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ボロット第二部第一話「交通事故と死」

桜花大学のキャンパスには全部で12棟の建物があったが、大学に通う4年間にすべての校舎に入館する機会はあるだろうか。それぞれの建物には1から18までの番号が振られている。駅を降りた玉神響が向かったのはそのうちの17号館だった。 響は建物の入り口から入って右手にあるエレベータで4階に上がると、左手奥の「17403」と番号が割り振られた教室に入った。今から「計算アルゴリズム(前期)」の講義がある。受講者は30名ほどだろうか。 「現在のコンピュータはとても大量の情報を驚異的なスピ

    • ボロット第二部第0話「カフェGOPAS」

      響「・・・・・。」 玉神響(タマガミヒビキ):18歳。志望校の大学受験に失敗し、この4月から滑り止めで合格した私立桜花大学に通う一回生である。周りは偏差値の低いバカばかり。大学の授業も退屈。不合格を知った日から、全てのことに興味がなくなっている。 優人「おい、ヒビキ、サークルの勉強会来いよ〜。」 中里優人(ナカサトマナト):18歳。大学の入学説明会で響と知り合う。藤浦ユミカが作ったサークルに無理やり響を誘う。勉強は得意ではないが頭は良い。明るく社交的な性格。 悠実香「

      • ボロット第七話「E後ノかがやき」

        何度目の目覚め? この世界は 四角 直角 窓 僕はボロット 小学六年生 何度目の目覚め? この病室で 考える 世界(好きだ、好きだ、好きだ) あいつはぴんまり; ピンクのマスコット 何度目の目覚め? あの世界に 時間 超越 ドア 僕は旅立つ 第六の力で 何度目の目覚め? この病室と 繋がる 世界(怖い、怖い、怖い) あいつといっしょに リンクする裏側 ああ 無限の時間が 世界を超える 何度目の目覚め? 僕は超えるんだ この世界を 何度目の目覚め? 僕は超えるんだ 

        • ボロット物語 もくじ

          白い直方体だけでできた世界で目覚めたボロットは、目覚めるたびに変化する世界に戸惑いながらも、世界に対する観察力を研ぎ澄ますことで、世界に対して干渉できる「第6の力」を自由に操れるようになる。 第一話「二度目のハジメマシテ」 https://note.com/bettergin/n/n769a3cd8465b 第二話「箱と箱」 https://note.com/bettergin/n/n08b0d0e4b320 ボロット第三話「なにもなくもないのに」 https://no

        ボロット第二部第一話「交通事故と死」

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        • ボロット
          8本

        記事

          ボロット第六話「ぴんまり;」

          「この世界に、こんまり〜;」 僕が目覚めたときにそこにいたそのピンクのぬいぐるみは、僕の箱理論が否定される事実に僕が直面し、飾り気のない病室がカラフルな子供部屋になったことに戸惑っているまでの一瞬の思考過程を終えたちょうどその時に、その第一声を発した。 第一声から第二声まで間が置かれることはなかった。 「へ〜、君がボロットまりか〜。  とても主人公とは呼べない姿まりね!」 なぜかそのピンクのぬいぐるみは僕の名前を知っていた。 僕が目覚めたと同時に自分の名前がボロットで

          ボロット第六話「ぴんまり;」

          ボロット第五話「撃破数610万」

          目覚めると、僕と白い箱はいつも同じ位置にいた。 変化があった。 動けるのだ。 そう、僕は動けるのだ。 右、左、前、後。 今まで、動こうと思ったことはない。あのぼやっと輝く窓に近づこうと思ったり、僕に近づく白い箱を避けるために、具体的な行動として「動く」という意識を持ったことはなかった。 なぜあの白い箱を避けないのか、とは考えたが、動こうとは思わなかった。何かが近づいてくれば避けるか、後ろに退くか、もしくは咄嗟に手で白い箱が身体にぶつかるのを防ぐはずだ。そう行動する

          ボロット第五話「撃破数610万」

          ボロット第四話「試練」

          新しく目覚めた僕の目の前にある箱は白くて四角い。 僕とこの箱が衝突するのは何回目だろうか。 僕が新しく目覚めると同時に僕に近づいてくるこの箱をただただ見つめて、ぶつかるまでの軌跡を眺めている。 この脈絡なく繰り返される目覚めと箱との衝突のループが終わることはない。 僕はこの状況を理解しようとする思考を、もう諦めた方が良いのか、そう感じ始めている。 これに意味などないのだ。 そもそも僕がいるこの病室も、その箱も同じ材質、色でできており、素直に見れば、両方同じ白い直方

          ボロット第四話「試練」

          ボロット第三話「なにもなくもないのに」

          窓から聞こえる音はその後も鳴り続けている。 その音は、やはり何かを僕に伝えたがっているとしか考えられない程度に熱意を持ち、大事だと主張するフレーズを繰り返しながら、しかし僕が言語として認識するには程遠い無機的で調和のないノイズでもあった。 この病室には時計がない。一体どのくらいの間、僕はその音を聞き、そこから得られる意味を探し続けているのかわからない。音は鳴り続けている。それは僕の耳を通じて、僕の頭の中で音として認識され、僕が思い出せる限りの過去のあらゆる記憶とのマッチン

          ボロット第三話「なにもなくもないのに」

          ボロット第二話「箱と箱」

          物体の性質理論。 この平面的で無機質な病室は、箱だ。 いや、この世界全てが箱でできているんじゃないかとさえ思えてしまう。 世界は箱。なんの違和感があるだろう? 古代の人々が地球平面説を唱えていたように、僕は地球箱説を唱えるのだ。 ただ「箱の世界」で生きる。 それが僕の役割なのだろうか? ……そういえば最近、あの窓から声が聞こえる。 いや、声ではないのかもしれない。 ただ僕の耳に繋がりをもった音が聞こえてくる。 僕にはわからない。    伝わらない。 だが学習はできる。 相

          ボロット第二話「箱と箱」

          ボロット第一話「二度目のハジメマシテ」

          なんでそういう形になるのかな? 一瞬一瞬の光がまたたく合間に見える隙間を通じてその形がその形を変え、変えたのちに、また元の形に戻る、その連続が一つの形であって、時の経過とともに変容するその形の全体を捉える難しさを超えたところに、この世界から新しい世界へと飛び立つ者たちの思いは収斂されていった。 昼間。 セミの声。 夏祭り。 子供たち。 大人たち。 とは関係ないところに僕は一人、ただ天井を見つめて、天井と壁の繋がりが一直線になっていることを端から端へと何度も目で確

          ボロット第一話「二度目のハジメマシテ」