NO DAY,BUT TODAY?【1】

小型特殊免許取得体験記のためにnoteのIDを取得したのですが、他に記事が無いのも寂しいのでアメーバブログで記録していた北海道胆振東部地震の体験記を転載しますその1


2018年9月6日午前3時8分頃に発生した「北海胆振東部地震」を札幌市で体験


まず、私は臆病者です。
ですから、2018年の自然災害の多さには辟易していました。
7月の西日本豪雨災害の直後には簡易トイレを購入していたのですが、続いて台風による関空閉鎖が起き、「次の災害はもしかしたら自分のところかもしれない」という思いが心の何処かにありました。

9月5日は台風21号のせいか、しばし耳の中を刺されるような鋭い痛みと偏頭痛に悩まされていました。
翌9月6日、ハイベッドで寝ていたところをグラっと大きい横揺れを感じて飛び起き、はしごを駆け下りてテーブルの下に潜ると、そこでは遊園地のコーヒーカップのような回転する揺れに襲われました。
しかもなかなか収まらない。
この辺は遭遇した場所と体感が全てだと思うので、「○分揺れた」とか、「実際の震度」の感じ方は人それぞれだと思います。
マンション在住の私の場合は「一番強い揺れで震度5弱とかそのくらい、4は絶対にあるな」という想像をしていました。

そういえばガタガタと何かがぶつかるような音がしてる。
でも少しずつ無くなってきたな。

時間が経って初めてこたつ毛布の内側に居たんだと自覚して、頃合いを見計らって毛布をめくってテーブルから出てみました。
(8月下旬には朝晩冷えるので、当たり前にこたつの準備をしてあった)

そこにあったのは―――別になんてことはないいつもの自分の部屋だったのですが、よく見ると様子が違うことに気づくのはここから数時間後のことです。

揺れは収まったようなのでまず玄関ドアが開くか確認しに行きました。
ドアは無事開いたのですが、共用廊下に設置してある重そうな消火器が床に倒れていました。
そこでやっとこの地震の異常性に気づいたのです。

動揺した私はとりあえずその消火器を起こしてスタンドに置き、自宅に戻る際に、手癖で鍵を閉め直してしまいました。
スマホとwimax2+ルータの電池も充分にあり、一人だったのでSNSでフォロワーさんに助けを求めました。
強い地震の直後に脱出経路を確保するため窓を開けるべきか、マンション上階に住んでいる私には少し躊躇いがあったのです。
開けた途端にガラス窓が落下したらと思うと……
すると「窓より玄関ドアの鍵を開けろ」との助言をいただき(その節はありがとうございました)、そういえばさっき閉めちゃったな、と慌てて鍵を開けにいきました。

このさなかにいつのまにかメガネをかけていたみたいなんですよね。テーブルのケースから取ったみたいなんだけど全く思い出せないし、リモコンでテレビの電源を入れたことだけ妙に記憶にあって、画面で震度を確認する前に余震が来ました。
気づいたらまたテーブルの下ですよ。
それが収まって、今度こそテレビで情報を観ようとしたら電源ランプが赤くなり、

あ、これ知ってる。停電のテレビの消え方だ。ヒューズが飛んだ時と同じだ。

と思ってるうちにすうーっと画面が暗くなっていきました。
すぐに電池式サイリウム(推しの卒コンのためだけに購入し、その後は日常で明かりが必要な時にちょいちょい使用していた)を灯して、

断水も来る! といそいで風呂場で蛇口をひねりましたが、もう手遅れ。配管の中に残っていたらしい水が少し滴り落ちていたのですがすぐに途切れてしまい、諦めてキッチンの方も試してみましたが、同じような結果に終わりました。

これは耐える準備がいるな。
他に家の中でやることあるべかな。

なんか急にやることが思いつかなくなり玄関を開けてみたりすると、共用廊下はまだ照明が落ちていなかった。
そこから窓の向こうの住宅を見ると、チラホラ明かりがついているところもありました。
そんなに耐えなくても良いような気がして、じゃあ余震の対策をしようと思いました。
自宅に戻って靴箱の上(定位置だった)にあった電池式ポータブルラジオのスイッチを入れ、キッチンの戸棚(結構揺れたが棚はしっかり閉まっていた)から新聞紙を出してガスの元栓を閉めてまた玄関へ戻り、スニーカーを履いて新聞紙を床に敷きながらその上を歩いてテーブルの近くへ。
そこで腰を下ろしたら、電気ガス水道については一区切りついた(つもりになった)ので、ホッとしたのか眠気が襲ってきました。

このあたりでラジオから「通電火災の危険性」についての説明を聞きます。
停電中にブレーカー落としてプラグもできるだけ抜いてね! 阪神淡路大震災の火災の原因のほとんどは通電火災だったからね! ということをラジオのアナウンサーは訥々と、5分おきくらいに何度も丁寧に説明しており、火災はやばやばのヤバすぎどころではないのでブレーカーを落として、目につく限りのプラグを抜きました。
でもうちが頑張っても他所の家でそれやってなかったらおしまいじゃん、とは心の何処かで思っていましたが……

聞いていたラジオ番組は15~30分ほどの間隔でアナウンサーが交代し、その時点での道内の被災状況、ライフラインの扱い(ブレーカー落としプラグを抜く、水をできるだけ貯める、ガスの元栓閉める)について繰り返し読み上げるような構成になっており、「自分にできることも得ることもこの番組ではしばらく無さそうだ」と思ったので他局にダイヤルを合わせると、こちらは被災者からの投稿を読み上げる構成になっていました。
そこで、

「マンションですが電気と水道が両方止まってしまいました」
「そう、集合住宅って電気で水を汲み上げるから停電で水道も一緒に止まっちゃうところがあるんだよね」

というやり取りを聞きます。
私はかなり驚き、外も明るくなってきたこともあり、とうとう外に出る決心をしました。
自宅にある飲用水がボトルアイスコーヒーしか無かったのです。普通の水が必要だと思いました。

早朝4時過ぎだったと思います。コンビニしか頼れそうもない時間帯です。
まだ寒いと思ったのでジャージを羽織り、ポケットにさっきまで聞いていた小型ラジオを入れて落とさないようにファスナーを締めて、これまた手癖なのですがミンティアブリーズと買い物袋を持って自宅の玄関を出ました。
さっきまで明るかった共用廊下/玄関が、停電の影響で真っ暗になっていました。オートロックの自動ドアは災害時の動作がそうなっているのか、1センチほどの隙間ができており、素手で開けることが出来ました。
ていうか私以外誰も住人出てこねえんだけど? 逆にどういうことだよ、と思いつつ……

外に出てみると、どこかから非常ベルの音が聞こえる以外に異変は感じられず。
しかし、これはうちの近所だけの話でした。

自宅から一番近いコンビニへ行きました。信号機が止まっているので交通整理の人があちこちに立っています。
大きい通りには十数人くらい、近所の人と思しき軽装の方々が歩いていました。

しかし驚いたのは、子犬の散歩をしている人もいること。
子犬ですから人間よりも相当大きな揺れを感じたはずです。だから散歩を嫌がると思うのですが、普通に飼い主を先導してトコトコ歩いていました。
犬にも正常性バイアスがかかるんですかね?
研究機関の人ちょっと調べてみてほしいな、と思いました。

「……ねえあの奥の方、道が歪んでないかい」
「あー、そうだよねえ」

おばちゃんたちのそんな会話を聞きながらコンビニへ……途中、道路に多くの亀裂が入っているのを見かけて早足になりつつ。

1軒目はシャッターが降りていて営業していませんでした。
同じ通りにある別の店へ行こうとすると、向こうから自転車に乗ったおっちゃんや少年たちがキョロキョロしながらのったらくったら漕いできます。危ねえし邪魔くせえ、と思いながらすれ違いました。
(余談ですが地震当日自転車に乗っていたのは中年男性や少年ばかりでした。精神年齢はみんな同じなのかもしれないね)

2軒目のコンビニも残念ながら閉まっていました。
即割り切って、別チェーンの店へ。

道中、信号機が無く交通整理の人も居ない交差点もありましたが、車の流れは非常にスムーズでした。
一台だけクラクションを鳴らしながら車間の隙間を縫って猛スピードで走っていきましたが、急病人が乗っていたのかもしれません。

2軒目にしてようやく開いている店に到着です。そこはセブンイレブンでした。
駐車場はほとんど埋まっており、店の入口前に人がなんとなく集まっている中を割って入ると、

ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

という何かの警告ブザーが鳴りっぱなしの中、灯りのない店の外周通路(雑誌コーナ前→ドリンクコーナー前→日配コーナー前→レジまで)に多くの人が一列で並んでいる状態でした。

諦めて出ようかと思いましたが、今から他店に行っても同じような状況かもしれません。
私の目的は水だけだったのでドリンクコーナーへ向かい、並んでいる人に頭を下げながらガラス越しに商品を探しました。コーヒー飲料、紅茶、酒類、炭酸飲料は残っているものの、飲用水、ヨーグリーナやいろはすと言ったフレーバー水の類も残っていませんでした。
お茶なんかも見当たらなかった気がします。
それでも諦めきれずにスイマセンスイマセンと断りつつ棚をギロギロ見ていると(目が悪いんです)、誰かが500mlペットボトルを2本棚に戻しました。
それは三ツ矢サイダーでした。

透明だったこともあり、いざという時は炭酸抜きで行けるかなと思って、その2本は私がいただくことにしました。
そして会計列の最後尾をほぼ空っぽの商品棚を見ながら探したのですが、どこにあるのやら。
この時すでに雑誌コーナーが最後尾だったはずの列は店内側へ折れてガムやタブレットの棚の前に来ていました。つまり二周目になろうとしていたのです。

「すいません最後尾ってどこ?」
そう小柄なおばあちゃんが近くの人に聞いていたのでやっと場所がわかり、私はそのおばあちゃんの後ろにつくことになりました。

「ねえ、大変な並びだねえ」
「そうですね」
「どっこも開いてなくて。やっとこだよ」
「えっそうなんですか、○○とか開いてなかったんですか?」
「店員みたいな人が待ち構えてて、入ろうとすると今日は開けられませんって」
「ええー(行かなくてよかった……)」
「ここで何かしら買って、そしたらこれから仕事」
「仕事? 停電なのに仕事行けるんですか。近いんですか」
「近いの。○○病院でね、配膳の仕事なのよ」
「ああー、病院が職場だと避難場所としてなら良いですねーw」
「うふふそうなのかねえ。でも息子と娘いるからね。あと猫、2匹いるの」
「えっ猫いるんですか? 猫好きなんですよ! 何歳と何歳なんですか?」
「2歳と10歳で、揺れてから怖がって奥の方に隠れて出てこなくなっちゃったのよ」
「あら~。あ、キャットフードありますよ。買います?」
「うーん娘が買ってきてるのがあるから、フードはいらないわ」

並んでると暇なのもあって色々聞いてしまい、結局最後は気遣いが空振りになってしまいましたが。
そんなキャットフードの辺り(コンビニのレイアウト的に言うと、ドリンク棚の前辺り)で、私服の店員さんがコンテナを抱えてこちらに来て
「乳製品ほしい方居ますかー!? ヨーグルト、ゼリー、ジュースありまーす!」
と大声で教えてくれました。
コンテナの中に紙パックのピルクルがあったのでそれを一つもらい、両手がふさがって辛くなってきたのでおばあちゃんに
「盗まないか見ていてくださいね。カゴがないから一旦手持ちの袋に入れますよ? はい! 入れましたー」
などと手品師のようなことを言いながら、三ツ矢サイダーとピルクルを買い物袋に入れました。
と、その直後に余震が発生。誰かの緊急地震速報アラームや悲鳴とともに店の中が大きく揺れたので、私はドリンク棚のガラス戸に空いたばかりの右手をべったりとついてしまいました。
店の中の商品がほとんど無かったので、この余震で目立った被害はありませんでした。

列がドリンクコーナーと日配品がぶつかる角のところに差し掛かると、従業員専用扉の向こうから2人の男性の声が。

「よし、あと20分だな!?」
「はい」
「2つともだな!?」
「はい、2つとも!」

そしてそこから店員が出てきて、大声でたくさんの客に向かって話し始めます。

「皆さんすみません!
 レジの電源が2台ともあと20分で切れます! 申し訳ございません!」

レジは非常電源(自家発電?)で動いていたということなんでしょう。
今思うとそこで電源が切れた「後」のことを何一つ言っていなかったので、だから察して帰れよ、という含みがあったのかもしれません。
私は間に合いそうな位置だったので、そのまま待機していました。

そしていよいよ会計が近くなってきた頃、なにやらムッとした暑さを感じるようになりました。
陽が昇って気温が上がってきたのかもしれないし、店内に客が多すぎるせいかもしれないし、レジが頑張っているせいかもしれない。
ポケットのミンティアを一つ口に入れてやり過ごしました。
前のおばあちゃんが真剣にほぼ空っぽの日配品コーナーを見始めます。

「お漬物とか買ってもねえ」
「常温じゃちょっと保たないかもしれないですね」

そこで棚の下の方を見ると、真空パックの厚焼き卵があったのでそれを取って見せ

「卵焼きありますよ、これいいんじゃないですか」
「あ、これいいね、切れてるんだって。これ買っておこう」
「私も買おうっと。ウィンナーも火が通ってるからいけるなー」

そんな訳で私はレジで飲み物3本と、おつまみ的な三角のパッケージのウィンナーとあらかじめ切れてる厚焼き卵を買って、セブンイレブンを出ました。
おばあちゃんとはレジ前で別れたので、それ以来会っていません。
また会ったとしても、きっとわからないでしょう。

そして、今回の地震の恐ろしさを一番思い知ったのはこの買い物の帰り道でした。

ある一軒家の玄関前に誰かが座り込んでいました。
中学生くらいの男の子で、焦点の定まらない目で一生懸命自分の腰に虎ロープを巻き付けていました。
そのロープの先がどこに繋がっているのか、私の位置から確認することはできませんでした。
あるアパートは白い外壁が2階部分から崩落し、モルタル部分が見えていました。
またあるアパートの1階の窓の前には木箱が積まれており、住人と思しき女性2人が外れてしまった窓枠を持って、木箱を足場にしながら再度嵌め込もうとしていました。
それから、積雪に強いはずの屋根付きガレージが、地面にめり込んで傾いているのを見ました。

こうした通りすがりの不安定さの方が他の何よりも強く印象に残り、ちょっと寒気をおぼえながら家に帰ると、タンスの引き出しが全て開いていて。
アイリスオーヤマのプラスチック製品で軽いものを選んだのですが、強い揺れで引き出しのローラーが動いたおかげで倒れなかったんだ、と思いました。
というより、ここまで全く気づかなかったのが驚きです。

(続)

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