すことは、あまりない。だって重いから。

だけど親しい友人とかと話していて、なんでわたしがそういう風に考えるのかっていう背景の説明だったり、話している相手の参考になるんだったらという理由だったりで、こういう話に触れることがある。
例えば、お正月に実家に帰らない理由とか、誰かの旦那さんが虐待まがいの言葉を投げつける理由とか。

これを話すとき、わたしの中では一応消化された後なので、話す相手にどんな反応をされてもわたしは傷つかない。(と決めている。)
どんな反応かって、例えば痴漢にあったのは自分の責任でしょ、とか痴漢されているのになんで叫ばなかったのおかしいじゃん、とかっていう反応だ。

でも、逆に話された人を傷つけてしまうことがある。
親しい友人たちは、わたしに共感して、わたしと同じように、わたしの体験を追体験してしまう。結果、わたしの代わりに傷ついた彼女たちは、わたしの夫や母の批判をしたり、泣いてしまったりする。
これには、心が痛む。

このことにわたしは困っていた。という自分の気持ちに気づいた。
優しい友人たちにケチをつけるようで、自覚すらできていなかったことも。
彼を通じて、素直な自分に気づいた。

彼はわたしの話を聞いてくれるとき、どんなに重い話をしても、彼は変わらない。大きくて静かな湖みたいで、どんなに大きなものを投げ入れても水面はピクリとも動かないのだ。
「かわいそうに」、そんな風に同情したりしない。ばかにするわけでもない。「逃げればよかったのに」、そうわたしを非難しない。「ひどいな」、と夫や母を批判したりもしない。わたしみたいに、なんでそんなことが起きるのか原因を追求したりもしない。引いたりもしない。

かといって、冷たいわけではなく、反応はある。
最初は、彼は冷たい人なのかなと思っていたのだが誤解だった。
なんで何にも言わないんだろう、何も感じないのかな。違う。
例えば、母に汚ないと言われたという話のとき、彼は「切ないな」と言った。
たぶん、それはわたしがじゃなくて、小学校二年生の女の子が母親にそういうことを言われてしまう状況が、あるいは母親がそんなことを言ってしまう状況に追い込まれていることが、その時に誰もその状況を助けてあげられないことが「切ない」のだと思う。
その感覚は、ちょうどいいというか公平というか、今のわたしにはとてもしっくりくる。引きの視線、ということかもしれない。
かわいそうなのはわたしだけではないし、加害者も被害者だったりするということをわかっているということ。

彼はそれを理解していて、ただ受け止めている。そして、すべては彼の外側にある。

このことにわたしは心底ホッとする。そして救われた気持ちになる。
わたしが欲しかった「これ」はこれだ。

わたしは、同情されたくもなかったし、誰かの批判をして欲しかったわけでもない。一緒に泣いて欲しいわけでもなく、ましてやその人に傷ついて欲しくもない。ただ聞いて欲しかっただけで、それ以上でもそれ以下でもない。
でも、それが有り難い。

彼がそれをしてくれたのだった。
初めて、わたしの人生に与えられたギフト。

最近、唐突にこのことを理解した。

きっかけは自分と外との境界線について考えていたことだった。
わたしは、自分と他人との境界線が曖昧で薄い。
そのことはどうやらわたしによくない影響を与えている。

他人の話を聞いて、なぜ傷つくのか。なんで話が重くなるのか。
それは、みんな自分の境界線が曖昧だからなのだと思う。

彼は、わたしの話を重くしない。離婚の話の時も、彼は笑っていた。
「不謹慎かもしれない、でもおもしろいんだよね。」
ううん、全然不謹慎じゃない。わたしの肩の荷物が軽くなる、でも彼は重くならない。「他人事」ってすばらしいことだったんだ。

ひどい話だけど、最初の方わたしはわざと重い話ばかりどんどん彼にしていた。彼が引く姿を見て、幻滅したかった。これ以上彼を好きになりたくなかったのだ。
だけど、結果、罠にはまったのはわたしの方だったという笑

このことは、最後の部分を除いて、彼にも話した。
彼に心から「ありがとう」と伝えた。
でも、そのありがとうには重みがあったらしく、彼はうろたえていた。それとも照れていたのかもしれない。zoom越しだからはっきりとはわからない。

こういうことを自覚したら、今までの自分が恥ずかしくなって、だから最近彼と話すのが居心地悪いのだった。
優しさに気づいてなくて、今まできっと気づかないうちにたらふくやらかしているに違いなくて、多分それを彼は黙ってスルーしてくれていて、それなのにわたしは彼に「冷たい」とか暴言を吐いている。40超えて黒歴史を日々更新し続けているのだ。

この前も、彼に「もっと優しくして」とか言った気がする。
わざと、彼を困らせた。
彼は言っていた。
「もう十分優しくしているよ」

そうだよね、わかってるよ、今は。
あの時はわかってあげられなくてごめんね。
なんだか悔しいので、直接言ってあげないけど、でもあなたはそんなダメージ受けてないでしょ、どうせと思ってしまう。
そしてこれも、やつあたりだけどね。

半年前はこういう関係をさみしいと感じていた。
ずっとべったりくっついて、どっちがどっちかわからないくらいでいることが愛だと思っていた。そして、隣に夫がいてもさみしかった。

でも、今は一人と一人っていうことがかけがえのないことだとわかる。
離れている、なんの約束もない、どう思われているかもわからない、でもわたしはしあわせなのだった。かつて夫にピタリとくっついていてもさみしかったのに。
満たされている。
わたしがわたしのままでいられるからかもしれない。
最近、さみしいと思うことがほとんどなくなった。たとえ一人で泣く夜があったとしても、だ。

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