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シリコンバレー発スタートアップ『Glasp』の起業秘話

はじめに


今回はシリコンバレーでChatGPTを使ったブラウザ機能拡張『Glasp』の共同創業者である渡辺圭祐さんに起業時のお話やこれから起業する人に向けたアドバイスを含むインタビューさせていただきました。


Glaspとは


Glaspは、ウェブページやPDFからテキストをハイライトし、注釈を付けることができるツールです。これにより、ユーザーはオンラインコンテンツから重要な情報を効率的に収集し、整理することが可能になります。リサーチャー、学習者、読書愛好家に特に支持されており、彼らが情報を個人のデジタルライブラリとして蓄積できるようサポートしています。

また、ChatGPTと連携したYoutubeサマリー機能を世界で初めて発表し、注目を集めている企業になります。


渡辺圭祐さん


シアトルの飲食店におけるデータ分析を用いたコンサルティングやサンフランシスコで学生と企業のマッチング団体立ち上げ、大手IT企業での広告、スタートアップでのプロダクトマネジメントを経験。現在は、人々の学びの記録をソーシャルにシェアし、同じ分野の人から学び合えるようにするGlaspというサービスをサンフランシスコで開発。また、海外のプロダクトマネジメントに関する記事を翻訳して公開するPM Libraryというメディアも運営。


Q&A


プロダクトを作成する上で、ユーザーインタビューは何人程度行なって、どのタイミングでプロダクトを作り始めたのでしょうか?
プロダクトを作る前に積極的なユーザーインタビューは行わず、最初は自分自身のためにプロダクトを作り、その後でユーザーを探し始めました。本来はKindleのハイライト機能から始めたかったのですが、著作権の問題からウェブ上の記事をハイライトすることからスタートしました。

共同創業者の中屋敷さんが一度目の事業を終えた後、大量の本を読む中で、偉人が亡くなればその叡智に触れられなくなるのは人類にとっての損失だと考えていました。誰もが遺産・知識を自然に共有・発展できる仕組みを作ることができれば、それは人類にとって非常に価値のあることだと感じ、その思想を体現したプロダクトがGlaspになります。元々自分自身も日々の食事や読んだ本などのログを取る習慣があり、中屋敷さんのプロダクトにも共感することができたため、ジョインすることにしました。

※起業の背景については以下の記事をご参照ください。

プロダクトを作成後、どのようにしてユーザーにリーチしましたか?
プロダクトのMVPを作っているとき、アメリカ在住でGlaspに興味を持ってくれたポテンシャルユーザー500〜750名とオンボーディングコールをしました。

Founderのうちのどちらか1人とオンボーディングコールをしないとGlaspにSign upできないような見た目のUIを使って、Waitlistに登録してもらい、最初に想定したユーザーのデモグラフィックに近いポテンシャルユーザーにカレンダーリンクを送り、Zoomを予約してもらうといった流れです。

そして、彼らがどのようにブラウザを使用しているかをスクリーンシェアを通じて観察し、そのフィードバックをプロダクトに反映しました。スクリーンシェアを開始する際には、簡単なアンケートを実施してユーザーの年代や、ブラウザで多くのタブを開くかどうかなど、細かい点を調査しました。


ユーザーインタビューの対象者とはどのようにコネクションを築いていったのでしょうか?

最初にユーザーインタビューを行ったのは、創業者の友人たちからでした。その後、より多くの意見を集めるために、テックイベントに参加したり、Slackのプロダクトマネジメントコミュニティに加入しました。

Slackで特定のbotを作成してコミュニティ内のメンバーにアプローチしたり、LinkedInのグループ機能を使って自動的にダイレクトメッセージを送る方法も取り入れました。さらに、大量のユーザーに効率的にリーチするために、Pythonを使用したスクレイピングでユーザーとの接触を自動化しました。こうすることで、多くのユーザーから迅速にフィードバックを得ることができました。


アメリカで起業したいが人的ネットワークや経験がない場合、どのようなアプローチを取りますか?

まず起業する際には、人的ネットワークが非常に重要になります。ネットワークを作成するために意識していることは相手にGiveをすることです。英語だと「How can I help you?」などは必ず聞きますし、どうやったら相手の役に立てるかを意識して行動することが結果的にコネクションの拡大に繋がると考えています。そのため、まずはGiveの姿勢を続けることが大事だと思います。その結果、人的ネットワークは自然に広がっていきます。


現在の開発体制と生成AI導入時など技術的課題に対する対応方法を教えてください。

現在の開発体制については、(フルタイムの)ファウンダー2名と業務委託のスタッフ2、3名で、主にモバイルアプリとウェブサイトの機能開発を行っています。技術的な課題に直面した際には、周囲のエンジニアやGlaspのテックアドバイザーに支援を求めることが多いです。


起業が失敗する理由に、共同創業者との軋轢が原因というケースが多くあると思いますが、良いチームワークを保つために意識的に行っていることはありますか?

良いチームワークを維持するために、そもそも最初に会った時から波長が合い、共に働きたいと思える人を選ぶようにしています。また、最初に感じる違和感を重要視し、初めから良い関係を築くよう心がけています。

相性がわからない場合は、まずは小規模なプロジェクトを一緒に行うことで相手の働き方や考え方を理解し、その上で本格的な協業を決めることがあります。実際に、共同創業者を見つける過程は困難であり、多くの場合、半年ほどかけて慎重に選ぶことが多いです。


プロダクトドリブンな事業やPMのメディアを運営する中で、技術のキャッチアップとアウトプットに時間がかかると思います。どのようにタイムマネジメントしていますか?また、技術的キャッチアップ方法を教えていただけますか?

特別なことはしていませんが、常に最新の技術記事をチェックすることや、AIイベントへの参加などは意識的に行っています。ただ、英語と日本語の両方の情報源を利用することで、幅広い知識を得ることができ、これがインプットとアウトプットの質を高めるのに役立っています。
※渡辺さんが執筆された記事


なぜアメリカに行こうと思ったのでしょうか?

アメリカへの留学を決めたのは、純粋にアメリカに行ってみたかったからです。ワシントン大学(UW)での正規留学後は、OPT(Optional Practical Training)を経て就職し、その後起業に至りました。また、アメリカで起業したいということであれば語学学校から始めてビザを取得し起業するというルートも考えられます。ただ、資金調達など条件があるため、その点は工夫する必要があります。


シリコンバレーにいる最大のメリットは何ですか?

シリコンバレーの最大のメリットは、アーリーアダプターが多く、革新的なプロダクトが受け入れられやすい環境にあることです。また、Evernoteの創業者やGoogleのエンジニアなど、最先端の技術を持つ人たちが周囲にいることで、常に最新の情報や技術に触れる機会があります。


起業のアプローチとして、どのような戦略をとっていますか?

スタートアップでは、初めにニッチな市場をターゲットにすることを重視しています。大手企業が持つ豊富なリソースに対抗するためには、彼らがまだ手を出していない領域や、大手とは異なる特徴を持つ市場に焦点を当てることが不可欠です。

また、世界で初めての技術などをいち早く導入することで、メディアから注目を集めるようなユニークな特徴を持つことが成功につながります。


起業アイデアの生み出し方について教えてください。

まずは自分が好きなプロダクトやサービスをリストアップします。次に、それらがなぜ好きかを要素分解して何が好きなのか、どういった点に惹かれるのかを明確化させることが大切です。共同創業者がいるのであれば、お互いに共通する点を探し全員が同じ感覚を持てるプロダクトを開発することが大切です。

自分の例だと、Airbnbなのですが、それらは以下の4つの要素に自分が惹かれているからです。
1. Founding storyが面白い。Airbnbはアイデアも奇抜ですし、長い間なかなか跳ねませんでした。初期についたオーナーのためにファウンダーがNYまで飛んで、家の写真を撮っていたり、オバマ大統領の選挙キャンペーンの時にシリアルを配るキャンペーンをやって注目を集めたりとかなり泥臭いことをやっています。そして、Y CombinatorのPaul Grahamに会って話したところ、「お前らゴキブリみたいだな。投資するよ」と言われ、投資が決まったりなど、逸話が多いです。

2. 競合優位性が高い。Airbnbは、家を借りたい人(Demand)と家を貸したい人(Supply)をマッチングさせる、二面性プラットフォームです。この二面性プラットフォームはChicken-egg problemと言って、開始初期はユーザー獲得に苦労します。というのも、家を借りたい人からすれば、借りられる家の掲載が無い・少ないプラットフォームでは探さないですし、家を貸したい人からすれば、家を借りたい人がいないプラットフォームには掲載しないからです。しかし、一度Tipping Pointと呼ばれる閾値を超えると、ネットワークからもたらされる価値が大きくなり、競合に対して強力な優位性・防御力を獲得することができます。

3. ビジネスモデルが良い。Airbnbは家を貸したい人と借りたい人をマッチングさせるプラットフォームで、家自体はオーナーの持ち物です。つまり、Airbnbは家という実際の建物・在庫を抱える必要がなく、コスト面でかなり有利になります。同じ領域にいるホテルはホテルという建物を持たなければならないため、収益力は大きく変わります。また、プラットフォームのユーザー両方から手数料を得ることができ、オーナーに対してはAdを売ることができます。この領域におけるサービスは、Airbnb一強なので、手数料の設定も比較的しやすいでしょう。

4. 世界を変えた。Airbnbが生まれるまでは、知らない人の家に泊まる、また、知らない人に家を貸してお金をもらうというのは非常識でした(CouchSurfingはありましたが)。しかし、今はAirbnbのおかげで、それが常識になりました。実際に世界の人の常識や生活を変えたというのは、非常に面白い仕事だと思います。

これらの要素を自分のビジネスにも取り入れ、独自の価値を提供できるように考えます。また、初めのうちにビジネスモデルを考えておくことが大切です。例えば to C向けのサービスだと一人あたりの単価が低く1ユーザーを獲得するためにかけられるお金は限られています。そのため、いかに多くのユーザーを少ない費用で獲得できるかが大切になってきます。スケールするたびに赤字にならないよう、どういったビジネスモデルだとマネタイズできるのか、その仕組みをプロダクトに早めに落とし込むことが大切です。ただ、起業が単なるお金儲けの手段だとつまらないので、ある程度世の中に必要だと思うもの、自分があったら嬉しいと感じるプロダクトを作る姿勢も大事だと思います。


開発チームの技術スタックはどのようにしていますか?

我々のテックスタックには、Vanilla JS, Next.js, Swift, Kotlin, Rust, GCP, Firebaseなどが含まれています。また、要約等はChatGPTのAPIを活用しています。今後はAI領域のコアを開発するのではなく、まだまだGlaspをスケールさせるために注力していく予定です。


現在の課題について教えてください。

現在、我々が直面している主な課題は2つあります。

まず1つ目は、ユーザーがコンテンツをハイライトする割合が予想よりも少ないことです。サインアップしてくれるユーザー数は多いのですが、中々ハイライト機能などアクティブユーザーになりにくいことが現状の課題として考えられます。

2つ目はインフルエンサーになかなか商品を使ってもらえない点です。インフルエンサーに関しては最初は純粋なアプローチで連絡を取っていましたが、なかなか反応が得られませんでした。そこで、具体的な案件提案として「いくらで行ってくれるか」という内容を提示したところ、返答率が上がったので、連絡手段や内容を工夫しています。また、高額な費用をかけずに認知度を高めるための戦略も模索しています。具体的には、SEO対策やマーケットを調査し効果的にターゲット層にリーチする方法を試行錯誤しています。


最後に


ユーザーに対するアプローチで泥臭く数をこなしてデータを集められている点が印象的でした。
ただ、スタートアップならではの戦略やアメリカという土地で得られるネットワークに関するお話ははとても貴重な経験となりました。
お忙しいところお時間をいただきありがとうございました!

※英語版も公開中です!

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