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功徳

功徳



 お釈迦様の十大弟子の一人だったアヌルッダは、お釈迦様の説法中に居眠りをしてしまったのをお釈迦様に叱られて、それを恥じ、その後、夜も寝ずに目を開けたまま精進したために目を傷め、失明してしまいました。しかしそれと引き換えに清浄な天眼を得、解脱し、「天眼第一」と呼ばれたといわれます。


 この天眼というのは、死後の世界や人の来世、人々の魂の状態など、眼に見えないものを見通す力ですが、天眼は得ても肉眼は失明したままだったため、アヌルッダは日常生活でいろいろと困ることもあったといいます。


 あるときアヌルッダは、自分の衣のほころびを縫い合わせようとしていたのですが、盲目のため、どうしても針に糸を通すことが出来ません。途方にくれたアヌルッダは、周りの長老たちに向かって、こう言いました。

『もろもろの聖者方の中で、どなたか、私のために針に糸を通し、さらに功徳を積もうとする方はおられませんでしょうか。』


 すると、ある者がアヌルッダのそばに近づき、

『私がアヌルッダのために針に糸を通し、功徳を積ませてもらおう』

と言いました。


 それはなんと、お釈迦様の声でした。驚いたアヌルッダは、こう言いました。

『世尊よ。私が先に申しましたのは、もろもろの聖者方の中で、どなたか私のために針に糸を通し、さらに功徳を積もうとする方はおられないかということであって、すでにあらゆる功徳を積まれておられる世尊にお願いしたのではございません。』


 それに対してお釈迦様はこう答えました。

『アヌルッダよ。世間に功徳を求める人は多いが、私以上に功徳を求める者はおるまい。

 私は布施や説法などで多くの功徳を積み、すべての点で不足するところはないが、それでもなお功徳を積もうとしている。それは私自身のためではなく、すべての衆生のためなのである。』


 お釈迦様の偉大な心を知ったアヌルッダは、ただ黙ってお釈迦様に衣のほころびを縫っていただいたのでした。


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