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海の家顔採用ニキの日記最終日

僕は27歳の夏に海の家で短期バイトをしました。
水着の黒ギャルとの素敵な出会いに期待したからです。

しかし現実は甘くありません。
キッチンに配属された僕は店の裏方となり水着の黒ギャルとの交流なんて皆無でした。

店の奥でBBQ担当になった僕は連日BBQの準備と海鮮丼の盛り付けをするキッチン盛り付けマシーンと化しました。

そしてそこで僕を待っていたのは「4歳以上年下の上司」たち。
毎年海の家で働いている彼らに仕事を教わる立場になったのです。

ボクは27歳。下は19歳、上は23歳。そんな先輩達に気を遣われながら仕事を教わることになりました。

この記事を読めばあなたもひと夏、海の家で働いた気分を味わえるのではないでしょうか

感想



朝出勤する。
この日が最後だと思うと気が楽だ。

BBQの豚肉の枚数が足りないことが発覚する。昨日、19歳のサブリーダーが準備してくれてたはずだ。よく見るとエクセルがミスってるんだろうが豚肉の枚数の足し算があってなかった。これは店長とか社員側のミスだ。

よく考えてみたらこのようなことは今までもたくさんあった。その度に俺のせいにされてきた。俺が用意した肉の枚数が足りなくてバイトリーダーに怒られた。しかもそこで頭がごちゃごちゃになってBBQの準備が遅れて「時計見てましたか!?!?」と4個年下のバイトリーダーに怒られたことがあった。敬語で怒るとはなんで育ちがいいやつだと感心してしまうほどだ。

俺は店側にたまっていた不満が弾けた。肉の枚数を誤魔化すという幼稚な手段で小さな反抗をした。バレてないはずだ。

休憩室は海の家の屋台の地下にある。上がホールだ。床の隙間から砂が落ちてきたり、水が落ちてきたりする。俺が休憩してたら俺の目の前にゲロが降ってきた。

最終日は毎年恒例打ち上げBBQがあるらしい。朝までみんなで飲んで食べてするらしき。馴染めてない俺に撮っては苦痛な時間となることは安易に予想がつく。

俺は引き止められた時のために「もう一つのバイトがあるので」という言い訳でその場を立ち去ろうとした。

本当はバイトなんか入っていない。この時間に海の家を出るとバイト先への到着時間は19時半だ。今思えばこの言い訳をすれば「どんなシフトの組み方してんねん」となるだろう。

俺はこの言い訳のためにわざわざバイトの制服を海の家に持参した。いつもより大荷物だ。「最終日やからサプライズでプレゼント持ってきたんかな?」と思われたらどうしよう。と危惧したがその話題に触れられることはなかった。まず俺が普段どのカバンで海の家に来てるかなんて誰も興味がないのだ。

俺のこの夏最後の仕事は打ち上げBBQ用の肉を盛り付けることだった。普段客のBBQの盛り付けをして慣れている俺は身内だからいいだろうと多少雑に盛り付けた。自分が参加しない打ち上げの肉を準備するとは。俺も大人になったもんや。

そして運命の退勤時間の17時が迫る。戦闘準備万端。すぐ着替えてすぐ帰る。引き止められて打ち上げに参加するかどうか聞かれるのはもってのほかだ。ここは迅速かつ大胆かつスマートな行動が求められる。俺は伊達に27年間生きてきてはない。俺はいざという時は勝負強い男だ。

ところがその心配はなかった。誰にも引き止められなかった。そして俺は「お、おふ、お疲れ様でsた…!」と最後のメッセージを放ち海の家を後にした。背中は縮こまっていただろう。

ちゃんとした大人なら店長に面と向かって「お世話になりました!」と言って帰るのだが。打ち上げに引き止められるのを危惧した俺は「ちゃんとした大人」よりも「帰りたい」が勝ってしまった。忙しそうにしていた店長の背中に向かって聞こえるか聞こえへんかくらいの声量で「…ぉswになりまsた」と言って帰ってきた。

俺にはもう一つのミッションがある。
それは俺が好意を寄せている大学4回生の女子大生と一緒に帰ると言うものだった。
恋多き俺はバイトをするたびに恋をしてしまう。毎回その恋は実らないので令和の寅さんと呼んでくれて構わない。

奇跡的に俺とあの子は17時退勤だった。
キッチンに押し込められた俺はホールのあの子と会話する時間はほとんどない。

洗い物をしているふりをして洗い場に行き話しかける。

「17時なん?え、じゃあ一緒に帰らへん?」
「いいよ」

我ながら白々しいがこの知ってるのに知らんふりしてるとことかが恋をより盛り上げたりするものだ。

先述の通り17時に颯爽と、かつ軽やかに別れの挨拶を終えた俺はあの子より早く店を出た。

一緒に帰ってるの見られるのは恥ずかしいからね!
みんなに羨ましがられるもんね!

そんなことを考えながらあの子にLINEを送る。
友達追加もしていない関係性の僕たち。

俺は恐る恐る友達追加のボタンをタップする。
そしてメッセージ送信。「お疲れ様。早くあがっちゃった。海の入り口で待ってる。」

あの子から返信
「忙しくて上がれそうにないや、、18時半退勤になっちゃった、、」

「18時半かー。この後予定無いから待っとくよ」

18時半になっても返信は来ない。
俺の頭は不安でいっぱいになる。もう2度と会えないのだろうか。

熱中症気味で頭がふらふらしていた俺はアクエリアスを3本飲み干した。

禁断の手、「追いLINE」を使うしかない。

メッセージは既読になっていない。

「19時過ぎまでなら待っとくから!」

既読はつかない。
返信が来た。

「ごめん、友達が海の家来て飲むことになっちゃった、、申し訳ない、、」

俺は既読をつけることなく海を後にした。その瞬間花火が上がり出した。何発も派手に夜空に光り輝く花火。タイミングどうなってんねん。まだ雨に打たれるとかのがマシやわ。

俺もこれくらいこの夏輝きたかってん。27歳の夏、これにておひらき。

帰り道夕陽を見た時、その瞬間だけ来年もやろかなとか思った。

追記
こんな日くらいは快適に帰りたいと思い、
ロマンスカーで家まで帰ってきました。


〜完〜

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