マガジンのカバー画像

魚さんマガジン

2
本
運営しているクリエイター
とむそん
灰谷魚

灰谷魚

コンチェルト

コンチェルト

　大きく口を開けた鯨が、私の幼なじみを頭からまるごと飲み込んだ。彼女の養分が体の隅々にまで行き渡ったとき、鯨はおそろしい怪物に姿を変えていた。
　散文的な言い方をすれば、彼女の家族が新興宗教にのめり込み、幼い彼女も為す術なく取り込まれたというだけの話。
　他人に説明しようとすれば、どんな事情も単なるストーリーに変貌してしまう。

　まだ交流があった頃、私と彼女の住居には地図上で507メートルの距離

もっとみる
灰谷魚

灰谷魚

Published Enemy (253字)

「何が好きか」だけで自分を語らなければならないなんて、なんとも窮屈な時代になったもの。それなら私は「何を嫌いか」だけで自分を語りましょう。何かをけなす卑しい悦楽、罵詈雑言の甘美なしびれ、すべて私が独り占め。まつ毛の先まで増長しきった、私の姿は醜いですか？花であふれた楽園で、あなたは価値を保てるの？こちらは私ひとりです。あなたも、あなたも、あなたも、あなたも、残念ながら立ち入り禁止。ここに住むには清らかすぎる。私の悪意は最高級で、最低限の礼儀もない。きれいな心のあなた方には、もったいなくて見せられない。