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ばれ☆おど!㊵

 第40話 水玉模様は逆襲する

「騙されただと? 何のことだ!」

 源二の問いに、綾香の宝石のように輝く目が鋭くなる。
「私はねぇ、いまの怪物でもわかったと思うけど、特殊メイクの天才なのよ!」

 源二はややあきれ顔で肩をすくめる。
「自分で、天才とか、ユーは私の上を行くようだな」
「あの猫ちゃん達には悪いけど、飛び出た内臓とか切断された傷口とかは全部作り物よ」
「何? それにしては臭いが、すごかったぞ」
「もちろん、リアリティを出すために、特別な香料を使っているわ」
「特別な香料?」
「そうよ。自家製のね」
「なるほど。だいたい想像はつくが、それよりも、猫にあれだけの特殊メイクをして騒ぎを起こした目的はなんだ?」

「単純よ。私は、有名になりたいの」

「ユーが、もし天才なら、そのうち有名になるんじゃないのか?」
「そのうち? そんなに気長に待てないわよ!」
「何でだ?」
「この世界はね。才能よりも、コネなのよ! だから、何もコネがない人は、余程のことがない限り、日の目を見ないのよ」

「その〝余程のこと〟が、これなのか?」

「そうよ! 悪い?」
「だがな、これは動物虐待ではないにしても、イタズラでは済まされないぞ」
「でしょうね。その覚悟でやってるわ」

「そうか。その心意気だけは、あっぱれと言っておこう」
 源二は鋭い眼光で、綾香を見つめた。
「ただし、忠告しておく! もう二度とするな! それがユーのためだ」

「わかったわ。こんなことじゃあ、有名になれないのが、分かったし」
 綾香は源二よりも鋭い眼光で、睨み返す。

「ねぇ、あなた達って何者なの? エアガンやボウガンで人を撃ってきたり、変な格闘術を使ったりしてさ」


「そ、それは企業秘密だ!」

「それこそ、警察に黙ってなくちゃいけないわね」

「むむ。…………」

「じゃあ、取引しようよ」
「………………」
「私を有名にすること。それと、今回のイベント会場の事件はドッキリだった。種明かしはちゃんとした。警察は、お咎めなし。そういうことにしてくれるかな?」

「……むむ。わかった……。可能な限り尽力しよう」
「もちろん、タダとはいわないわ。その代わり、面白そうだから、あんたたちの部に入ってあげる。あんたたちは、有名な動物愛護部の人たちなんでしょ?」
「フッ、知っていたのか。入部なら、いつでも大歓迎だ」

「じゃあ、よろしく頼むわね」

 そう言うと、綾香は、鋭い眼差しのまま、毅然とした態度で、強襲メンバーたちを追い返し、弟の京太を解放した。

 今回は、動物愛護部の面々は、してやられた格好になった。


 帰り道は、その場で、解散ということになった。
 空を見上げれば満点の星が輝いている。

 ぜんじろうは囁くようにそっと、言った。
「……漆原さんのうちは、あのマンションだよね?」
「ええ。そうよ」
「……じゃあ、送って行くよ」
「……あ、ありがとう」

 二人きりで歩きながら、ぜんじろうが、最初に沈黙を破った。
「あ、でもさ、漆原さんは強いから、俺が送らなくても……」
 その言葉を遮るように、うるみは言った。
「毛塚先輩。やっぱり、私は吾川先輩のことが……」

「……そうか。いいんだ。人の気持ちは簡単には変わらない。それは仕方ないことだから」
「本当にごめんなさい」
「いや。謝ることじゃない。俺はね。決めたんだ。これからもずっと、君を守っていく。そして、いつか、君を振り向かせて見せるよ」
「…………」

 うるみのマンションの前に着くと、ぜんじろうは手を振りながら、
「吾川とはいいライバルになれそうだ! じゃあ、今日はこれで」
 うるみはコクンと頷く。
「……うん。じゃあね」

 ◇ ◇ ◇

 翌日の放課後、南校動物愛護部の部室。
 源二は重大発表があると告げた。
「二週間後、ついに卒業ということになった。ということで、新部長を指名しておく。独断で悪いが……」

 その時である――
 突然、部室のドアが開いた。

「なんだぁ。迷ったわ。こんなところだったなんて」

 そこに、現れたのは、お騒がせな美少女、間宮綾香であった。金髪お団子頭で、相変わらず目つきが鋭い。片目だけの青いカラコン越しに、源二を睨んだ。

「ユーは、あの時の?」
 源二は驚きつつ聞く。

「そうよ。これ、入部届」
「まさか、本気だったとはな」
「私は、いつでも本気よ。まどろっこしいことが嫌いなの」
「フッ。気に入った。では入部を許可しよう。さて……ん?」
 綾香は源二を無視して、シータに釘付けになる。

 そして、彼女の目はハートマークになってしまう。
「か、かわいい……」

 ヨタヨタと歩くさまが、愛くるしい。そのシータが喋りはじめた。
「新入部員の方ですか? ようこそ動物愛護部へ」
「うわ、おしゃべり機能まであるんだ。すごーい!」
「はい。日本語以外でも、英語、フランス語、中国語、など、ネット上にある言語なら、すべてで会話できますよ」

「え?! 今の、私と会話した?」

 源二は、自慢げに胸をそらす。
「そうだ。驚いたか! シータはただのマスコットではない。なんと、AIを搭載した縫いぐるみ型ロボットなのだ!」
「へ……へー、まあ、すごいわね」
「わが発明品の凄さがわかったか!」

「そうね。わかったわ。確かに凄い。さすがは〝孤高のマッドドクター〟の異名を持つだけはあるわ」
「フッ、その二つ名はあまり口にしない方が、身のためだ」
 そう言って源二は鋭い眼光で綾香を見つめた。

「身のため? 口にすると、なんかあるわけ?」
 綾香は、源二よりも鋭い眼光で睨み返した。

「そ、それは、知らない方が、いいだろう」
「わたし、そういうの関係ないし、言ってみてよ。知りたいんだから」

「…………………………」

「なんだ。ただのハッタリか。やっぱりね」

 源二は思う。
(すごいのがきたな。今年引退で良かった。ラッキーだ)
 緑子が喋りはじめた。
「ちょっと、部長! なんでその女の入部を認めるのよ! 私は絶対に反対よ」
 源二は困って、うるみに聞く。
「漆原君は賛成してくれるよな?」
 すると、源二の意に反してうるみの答えは、
「私も反対です……」
 ポツンと消え入りそうな声でそう言った。

「………………」
「………………」
「………………」
「………………」

 一瞬の沈黙の後、源二は、一瞬言葉を詰まらせながら、
「う、漆原君、意外だな。何で反対なんだ?」
 うるみはうつむいて答える。
「あの、それは、言えません……」
「わ、わかった」

 源二は気を取り直して、カン太に同じ質問をした。
「アカンよ。ユーはどうだ?」
「はい。オレは賛成ですよ。部長が一人抜けて人数減っちゃうし、やっぱり、部員が多い方が活動も活発になると思う」
「そうだよな。アカンよ。ユーは成長したな」
 源二はそう言うと、続けた。
「というわけで、二対二に分かれた。この場合は部長の最終判断になる。よって、入部を認めよう。おめでとう! 間宮君」

 うるみと緑子は全然納得していない様子だが、綾香は、さも当然といった様子で、口を開いた。
「じゃあ、よろしくね。事件を解決して、有名人になりたいの。だから私の特殊メイクの技術を存分に使って頂戴ね」

 すると、緑子の冷たい声が聞こえてきた。
「カン太。よくも、賛成してくれたわね。あんたの女好きにも困ったものね」
「いや、なんでそうなるの? 部員が増えることは部のためだろ?」
 だが、カン太の反論は虚しいものになった。緑子の表情は急速に冷えていく。

「へー? 下心まるだしでよく言うわね。あとで覚えてなさいね」
 特殊スキル〝氷の微笑〟が発動しようとしている。


 その時、源二の凛とした声が響いた。
「諸君! そろそろ、いいかな?」
 すると、部室に静寂が訪れる。

 真剣な表情をした源二は、こう宣言した。
「アカンを新部長に指名する! すべての部長の権限を、只今よりアカンが引き継ぐ、よって、これをアカンに授ける」


 すると、源二はポケットから何かを取り出した。



(つづく)


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