背徳のあつかん。

大学1年生の頃、私は友人と金沢に旅行に行った。彼女とは中学1年生の頃からの付き合い。「21世紀美術館に行きたい!」「近くの梅の名所にも行こう!」「ご飯はもちろん、市場で梯子酒!」このアクティブさは中学生の頃から変わらない。いつだって彼女が出不精な私を何度も外に連れ出してくれた。私の思い出溢れる学生時代を作ってくれたのは間違いなく彼女だ。今回の旅行も道半ばながら、素敵なものになると確信している。だがしかし、私たちはまだ未成年だ。梯子酒には簡単に頷けない。「なんでよー、もう数ヶ月やしいいやん!家では呑んでるんやろ?」ごめんなさい、呑んでいました。新入生歓迎会などの場で呑まされる可能性もあるから…なんて言い訳もそこそこに、自分の酒への耐性を知りたくてちびちび呑んでいた。まあ、大学1年目も終わろうかという3月になった今日まで、酒を呑まされる場なんぞ一度もなかった訳だが。とはいえ、不良にはなりきれない私の、家でしか(呑んだこと)ないし、という小さな反論は容易く押し流され、彼女と海鮮市場へと向かった。

「「おいし〜!!」」2人でつつくは、おでんの大根。立ち飲みで風通しがいささか良すぎる店内で、あったかいおでんが美味くない訳がない。おでん屋を選択した自分達を称えながら、こんにゃくにかぶりつく。海鮮市場にきて、何故おでんを食べているかというと、私が甲殻類アレルギーを持っていたためである。海鮮丼には大体エビがレギュラー入りを果たしている。事情を話したら彼女は「忘れとったー!」とあっけらかんと言い、謝るでもなく、おでん屋を見つけてくれた。申し訳なく思う私に気づき、さりげない優しさをみせてくれた彼女に感謝した。

「おかわりしてこよっかな」次の店を覚悟して3品にとどめていたが、この美味しさには勝てない。彼女をみると、彼女がカウンターの隅の一点を凝視していることに気付いた。四角い大きな器の中、お湯に浸かり湯気で白くぼやけた瓶たち、あれが、あつかん!「あれ呑んでみようかな…、一緒に呑む?」少し悪そうな笑みをこちらに向ける。「いや、いいよ!度数高そうやし…」日本酒には手を出したことがないし…、いやそもそもここは外だ!年齢確認をされたらどうするんだ。叱られ、いそいそと寒空に帰され、このおでんのあたたかみは小さな悲しみでふっと消し去るのだろう…。

「買ってきた」いつの間にか満面の笑みであつかんを手に入れた彼女が目の前にいる。さすがアクティブ、行動が早い。

早速彼女がおちょこにお酒を注ぐ。トクトクッといい音が耳に届く。澄んだ酒からのぼる湯気にほうっと息を吹きかけ、彼女がちびりとそれを呑んだ。はっと目を見張ったと思ったら、それを今度はクイッと呷る。

「うまぁ〜〜!!」

いい笑顔だこと。彼女はかなりいけるクチらしい。一人暮らしの彼女の城には、焼酎が瓶があると言っていた。

「ちょっとだけでも呑んだみいや!美味しいから!」笑顔でお酒を注がれたおちょこを差し出す。躊躇いつつも、気になる。おずおずとおちょこに手を伸ばす。あたたかい器を何故か両手で持っておそるおそるちびりと呑んでみる。すっと鼻をとおる香り、舌を落ち着かせる温度、一瞬で嚥下してしまった。なんだこれは、うますぎる!!もう一度ごくりと呑んだ私は、きっと彼女と同じ反応をしていたのだろう。得意げに彼女は言った。

「ほらな!」


数ヶ月後、誕生日を迎えてから私はしばしばおでんと、日本酒とを買い、あの日の思い出しながら日本酒をあたためる。いつ食べても美味しい、があの日には及ばない。あの日呑んだ酒はそんなに高かったのかなぁ。

#ここで飲むしあわせ

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